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よろしくお願いします。

 都市フィーア近郊の町、ラインハート。

 あれからラズは、一人馬車に揺られてこの町に来た。

 フレアとレテの二人は、別のラズより速い馬車で移動した。何でも、あの白い固形物を分析するとか何とか。

 それで、ゆっくり来たラズは、ここでキリトと待ち合わせをしていたわけだが。

「きゃー、助けて」

「この、女よくもこの勇者ラゼル様をコケにしやがって」

 柄の悪い風体の自称勇者様がが美少女を追いかけている……ように見える。

 それを見てラズは目を背けたい衝動に駆られた。

 そう、その追いかけられている美少女は女装したキリトであったのだ!。

 追いかけている男の風体をラズは観察する。

 むきむきで頭が禿げていて、胸毛にひげも生やした、肩にはとげ付きの肩ぱっとという、お決まりな悪役っぽい勇者。

 とてもとても強そうではあるのだが……なんだかなとラズは思う。

 と、その美少女のような生き物であるキリトにラズは見つかった。

 小さく呻いて逃げ出そうとするラズにキリトが、一目散にこちらに駆け寄って抱きついた。

「ラズ、助けて!」

「何だてめえは!」

 怒鳴りつけてくる悪役。そんな彼らにキリトが、

「彼氏です!」

「いや……」

 だが、ラズが反論するっもなく、

「そこの女が、俺様が誘ってやったら仲間の二人にけりを入れやがった。その落とし前を付けてもらおうか!」

 と、そのハゲがとげ付き鉄球を投げてくる。

 その様子を見に集まる見物人達。

――警察呼んでくれよ……。

 そんな見ている暇があるんだったらさとラズは心の中で毒づいた。が、

「きゃー、ラズがんばって」

 霧とは少し安全そうな場所でラズを応援している。しかも、

「キリトはいつも以上に高い声出しやがるとか」

 再びとげ付き鉄球を振り回す、ハゲ。

「ぐへへへ、この俺様に……ぐふ」

 ポケットから出した、硝子玉、睡眠の“輝石”を投げて発動させる。

 一瞬で三人は眠った。

 誰が真面目に相手をするものか。

「さあ行くぞ、キリト。あ、後はよろしくお願いします」

 見物人にそう言って、キリトの腕を掴み、唖然とする見物客を掻き分けてラズは立ち去る。

「あそこでかっこよく倒せば良かったのに。ラズは出来るでしょう?」

「そこらはお得意の文章でよろしく」

「もう一人の勇者は、もっとそういう感じなんだけれどね……」

「俺は俺だ」

「確かにラズらしいよね」

「で、何処に行くんだ?。宿屋か?」

「そうだね、部屋で話そうか。あと、エルはいる?」

「ここにいるよ」

 ひょっこりと、駄目な猫が現れた。

「酷いよラズ、一生懸命やっているのに」

「そうですラズ、酷いです」

 二人そろって、一番の功労者たるラズをからかいやがる。

 もう本当に勇者やめたいなと嘆きながら、文句を言うのは後にして、近くの宿で受付を済まして部屋へと入る。

 受付の傍に食堂があるので、そこで冷たい飲み物を二つほど注文し、受け取り、部屋で飲む事を伝えると、後でここに食器を返してくれと言われた。

 グラスの周りに水滴がうっすらと付いている。今日は少し暑い。

「まずは、“眠りの谷”の件はご苦労様。その前の村での話も聞かせてもらいたいな」

 部屋にある、窓から少し離れた場所の机に向かい合うように座り、キリトが言った。なので、ラズは説明を始めた。

――ラズ説明中――

「後は適当に書いてくれ」

「当たり前だけど地味だね……ま、脚色しがいがあるけれどね」

「壊したりは、予算の関係でできないんだろう?。怪我したくないから、危ないこともしたくないし」

「うーん、あっちの勇者は結構派手だけれどね」

「俺は一般人なんだ。大体、言葉づかいまで強制されてるんだから、そこらは大目に見てくれ」

「勇者マニュアル話し方編だっけ。①一人称は僕ではなく俺、②年上の人にも敬語を使わない、などなどーの」

「あれ覚えて幾らか使えるようになるのに一ヶ月かかったんだぞ! 何でこんなことしなくちゃいけないんだ……。きちんと年上には敬語だって使えるしゴマすりだって出来るのに……」

「勇者のイメージアップだよねー。こう、一般の読者様の受けがいいように」

「最近思うんだが、その一般の読者様の定義が間違っているような気がするんだが」

「ははは、でもねラズ。君も分かっていると思うけれど、ある程度ありえないような話にしておいた方が、誤魔化し易いんだよ。嘘の中に本当のことを少し混ぜたり、別の方向に話を誘導したり、そのための僕の脚色なんだよ」

 真剣な表情で、キリトがラズを諭す。

 それを聞きながら含む意味を理解して、ラズは悲しげに嘆息した。

「分かっているさ、そんなこと。それに、本命はもう一人の勇者なんだろう?」

「そうらしいね、でも僕は、彼は君にはどうやっても勝てないと思っているんだ。昔君に助けてもらったこともあるし、その時のことを考えるとね」

「……そういえばその事を誰かに話したか?」

「話してはいないよ。ただ、観測はされていたから、一部の人たちは知っているんじゃないかな。でもこちら側の人達だと思う」

「そうか、いや、少し気になって」

「それは……いや、何でもない」

「なんだよ、歯切れが悪いな」

「いや、それよりも一つ面白いことが分かったよ。ラズに関係がある、非常に面白いことが」

 ラズは嫌な予感がした。

「この間ラズがはじめに作った卒業研究があるだろう?」

「ああ、あれ。どんな病気でも治せる方法だが、計算してみたら、約千人分の命が必要ということが分かったアレかー。悪夢だ」

「本当にね、黒ずくめの集団が突然押しかけてきてラズを連れて行ったと思ったら、3ヶ月後に戻ってきて、その記憶がごっそり抜けてるとか」

「そこら辺は覚えてないからまだいいんだ。問題なのは卒業研究を10日で初めから作らなきゃいけなくなったんだ。死ぬかと思った。あんな、あんな恐ろしい思いは二度としたくない」

