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ロバート教授の幻獣生態調査記録  作者: ロバート・クロフト
第二章 一九七二年 旧ヴァルム鉱区において報告される異常音響現象および坑内灯火の色調変化の予備調査
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第三節

**一九七二年十一月十日から十二日 ヴァルム鉱山町、旧記録庫および第三脇坑旧西通路前**


十一日は終日、雪まじりの雨だった。

坑道へ入るには入れたが、視界の悪い日の観測はしばしば記録の精度を落とす。

私は無理に成果を求めず、町に残って旧記録を調べることにした。

こうした判断は、現地の人間には怠慢と映ることもあるし、大学には慎重すぎると受け取られることもある。

だが地の下の現象は、時にその場に立つこと以上に、そこがどのように掘られ、どこで捨てられ、何が放置されたかを知るほうが近道になる。


ヴァルムの旧記録庫は、役場の裏手にある石造りの小部屋だった。

湿気を吸った帳簿と、虫に食われた地図、それに坑夫の交代記録や事故報告の束が棚へ押し込まれている。

保存状態はひどいが、山間の町ではそれでも残っているだけ上等である。

私は午前中いっぱいを費やして、第三脇坑周辺の採掘年と閉鎖履歴を拾い出した。


興味深かったのは、問題の旧西通路が、単なる崩落で放棄されたのではないらしい点だった。

記録は曖昧で、担当者の字も読みづらいが、およそ二十年前、その区画では二度続けて

**「器具の不具合による作業中止」**

が起きている。

次いで、数週間の再開後に

**「坑内方向感覚の不安定化を訴える者多し」**

とあり、その翌年には閉鎖とある。

落盤や湧水の記録はない。

つまり、危険が物理的な崩壊ではなく、もっと扱いづらい種類のものとして認識されていた可能性が高い。


さらに古い図面を見ると、現在の封鎖口の向こう側には、短い横坑が一つ、鉱脈へ沿って不自然に折れ曲がっていた。

試掘の失敗跡かと思ったが、脈の追い方が妙である。

鉱石を採るならもう少し真っ直ぐ掘るはずの場所で、一度大きく外れて戻っている。

意図的に何かを避けたのか。

あるいは逆に、何かを追っていたのか。

こういう時、図面にはしばしば、掘った人間の逡巡が残る。


昼過ぎ、記録庫へハルヴェンが顔を出した。

私の広げた図面を一目見て、

「そこに目をつけましたか」

と言う。

私は旧西通路の折れ方が気になったと答えた。

すると彼は、

「昔の監督は、鉄の入りを嫌って何度か線を変えたそうです」

と言った。


「鉱脈を避けた?」

「濃すぎる筋があると、道具が落ち着かないと」


それは文書には残らない類の判断だろう。

迷信めいた理由は帳簿に載りにくいし、数字に換えにくいことは報告から抜け落ちる。

だが実際に人が働く場所では、そうした言い換えられなかった知識のほうが命を守る場合がある。


ハルヴェンは、古い話としてもう一つ付け加えた。

第三脇坑がまだ新しかった頃、ドワーフ系の古参坑夫たちは、鉱脈の濃い壁へ耳を当ててから削る場所を決めていたという。

人間の若い監督がそれを笑ったところ、老坑夫の一人が

**「鉄は鳴る前に歩く」**

と言い返したらしい。

私はその言葉をノートへそのまま写した。

学術用語ではないが、現象の性質にはかなり近い気がした。


十二日の朝、雪はやみ、空だけが高く晴れた。

私は坑道へ入る前に、北側斜面の捨石場を調べることにした。

採掘された岩石を長年積み上げた場所で、古い鉱区を読むには有用である。

そこには人間が掘り出して捨てたものの履歴が露骨に出る。

鉄分の多い黒い石、石灰を含んだ白っぽい石、砕けた頁岩、それに湿ると赤茶ける脈石。

私は斜面で石を割り、手袋を脱いでは磁石を当て、簡単な分類を続けた。


その最中、奇妙なものを見つけた。

掌に載るほどの薄い石片で、片面にだけ極細の平行な擦り跡が何本も走っていたのである。

掘削工具の跡にしては浅く、獣の爪にしては規則的すぎる。

