第四節
**一九七二年十一月十三日 ヴァルム鉱山町、北斜面旧換気孔跡より第三脇坑へ**
地底のものを追う時、私は正面の入口より、使われなくなった抜け道のほうを先に疑う。
人間が見張り、閉じ、名をつけた入口は、人間の都合をよく映す。
だが生きものの通路は、それより古く、もっと無頓着なことが多い。
山の皺、水の抜け、根の間、岩の割れ目。
坑道より前からそこにあった筋を使っているなら、手がかりはむしろ、忘れられた換気孔や排水溝のほうへ残る。
朝のうち、私はイェルンとともに、旧記録で見つけた換気孔の跡を北斜面で探した。
雪は薄く、地面の黒い石と枯れ草がまだらに出ている。
風は冷たいが、空は高く晴れていた。
換気孔跡はすぐには見つからなかった。
古い図面の縮尺は粗く、斜面の木立も二十年前とは違う。
午前の大半を費やして、石積みの残りや崩れた排水樋を見分けて回ることになった。
イェルンは最初のうち退屈そうだったが、三つ目の外れを引いたあたりから、地形の読み方そのものへ付き合うようになった。
正午前、斜面の半ばで、ようやくそれらしい跡を見つけた。
低い石組みの円で、内側は落葉と砕石でほとんど埋まっている。
直径は一メートルほど。
昔は木の蓋か鉄格子があったのだろうが、今は何も残っていない。
周囲の雪だけが不自然に薄く、手をかざすと、冷たい空気がかすかに上がってくるのが分かった。
完全には塞がっていないらしい。
私はまず周辺の足跡を見た。
人間のものはない。
狐が一度横切った痕跡があり、そのほかに、前日排水溝で見たのとよく似た小さな四趾の跡が二列、石組みの外周をかすめていた。
数は多くない。
だが、一度きりの迷い込みではなさそうだった。
イェルンがしゃがみ込み、雪の縁を指でなぞった。
「これ、同じやつですか」
「可能性は高いです」
「上まで来るんですね」
「来る、というより、もともとこちら側も通り道なのかもしれません」
私は細い棒で石組みの中心を探った。
途中で空洞へ落ちる。
埋まってはいるが、底までは詰まっていない。
換気孔としては死んでいても、地中のどこかとはまだ細くつながっているのだろう。
その時、胸ポケットの万年筆が一度だけ小さく鳴った。
私はそれを取り出して掌に載せた。
震えはもうない。
だが間を置かず、石組みの内側から、細い石片がひとつ転がり上がってきた。
内側で何かが動き、その拍子に縁まで来たような出方だった。
拾い上げて見ると、黒い鉱石片の片面に、前日採取したものとよく似た平行の擦り跡がある。
「中で何か削ってるんでしょうか」
とイェルンが言った。
私は、
「その可能性はあります」
と答えた。
摂取しているのかもしれないし、表面を削って別の情報を読んでいるだけかもしれない。
この時点で私は、対象の行動を二つに絞って考え始めていた。
一つは、鉄やそれに伴う鉱物成分を何らかの形で摂っている可能性。
もう一つは、鉱脈の表面を削り、その振動や磁性の変化を読むことで移動経路を確かめている可能性である。
後者は既知の動物にはほとんど見られない。
だが、だからといって直ちに捨てる理由にもならなかった。
午後、私たちは第三脇坑へ入った。
この日はドリックも加わった。
前日の記録を聞いたハルヴェンが、古い坑夫の感覚を持つ者を一人つけたのだろう。
ドリックは封鎖口の手前まで来ると、前触れもなく腰の道具袋を外し、革紐だけを残して壁際へ置いた。
「今日は長いのが鳴るかもしれません」
坑内の空気は前日より乾いていた。
だが封鎖口へ近づくにつれ、足音の響きだけが少し遅くなるように感じられた。
音そのものが遅れるのではない。
耳が半拍だけ遅れて受け取るような感覚である。
以前別の土地で経験した距離感の攪乱ほど露骨ではないが、似た種類の不安定さだった。
封鎖口の前で、私たちは灯火を一つだけ残して待った。
長くはかからなかった。
まずドリックの道具袋の留め具が鳴り、次いでイェルンの腰から外した巻尺の端金が応じる。
私の万年筆も、布の上でかすかに震えた。
小さい鉄から鳴る。
ここまでは、坑夫たちの経験則どおりである。
次に来たのは、前にも聞いた低い唸りだった。
封鎖口の向こう、旧西通路の奥、壁の黒い筋のあたりから、細く長い振動が流れてくる。
それに合わせてランプの火が青く痩せ、戻り、また痩せる。
私は封鎖材の隙間へ目を寄せた。
前回より、よく見える。
