あなたじゃ満点は取れません
広間に学期末テストの結果が張り出される。掲示板の周りに集まった生徒の中には、ガッツポーズをする者、がっくりと膝を地面につく者、咆哮を上げる者、と様々な生態を観察することが出来る。そして、もしその分類に私を当てはめるとすれば、間違いなくガッツポーズをする者の仲間だろう。
張り出された紙の一番上にいつもの二人の名前が並ぶ。そのうちの一人は私、ユーリー・ナルブリアンの名だった。
よし!今回も満点だわ!
言うは易く行うは難し。いつも満点を取っている私は、周りから満点を取って当たり前だと思われている。おそらく私が満点を取れなかったら、皆は口々に疑問の言葉を投げかけるだろう。「どうして満点を取れなかったの?」と。まるで特別な理由がないのに失点するのはおかしいと言わんばかりに。
だが、そうではない。いつもギリギリなのだ。テストの一ヶ月前から傾向と対策を練り、録音した授業を何度も繰り返し聞き、時には徹夜をしてなんとか成し遂げている満点記録なのだ。
今回のテストなんて特にやばかった。例年よりも格段に難しくなっているのに加え、魔法薬学のダウティー教授なんて、教授自身の嫌いな食べ物を問題に出してきやがったのだ。たまたまダウティー教授の自叙伝、『魔法薬で魔法焼く』を読んでいたから何とか答えることができたものの、本当に紙一重の勝負だった。
「クソッ!どうしてだよ!」
そして私以外にもう一人、満点を取って当然だと思われ、今回も無事満点を取った者がいる。今隣で悪態をついている、私の婚約者のバガート王子だ。普段の言動からも、正直あまり勉強しているように思えないが、見た目で判断してはいけない。陰ではたくさんの努力と研鑽を積み重ねているのだろう。別に彼のことは好きではないが、人間としてリスペクトをしている。満点を取り続けるのは、それほどまでに大変なのだ。
「なんでお前も満点なんだよ!ユーリー!……さてはお前、不正してやがるな!」
前言撤回。人間としてリスペクトは止めておこう。
「しておりません。努力して掴み取った物でございます。満点が怪しいなんて言い出したら、バガート様も疑われないといけなくなりますよ?」
「お、俺のことは良いんだよ!――今回のテストは過去類を見ないほど難しかったはずだ。なんたって難しくするよう、俺が教師に頼み込んだんだからな!」
「……なるほど。それであんなに難しかったのですね」
「それもこれもお前に満点を取らせないためだ!なのにまた満点を取りやがって!おかしい!明らかにおかしい!絶対に不正をしている。そうに違いない!……ええい、こんな女と婚約なんかしてられるか!ユーリー!お前との婚約を破棄する!」
突然の宣言に、周りで私たちの会話に聞き耳を立てていた生徒の間にどよめきが起こる。
「な!何を言っているのですか!?」
「そのままの意味だ!不正をする奴など、俺の婚約者に相応しくない!」
婚約は家同士の取り決め。例え王子と言えど、そんな簡単に破棄することなんて出来ない。そんなの、貴族なら誰でも知っている初歩的なことだ。こんな男といつも満点を競ってるなんて、考えたくもない。
……なんでこんな男があのテストで満点を取れるのよ。
前々から疑問に思っていたけど、もしかして――
「――不正などしておりません。そんな事を言う王子こそ、不正をしておられるのではないですか?」
「な、何を証拠にそんな事を言っているのだ!……証拠もないのに人を疑うって言うのか!?ますますきな臭い奴だな!」
バガート王子。鏡に向かってしゃべられているのですか?
「では、バガート様。ダウティー教授の嫌いな食べ物、ご存じですよね?」
「もちろん知っている。セリ草だ。――まさか、俺が答えられないとでも?満点を実力で取ったのだ!お前とは違ってな!」
「その通り、セリ草です。……ではバガート様。あなたはどこでそれを知られたのですか?」
「もちろん授業の時間だ。ダウティー教授が言っておられたではないか。……さて、もう反論は終わりか?」
バガート王子は、ニヤニヤと煽るような笑みを浮かべる。
「それは本当に、間違いなく、授業中の出来事ですか?」
「しつこいな。そうだと言っているではないか!」
「なるほど。しかしそれはおかしいのですよバガート様。――私はそのような台詞を聞いた覚えがないのです」
「はぁ?何を言い出すのかと思ったら。――それはお前が聞きそびれていただけだ!お前の集中力が足りなかっただけだ!もし授業中に言っていないと主張するのであれば、証拠を示せ!証拠!」
バガート王子は、これだからバカは困るのだ、と吐き捨てるように言った。
バカは王子の方だと言うのに。
「証拠ありますよ」
「だから証拠を出……へ?」
「証拠ありますと言ったのです。――私は満点を取るために、日々の授業を録音石にて録音しているのです。全ての授業をお聞かせして差し上げましょう。そこにダウディー教授の嫌いな食べ物は含まれておりませんから」
私の言葉にバガート王子は口をゆがませる。
「あれ?となるとやはりおかしいですね?王子はどうやってあの問題を正解したのでしょうか?」
「……クソッ!いいよ!わかったよ!確かに、俺は教師から問題の答えを事前にもらってたさ。不正してたよ!しまくりだよ!――だが、それはお前もだろう?墓穴を掘ったなぁユーリー!同じ質問をお前にさせてもらうぜ!お前はどうやってダウディー教授の嫌いな食べ物を知ったんだ!?」
勝ち誇った、滑稽な顔のバガート王子。
私は思わず笑いがこらえきれず、小さな声で笑ってしまう。
「な、何がおかしい!」
「あら失礼。バガート様、本を読まれた方がよろしいですよ?――ダウディー教授の自叙伝『魔法薬で魔法焼く』の第四章に登場するのですよ。嫌いなセリ草を嫌々食べるというお話が」
******
その後、学園長主導の下、本件は徹底的に調べられ、不正に関与していた教員三名が退職処分となった。また当たり前だが、王家と協議の末、バガート王子も退学処分が決定したという。
私はというと……特に変わりなく、今日も満点を取るため今日も勉強をしている。目指すは在学中の失点ゼロ。
髪をかき上げ、気合いを入れ直し、日夜用紙と向かい合うのであった。
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