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そういう事にしておく

暑すぎてバテたでござる。

今日からはまた連日更新予定ですのでよろしくお願いします。

「で、この成長した少女は何なんだ?」

 部屋の扉を閉めて、ラズは間合いを取りつつ、エルに話しかける。

「あの女の子は、俺が昨日会った子で間違いないな?」

「そうだよ。何故ああなったのか知りたいんだね」

「ああ、もしも……」

「“肥沃の種”って知っているかい?」

「?、いや」

「今は禁止された薬物の一種で、5-6歳の子供に投与すると、初期状態では、魔力、身体能力が異常に上がるんだ。次に成長が始まり、魔力が最大になる年齢まで急激に成長し、その個人にあった魔法を呪文なしで放出し死ぬんだ」

「死、って、元に戻す方法は?」

「ない。僕も昔、魔王軍にいたとき人間側がそれを投与した子供を送り込んできて大変だった。それを使っていたのがイリス教団なのだから、可笑しくてたまらないよ。とはいえ僕達の方も、爆弾を放り込まれるようなものだから面倒ではあったね。陣地や城に放り込無のに使われることが多かった気がするな。治癒能力も高くてちょっとした攻撃も効かないしね」

「あの子はまだ死んでない」

「でも、もうすぐ死ぬだろうね。何もしなければ。あと、ここは“女神”も含めて、僕とラズ以外の目が届かない場所だから」

「……わかった」

 ラズはぐっと手に力を入れ、目を閉じる。

 その子がいる場所を意識し、力をこめる。

 ここだと、目をかっと見開いた。

 紫色の瞳が金色に輝く。

 次の瞬間、少女が昨日見た背丈に戻り、すぐ傍に、白い楕円形状の固形物が四つと、文様の描かれた円形のプレートが落ちる。

 少女は動かない。

 様子を見にラズは近づき、脈を測る。

 生きている。

「大丈夫そうだね」

「他の子供達にも?」

「いや、匂いと思考から、この子だけだね」

「……さっき、俺とフレアが魔物と戦っていたとき放って置いたのも、この子の薬が効くのを待っていたのか?」

「そうしないと、君は彼女をみすみす死なせる事になったはずだけど、それでいいの?」

「いや、考えてならいいんだ」

「君の味方をするように言われているからね。個人的に君の事も気に入っているし。君の先祖とも仲がよかったし。それと、力もこの目で確認したかったし」

 先祖と言われて、ラズは嫌な予感が的中した。が、

「そこらへんの説明は後でするよ。今は、その子の薬とプレートを回収して、薬はレテに渡すといい。信用するかどうかは別として。でも、プレートはリースに渡すんだね。ようやく見つけられたんだから」