「あれは大変だったねー」

「その節はお世話になりました。そもそも学生の研究に、何本気になっているんだよ」

「夢見がちなことを言っていても、出来る事と出来ない事があるからね」

「倒せないラスポス、キョウジュー、と戦うのは悪夢だ」

「僕だって思い出したくないよ」

 お互い、ため息をついた。

 あのキョウジューとの戦いの前に散っていたもの達は数知れず。

 あまたの学生達の屍の山で高笑いをするキョウジューというラスボス。

 思い出すのが苦痛になってきたので、とりあえず忘れようとラズは嘆息した。

 そこでキリトは真剣な顔になって、

「それよりその、ラズの封印された術式が何者かにこじ開けられた形跡があるんだよね」

「誰かが使おうとしているってことか?」

「そうだね。それで、どうもイリス教団が関わっているんじゃないかって話なんだ。そして、誘拐犯も、ね」

「どういうことだ?」

「以前の村で、“ヒトモドキ”というものが使われただろう?。あれはイリス教団の研究所で保管されたものらしい」

「……レテはそんなこと言ってなかったぞ」

 もう少しこっちに話してくれても良いのにと思うも、それにキリトは肩をすくめて、

「あちらの内部で情報統制があったから、彼女の耳に届かなかったのかもね。それに、彼女は“女神様”の操り人形だから、それほどこちらからは情報を提供できないさ。もっとも彼女は“女神様”関係で色々あってこちらと協力関係にあるんだけれどね」

「……今話して大丈夫か?」

「問題ないでしょう。あちらにある程度筒抜けだし、今回のこれらの件はこちら側でも、“女神様”側でもないからね」

 暗に“女神様”に聞かれても大丈夫というキリト。

 それにラズは少し考えてから、

「でもそうか、レテが……なら、あのペンダントをあげたことは正解だったかな」

「どんな?」

「“魔力石”のペンダントで、俺の力を入れてある」

「他の魔力を蓄積できるやつか。確かにいいかもね。というか、女の子にペンダントをプレゼントなんて、ラズも色気づいてきたねー」

「いいじゃないか。もう一人の勇者は、女の子に囲まれてウハウハなんだろう?」

「いや、うん。確かにそうだけど、実際ハーレムって見ると、何というかな、あれだね……」

 言葉を濁すキリト。

 そういえばもう一人の勇者が何をやっているのかラズは知らない。

 知っているのはこっちにまわる予算が少なくなった事位だ。

「そういえば、もう一人の勇者って何やってるんだ?」

 その途端、キリトがふっと遠くを見る目をした。

「基本女の子といちゃいちゃしてるけれど、確かこの前は、魔王に挑んでたかな。勇者たるものーって」

 魔王と聞いて、先ほどまで大人しかったエルがピクリと反応する。

 そしてラズも、なんだか疲れてしまった。

 結果が分かっているからだ。

「……負けたんだろう?。勇者が」

「言わせるな、恥ずかしい!」

「デスヨネー」

 冷たい飲み物に口をつける。甘いミントティーが喉を通り過ぎた。

 爽やかな香り。

「話は大体そこまでかな。次も一週間後だけれど、フィーアで私的に会うことがあるかも。あと、僕はエルと話があるからお暇するよ」

「ついでにお願いなんだが、あんまり悶絶するようなことは書かないでくれ。俺という人格が凄い事になるのは勘弁してくれ」

「善処するよ」

 やらないよと暗に言って、手をひらひらと振り出て行くキリト。

 それに付き添う形で、エルがにゃあとひと鳴きして追いかけていく。

 それを見送ってから、ふとラズはある事に気が付いた。

「飲み物片付けてないじゃん」

 ため息をついて、ラズは自分の方の飲み物を一気に飲みほし、グラスを食堂へと持っていった。

 その時窓から、エルとキリトが何やら真剣に話していた。声はここから聞こえない。

 かといって盗み聞きするのもなんなので、ラズはもと来た部屋に戻る。

 なんだかんだで連日の馬車移動は疲れるのだ。ゆっくりと揺れない場所で寝たかった。

 そのまま、ラズはベットに転がり込むと、すぐに睡魔が襲ってきた。

―ー場所は変わって――

 ラズのいない場所で、キリトはエルに聞いていた。

「さっきも心の中で話しかけたけれど、ラズの瞳が金色から紫色になっていたけれど、どういうことだい?」

「そうなのかい?。道理で“女神”の気配がすると思ったら、そこか」

「ラズは“女神様”にとって扱いやすいと思われているのかな……。もっともそれは、僕からすれば、間違いとしか思えないけれどね」

「うーん、そうなのかい?。僕には非常にラズは弱く見えるけれど」

「そのうちわかるよ。案外魔者も大した事無いな」

「そうかい。じゃあ、僕もそろそろ報告に行かないと」

「僕もだよ、また後で」

 二人の姿が消えたのだった。

 そのエルを捜して次の日、町中をラズは探すこととなる。


 いなくなるときは必ず声をかけましょう。


次も、よろしくお願いします。

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