トラウマ
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「昨日はお楽しみだったみたいね」
不機嫌そうにレテが訪ねてきたのは次の日の朝のことだった。
何の事だと言い返そうとして、エルの方ををどういう事だと心の中でラズは問いかけるも、
「にゃあ」
と、一声鳴いたまま、前足で顔をかいていた。
何でこんな時、駄目な意味で猫にもどるのだろうとラズは心の中で毒ずくも、エルは黙ったままだった。
「……初めからいた怪物が、後から来た怪物と戦う話とか」
「どうやって、は聞かなくていいわね。他には?」
「都市の機能の実際に使い方が分かっている部分は20%だそうだ」
「他には?」
「それくらいかな……」
「そう、メンテナンスの仕方とかは?」
「使い方しか分からないから無理、だそうだ。で、今は、恐らくは技術が幼過ぎて理解できないだろう、とのことだ」
「何で過去の人が未来の事が分かるのよ。予知能力でも持っているっていうの?」
「予知能力を持っている人なんて……極稀にいるかもしれないが、大体の場合、予測しているだけだ。もしくは別の理由で手を打ったらたまたま別のことに役に立ったとかその程度だろう。人はきちんと理由を説明しないと、人は基本的に臆病だから、予知とか人の心を読んだとか言い出すから始末に終えない。もっとも、話を聞かない奴は知らん」
「……何か嫌なことでもあったの?」
「説明しても周りの奴が理解してくれなければ、物事は進まないのさ。頼むから勉強してくれって、何度思ったことか。説明することの限界とか……やっぱり基礎が大事だよ。きっと天才ていうのは、初めから天才じゃないんだな」
「飛び級した天才がなに言っているんだか」
「中学時代にそのことに気づいたんだ。俺は天才じゃないって。非常に平凡なのだと」
「……分かったから。心の傷えぐって、私が悪かったわ。それで、メンテナンスのヒントになりそうなことは何かない?」
「いっていることがさっぱり分からなくて、まったく記憶に残っていません」
自信を持って、どや顔でラズは宣言した。それにレテはじと目でラズを見ていたが、
「「使えないわね」って、心の中で思っているよ」
「こういう時だけこの駄目な猫は話すわけね!」
「ほほをひっぱるn……tえyう……」
微笑ましい光景を見て、ラズは平和っていいなと思った。
ひとしきり、その喧嘩を堪能した後、レテがぽつりと言った。
「その、遺跡の操作がやけに簡単そうだったのが引っかかるのよ」
「……まさか、簡単じゃないかといっている奴らがいるのか?」
「まあ、ね」
「例えば、測定の手順を少なくしたり改良で精度をよくしたりするだろう?、それを“簡単”だと表現したりするわけだが、あほな奴の場合“簡単”を手順が少なくて楽という、そうだな、ぽちっと押せば測定できるとか言い出すんだ。確かに、ぽちっと押せば測定できるな。魔法電源入れなきゃ装置は動かないもんな」
黒く、くくくと笑うラズを見て、何か地雷をまた一つ踏んだことに気づいた。
「でも、そんなにそういう人達がいるわけじゃないの?」
レテはフォローをするも、さらにラズは黒く笑って、
「……聞きたいか?」
と、のたまうので、レテもいい加減面倒くさくなって、
「それより、何で未来のことが分かるのよ。その説明をしてよ」
「異界通信ができないとまず無理。技術レベルで考えて」
聞いてみると、答えは至極単純で。
そもそも異界が何処にあるのかすら現在分らない。
ただあるらしい事は分っているレベルだ。
「だったらもっと早くそういいなさいよ!、まったく……聞くことは聞いたから、もう行くわ。出発は夕方五時だからそれまでに準備しておいて」
ため息をついて、用はもうないという風に去ろうとするレテに、
「そのペンダント、付けてくれているんだな」
その途端レテが顔を真っ赤にして、走り去っていった。
「いいものをみたなあ」
「本当だねー」
「所で駄目猫、聞きたい事があるんだが」
話が違うじゃないですかー、という感覚だったラズは、
「人が眠るように、僕は昨日セットしたんだ。それで起きていた事を知っているってことは人で無いという事さ」
「レテが、か」
「うん、“女神”の力はここら一帯には及び難いから、そういうことになると思う」
「ペンダントに、俺の力を入れておいたんだが」
「関係ないよ。人に作用する魔法だから」
「そうか……それで、エルはあいつの前で黙っていたのか?」
「うん、それもあるけれど、基本的にイリス教団は一枚岩でないとしても、信用ができない。あそこは“女神”の支配下だから」
「まあそうだが、“女神”がどの程度情報を処理できるのかね」
「どういう意味だい?」
「俺は今目の前の光景を見ているけれど、覚えたり話したり後で出来るのは、すぐそこに果物屋があったってことぐらいだろうって話さ」
エルは黙ってしまった。知ろうと思えば知ったり分かったり出来るけれど、それをどうするかはまた別の話。
「ラズ、君は本当に面白いよ、本当にね」
それから、ぶらぶらと二人は観光を始める。
そのために馬車に遅れそうになったのはまた、別の話。
次もよろしくお願いします