「元々こちら側のものって事か。なら、この子は持っていなかったって事でいいな。ここは誰にも見られていないんだろう?」

「そうだね。どの道、そのプレートを“女神”は何処にあるか、目で直接見なければ知覚はできないんだけれどね」

 ラズはその話を聞きながら薬を拾い、端の部分を僅かに爪で引っかいた。その薬を布で包み、別の布の中央部で手を拭き、丁寧に折りたたむ。

 次に傍に落ちていたプレートを持ち、模様を観察する。昨日ラズが作ったものと逆の形をした文様だった。

「そのプレートが無いとこちらに入れないし、常人はここの時間の影響を受けてしまうんだ」

ラズはちらりと壁を見て、

「でも、エル自身はここを制御していただろう。エルがここに入った瞬間遺跡から感じる力も変わったし、何より扉を開けていたしな」

「うん、やっぱり君達はあの人達の子孫だよ。教わっていないのにここの使い方も分かっているようだし、“血”かな?」

「それだけではなく、思考回路が似ているのもあるんだろうな。子供は親に似るわけだし」

 ラズは、少女を背負う。

「取りあえずこの子を外に出そう。隣の部屋に戻って……は無理か」

「そうだね、今頃大きな池になっているだろうね。もっとも、そこの部屋は“女神”が少しは紛れ込めるように作ってある部屋の一つだけれどね」

「そういうどろどろした話はおいておいて、出るにはどうしたらいい?」

「昨日作るよう言っておいたプレート、それを使えば外に出られるよ。あの石の前で、そのプレートにあの力をこめて石にぶつかればね」

 エルの指差す先には、あの少女が消えた石の柱と逆の模様が彫られた柱がある。

 ラズは作ったプレートに力をこめる。

「エル、行くぞ」

「あ、僕は後で別のルートで行くよ。ここの遺跡内の時間の流れを遅くしておかないといけないからね」

「……お前、本当に魔者か?」

「ずいぶん昔に“女神”の枠の外に、君のご先祖様にしてもらった事があるから、正確に言うと違うかもね」

「……聞くんじゃなかった」

「因果は、何処に繋がっているか分からないね」

「まったくだ」

 ため息をつき、ラズは石に手を触れるも、中にもぐりこむ。

 感触が無く空気のようで気持ちが悪い。不安なせいかもしれない。この妙なプレートを使っているからかもしれない。だから違和感を感じるのか。

 不安に思っていえも仕方が無いので、一気に頭を突っ込み、走る。

 目を閉じていたからか誰かにぶつかっ手押し倒した。

 目を閉じていても日の光を感じるため、外に出たと安心してゆっくり目を見開く。

 ラズの下に、レテがいた。

 そういえば手にやわらかい感触があるような気がする。

「すまん、悪気は無かったんだ!」

 慌てて手をラズはどけるが、レテは反応しない。

 顔を覗き込むと、目に光が無い。

 どうしようかと思って、軽く、ぺちぺちほほを叩く。すると、

「なにするのよ!」

 いきなりレテが殴りかかってきたので、ラズはさっとよけた。

「ははは、素直に殴られてやると思うなよ!」

「本当にムカツクはね、あんた。……そのこが誘拐された子ね。その子何か持っていなかった?」

「これのことか?」

 ラズは白い錠剤を包んだ布を、レテに渡した。

「何か分かったら、教えてくれ」

「どんな答えになるか分からないけど、結果が分かれば報告するわ。あと、一応聞いておくけれど、他には?」

 一応という言葉に、ラズはにいっと笑った。

「それだけだぞ?」

 その答えに、レテもまた悪い笑顔で、

「そう報告しておくわ」

 と答える。そして、ふときになったようで、

「ここを出る時の理由を考えておかないと。どうやって転送されたか」

「それはこのプレートなんだが……て」

 ラズが取り出した脱出用のプレートが砂となり、風でさらさらと飛んでいってしまった。

「……遺跡内で見つけたそれのおかげででれたけれど、外に出したらその負荷に耐えられず風化してしまったと、それでいいかしら」

「いいんじゃないか?。半分は本当のことだし」

「ついでに、子供達が誘拐されてから一日しか経っていないという事になっているから」

「……どういうことだ?」

「そのままの意味。そして、誘拐など無かった、子供達がたまたま遺跡の禁止区域に入って迷ってしまった、で通すから。ここに何かあるということ自体を知られるわけにはいかない」

「もう皆知っているんじゃないのか?」

「今日あった事も全て書き換えは済んでる、それらしく辻褄が合うようにしてあるから問題ないわ」

 さらりとレテは、記憶操作を行った事を話した。

 あまり関わるな、と暗に言っている。 

 ラズも、記憶をいじられるのは出来れば勘弁してほしかった。これ以上は、面倒くさい。

「フレアさん達はどうした?」

「……姉さんは寝てるわ、力を使いすぎたみたい」

「そうか」

「じゃあ、私はこれでいくわね、明日にはまた移動するから」

「え、もうか?」

「勇者に休みはないの。人助けは大切よ?」

 そういって、ふふと笑うレテの瞳からゆっくりと光が消えていく。依然感じた気持ち悪さを、ラズはひしひし感じる。

 そこでラズは思いついて、フレア用に買ったペンダントに力をこめる。

 きびすを返そうとしたレテに向かって投げた。

「受け取れ」

 驚いた様にそれを掴んで、じっとそれを見つめる。

 ただのペンダントにしか、レテは見えなっただろうが。

「これは?」

「日頃の感謝もこめて。そうやって少しは女の子らしくしろよ?」

「どういう意味よ……でも、ありがとう」

 レテは花がほころぶように笑った。

 そして、小走りで去っていくレテをラズは見送る。

 意図にきづいてなのか、アクセサリーとして気に入ってくれたのか、ラズにはいまいち分からなかったが。

 彼女の手元にある分には問題ない。それに、

「……あんなに嬉しそうな顔すると思わなかった」

 買った意味があるかなとらずも嬉しくなる。

 そしてラズも、道に迷いつつ宿屋絵と帰り、ベットに倒れこんだ。

 エルがラズの元に帰って来たのは、日付が変わった頃だった。

次もよろしくお願いします。

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