罠と踊る
連日投稿中。今回戦闘シーンばっか。次回も戦闘シーンの予定。ファンタジーに突き進むのが止まらない。コメディ目指してたのにー。
次もよろしくお願いいたします。
壁にぶつかる魔物の声が扉を隔てて聞こえる。だが、ここには入れない。
二人がいるのは、広い場所だった。
床一面に幾つもの小さな魔方陣と大きな魔方陣が二つ。輝く天井は円錐形となっており、地面を照らしている。
魔方陣の色も、赤や青といった極彩色で彩られ、緻密な模様を描き出していた。
「凄いね。これ」
そっと、フレアが魔法陣の端に触れた。
ただそれだけだった。
------------------------------------キィッ
耳をふさぎたくなるような、大きく高い音が鳴り響く。同時に天井が赤く、三回点滅し、天井の明かりが消えた。
その三角錐の天井の頂点から、一瞬一筋の光が走った。
同時に、水色の光が魔法陣の線を走るように灯る。
輝きだした魔方陣から小さい光の球が浮き、それが辺りを照らす明かりになる。
その小さな光の玉に、ラズは触れるも特に問題はなさそうだと判断した。
ひときわ大きく魔方陣が輝く。陣の中の模様が、まるで生き物であるがごとく動き出す。
その光が壁に模様を映し出し、それが熱狂し踊り狂う人々のようだった。
魔法陣の中心から、黒い爪が見える。ラズの右腕はあろうかという爪。
ラズはあの爪に覚えがある。
――黒爪の竜“ナイトメア”。
古来より数多の都市を滅ぼした、炎の魔物。
しかし、この魔物は魔王が生まれるたびに一匹しか生まれない。
当代の魔王が生じた事により生みおとされたかの魔物は、当の昔に、実害が出る前にラズが倒した筈だった。
ならばこれは……保存されていた?。
「青と黄色の呪符を使って、a.e.r.a.u.t.輝ける風よ、揺らぎ、移ろい、かの敵を刻め“風の刃”」
フレアの風の魔法が解き放たれる。百はあろうかという風の刃が、魔物へと向かう。
常人では、呪符の力を借りてもせいぜい十かそこら。大きな魔力を持っているのは確からしい、と考えたところでラズの思考は一瞬止まった。
その風の刃は、その魔物をすり抜け、風に激突した。
だが、壁は傷が付くどころか、爆風すらも起きない。
また、風の刃による空気の揺らぎがあったにもかかわらず、壁を踊る光の線は曲がることは無かった。
「直進性の強い光。本当に、古代の技術なのか!」
ラズは、試しに剣……かの“猛禽類の剣”で魔方陣の線を傷つける。
しかし、魔物はゆっくりと姿をあらわし続けている。
「そうか、この光の玉も、上から見れば魔方陣を描いていることに!」
「なら、もう一度呪符で、と、a.e.r.a.u.t.輝ける風よ、揺らぎ、移ろい、集まれ“風の渦”」
小さな竜巻が生まれる。だが、その風の渦に光は影響されない。
「触れることでしか消せないが……次から次えと生まれるから追いつかない」
そこで、“猛禽類の剣”を地面から抜くと、床が再生していく。
「自己再生機能付きか。本当に、どんな技術レベルだよ。それにしても」
やけに、“ナイトメア”の割りに大人しくないか?。
「その疑問は正しいと思うよ」
壁の端の何処と無く安全そうな場所にエルは移動していた。
「……少しは手伝え。それに、これは“ナイトメア”でないという事か?」
「魔物という意味では“ナイトメア”だよ。がんばれラズ。僕は応援しているから」
「どうしてここぞという時に……」
魔物の全体がとうとう魔法陣から出てしまった。
“ナイトメア”は首をゆっくりと上に向け、
「w.s.t.i.d.s.静かなる水、依り、砕け、満ちる“氷の壁”」
ラズは、呪文を唱えた。
魔物が、炎を放出するのと、ラズが氷の結界を生じされるのはほぼ同時だった。
厚い氷の結界が瞬時に溶けて、水、そして蒸気へと変わる。
薄くなった氷の結界を見て、ラズは舌打ちする。
――1回防御しただけでこれか!