闇の奥に、ごく低い位置で、灰色のものが横へ走った。
小さい。
犬よりずっと小さい。
胴は細長く、地を這うよりは、岩へ身体を沿わせて滑るように動いている。
足は見えにくいが、少なくとも四肢はある。
毛並みというより、短い針毛か、岩粉をまとった硬い体表のように見えた。
頭部は三角ではなく、丸みに寄っている。
眼と思しき反射が一瞬、二つ。
それだけだった。
だが今度は、間違いなく生きものとして見えた。
「いた」
とイェルンが息だけで言った。
対象は封鎖口のすぐ向こうまでは来ない。
黒い鉱脈の露頭に沿って、壁から壁へ短く移る。
そのたび、ごく細かな石屑が落ち、こちらの道具が遅れて鳴る。
順番が、ようやく目に見える形になった。
向こうで対象が鉱脈へ触れる。
壁が微振動する。
それに近い性質を持つこちらの小さな鉄が拾われる。
坑夫の言う
**「鉄は鳴る前に歩く」**
とは、おそらくこのことだったのだろう。
その時、対象が不意に動きを止めた。
封鎖口の奥の闇で、頭部だけをこちらへ向ける。
見るというより、こちらの位置を測るような静止だった。
私はとっさに呼吸を浅くした。
動けば逃げるかもしれないし、逆に近づくかもしれない。
どちらも望ましくない。
ドリックがごく低い声で言った。
「火を下げてください」
私は従った。
ランプを少し伏せると、闇の中の輪郭がかえって見やすくなる。
対象は完全にこちらを向いていた。
すると、封鎖口の足元、崩れた石の隙間から、もう一つ、さらに小さな影が顔を出した。
最初の個体の半分ほどの長さしかなく、動きも落ち着かない。
頭を出し、すぐ引っ込み、また出す。
そのたび、こちらの細い金具が小さく鳴る。
幼い個体と考えるのが最も自然だったが、この段階ではそう記すに留めるべきだろう。
最初の個体はわずかに身をずらし、その小さい影を自分の陰へ入れた。
少なくともその場での優先が攻撃ではなく退避にあることは、はっきりしていた。
私はここで、封鎖材の一部を外して視界を広げたい衝動に駆られた。
そうすれば、体表の質感、肢の付き方、行動の癖をさらに明確に記録できる。
地底性幻獣の観察例としては、きわめて貴重なものになるだろう。
だが成体と思しき個体は、まだこちらを見ている。
小さい影は落ち着かずに出入りしている。
ここで封鎖を崩せば、彼らは通路そのものを捨てるかもしれない。
生きものの行動圏へ、後戻りのできぬ形で手を入れるのは悪手である。
少なくとも私はそう考えた。
結局、私たちは動かなかった。
対象のほうが先に決めた。
成体と思しき個体が低く短い呼気音を二度発すると、小さい影はすぐに奥へ退き、その直後、成体も黒い筋に沿って消えた。
残されたのは、壁面の微かな震えと、こちら側の金具に遅れて返る余韻だけだった。
火は戻り、坑内は急に狭く、普通の空間になった。
長い沈黙のあと、イェルンがようやく息をついた。
「小さかったですね」
「ええ」
「思っていたのと違う」
「たいてい、そういうものです」
ドリックは封鎖口の前へしゃがみ込み、落ちてきた石片を一つ拾った。
それを私へ渡しながら言う。
「昔の連中は、こいつらを鉱鼠と呼んでました」
「鼠ですか」
「似てるからでしょう。実際には鼠ほど増えないし、ずっと用心深い」
鉱鼠。
仮称としては悪くない。
正式な分類名には使えないが、現地名はしばしば最初の理解の器になる。
私はその語を手帳の端へ書き添えた。
ハルヴェンへの報告は簡潔に済ませた。
直接観察あり。
小型個体と、それより小さい個体らしき影を確認。
人間への積極的攻撃性は現時点で見られず。
封鎖区画の向こうに、安定した行動圏がある可能性が高い。
彼は最後まで無表情に聞いていたが、最後に
「板は外しません」
とだけ言った。
私はその判断に賛成した。
観察のために急に取り払うのは、別の乱暴である。
ヴァルムを発つ朝、金物屋の老婆が小さな鈴を一つよこした。
「先生は鳴る前に帰る人だから」
そう言って笑ったが、その理屈は結局よく分からなかった。
私は鈴を受け取り、荷のいちばん外へ入れた。
ヴァルムで見たものは、坑道の音だけでは済まなかった。
地中の小さなものが動き、その結果として人間の鉄が遅れて応じる。
その順が見えただけでも、この往復としては十分だった。
名前はあとからついてくる。
記録の側では、まず彼らの文法を取り違えぬことのほうが先である。