以前戦ったときは、一人であったので防御なんて考えなくても良かった。
制約条件が多すぎる。
再び、魔物が首を上に向ける。
「くそ、呪文を唱える魔法は時間が……」
「まかせて、次の攻撃は私が防ぐから」
「結界は苦手なんじゃ」
「攻撃は最高の防御っていうでしょう!」
彼女の手には、魔石が握られている。
魔石といっても、魔力が結晶化した原石ではなく加工されたものである。
魔法を魔力から事象に変える際に、魔方陣、呪文等を必要とするが、魔石は呪文の断片を魔力ごと固めたものという説明が近い。
そのため、その魔石を繋げる事で魔法の行使時間を大幅に減らすことも可能だった。
また、ある言葉を魔力を通して放つだけでも効果が得られるものもある。だがそれらの場合、人工的に作られた硝子の球等であるため、魔石と区別され“輝石”とも分類されることもある。
「静謐なる、冷たき力を!」
フレアの手に握られた青い魔石が輝き、ラズの数倍程度の大きな氷の壁のような鋭い刃ができる。
しかし、“ナイトメア”の炎によりそれもまた、すぐに溶かされてしまう。
その溶けた氷の穴からラズは“ナイトメア”に向かって躍り出た。
溶けた氷がお湯となり、降りかかるも火傷をする程度の温度ではない。むしろ、フレアに対しての格好の目くらましになる。
ラズは、一気に魔物との間合いをつめる。
魔力を乗せ、魔物に切りかかった!。
ー―!、手ごたえが無い!。
即座に後ろに下がるも、魔物の爪がラズの肩を掠めた。線のように細い切り傷が一筋、血がにじんでいる。
そこで、魔物は動きを止める。
ラズはあることに気づいた。
一つは、辺りに光の玉が少なくなっているということ。もう一つは、魔物がこちらを見ていないということ。
「動き回ったことにより、光の玉が少なくなって俺達が分からない。加えて、剣が効かない点であの魔物は映像に過ぎない可能性もある。けれど、爪に攻撃された」
光の玉が、再び魔法陣から供給されはじめる。
「そうか、この光に俺と魔物が触れた時点で、効果が生じるようにしているのか!」
「静謐なる、冷たき力を!」
フレアがラズの前に踊りでて、呪文を唱えた。氷の刃に熱風と炎が遮られる。
「いきなり突っ込んで行って、危ないじゃない!」
「……魔法陣の、魔力の供給源を絶たないとだめだ」
「何処にあるの!」
「この魔方陣はどうやって起動した……確かフレアさんが魔法陣に触れて、そして」
ラズは天井を見上げた。あそこから光が一瞬走ったのだ。
細いナイフをラズは取り出し、天井に投げつける。
かしゃんと硝子のようなものが壊れる音がして、破片が地上に落ちて来る。
踊る魔法陣がゆっくり止まり、光が消えていく。
はじめと同じように天井に白い明かりが付いた。
「何とかなった……か」
「どうして分かったの?」
「光があそこから一瞬走って見えなくなった。でも、ただ見えなくなっただけで、可視光領域の外側のものを放出する魔力になったんじゃないか、と推測したんだ。たまたま正解したから良かったけどね」
「そうなの……あの魔物も消えているけど」
その問いかけに答えたのはエルだった。
「あれは映像だからね、本物と比べてはいけないよ。本物だったら、あの程度の魔法で押さえられはしないからね」
「エル、お前、全部知っていたのか?」
「いざという時は助け舟を出したさ。僕は僕で、誘拐された子供達を探っていたんだよ」
どうやってと、フレアが聞くようなことがある前に、ラズが、
「何処か案内してくれ」
と話を誘導しておく。おそらくは、遺跡内にいる、子供の思考を読み取ることで場所を特定したのだろう。
「正解だよ。ここは人が少ないからね。とても見つけやすい」
ラズの肩に乗っかり、エルは小声で囁いた。
「ついでに、もう一戦あるけれどがんばれ。ちょうど良い時間だろうから」
なにやらエルは画策しているらしい。
「別に僕だけじゃないけどね。君の能力に期待してるんだ、皆ね」
「さっきから、私を無視してエルとばっかはなしてるのね。何言っているのか聞こえないし」
そんなフレアのちょっと怒ったような声にラズは慌てて、
「いや、場所を聞いていたんだ」
「ここから出る場所は二つしかないじゃない」
フレアはむすっとラズを見た。エルが、その様子を見つつ、
「そこを出た部屋に、子供達はいるよ」
とかなんとか。ラズは噴出した。
「近い、というより、この装置が起動してたら大問題じゃないか」
「うーん、これ、女神関係じゃないと反応しないんだ」
じっと、フレアの方を見る。ついでにラズも、フレアの方を見る。
「な、なんで。私のせいじゃないもん。不可抗力だもん」
ちょっと可愛いとラズは思ってしまった。
話を変えたいらしく、彼女はラズの剣に目をつける。
「これが、伝説の“猛禽類の剣”ね。“女神様”すらも倒すという伝説の……」
「おれはこいつを“らぷたん”と呼んでいる」
「……威厳の欠片も無いような」
「親しみやすいだろ。俺は気に入っている」
そこで、扉の前に着いた。ひょいとエルを持ち上げて、一緒に扉に触れる。
前と同じように、滑らかに扉は横へと滑ったのだった。
中にいたのは、幼い子供達と大人達、そして……。
次もよろしくお願いいたします。