しかも筋の間に、金属粉ではなく、ごく細かな黒灰色の粉が入り込んでいた。

石を割った時に生じるものとは質が違う。

私は布包みに収め、採取位置を記録した。


さらに斜面の下方、古い排水溝の石組みのそばで、今度はよりはっきりした痕跡を得た。

雪の残る泥地に、小さな足跡が点々と残っていたのである。

犬でも狐でもない。

趾は四つに見えたが、雪混じりの泥では輪郭が甘く、確かなことは言いにくい。

爪は細く浅い。体重はかなり軽いように見える。

サイズだけなら山のテンに近いが、歩幅が合わなかった。

その足跡は、捨石の山から排水溝へ下り、そこでぷつりと消えていた。


私はそこで、対象の大きさと移動の仕方について、ようやく仮の見当をつけた。

大型獣ではあるまい。

坑道の崩れ目や鉱脈沿いの狭い隙間を通るには、小さく、軽く、岩壁の細かな凹凸を足場にできる体である必要がある。

金属に惹かれるのではなく、鉄の濃い筋や振動を道筋として使うのだとすれば、彼らにとって鉱山は餌場というより、地中の地図へ人間が誤って窓を開けた場所なのかもしれなかった。


午後、第三脇坑へ戻ると、イェルンが入口で待っていた。

「今日は入るんですか」

「少しだけ。奥までは行きません」

「ちょうどよかった。今朝、北側の捨石場で、道具袋が鳴ったってやつがいるんです」

「坑内ではなく?」

「外でも来る時は来ます」


この町では、現象の境界が案外あいまいである。

坑道の中で完結するものだと思っていたが、どうもそうではない。

人間が露出させた鉱脈や、地表へ捨てた岩までが、その一部を地上へ引きずり出しているのかもしれなかった。


この日の坑内は、前回より明らかに湿っていた。

雪解け水のせいだけではない。

壁際の空気が冷たく重く、ランプ火も心持ち落ち着かない。

中央採掘室までは特に異常なし。

だが旧西通路前へ近づくにつれ、私の持つ小型コンパスがわずかに揺れ始めた。

鉄鉱帯では珍しいことではない。

ただ、揺れ方が妙だった。

定まらず迷うのではなく、一定の方向へ何度も引かれる。


封鎖口の前へ着くと、イェルンが黙って腰の巻尺を外した。

前回の経験で学んだのだろう。

金具を増やしたくないのだ。

私はその判断を好ましく思った。

現場での理解は、理屈より先に身体の動きへ現れることがある。


しばらく待つと、最初の反応は予想外のところから来た。

私の胸ポケットに入れていた万年筆のクリップが、布越しに小さく震えたのである。

続いて、工具箱の留め金ではなく、壁へ立て掛けたイェルンの短い鑿が、柄を揺らして一度だけ鳴る。

前より近い。


「火、見てください」

イェルンの声が低くなる。


ランプの炎は青く細っていた。

だが前回と違い、今回はそれが一度で終わらない。

細っては戻り、また細る。

そのたび、封鎖口の左手の岩壁に含まれた黒い筋が、ごくわずかに湿ったような艶を帯びる。

私はしゃがみ込み、ランプを壁へ近づけた。

鉄鉱脈の露頭に沿って、微かな粉が動いている。

落ちるのではない。

筋の内部を、まるで下から順に撫でるように細かな崩れが走る。


次の瞬間、封鎖口の内側で、砂がさらりと落ちた。

私は隙間へ目を寄せた。

暗い。何も見えない。

だが見えないまま、そこに生きものの動きがあると分かる。

石の崩れと体重移動には、わずかに違う間がある。

今聞こえたのは後者だった。


やがて、崩れ目の奥で、ごく低い位置に小さな反射が二度走った。

眼だと断言するには早い。

濡れた石か、光を返した鉱面かもしれない。

ただ、それは同じ場所に留まらず、左右へわずかにずれて消えた。

同時に、封鎖口の石板のひとつへ、内側から軽い打音が三度、規則正しく返る。


とん、間。

とん、間。

とん。


私は反射的に手帳へそのリズムを書き留めた。

意図があるとはまだ言えない。

だが偶発の落石にしては整いすぎていた。


それきり現象は退いた。

火は戻り、壁の艶も失せ、封鎖口の奥はただの暗がりへ戻る。

私は深追いしなかった。

現象が消えたあとに無理をしても、記録は雑になるだけである。

その場の粉塵を少量採取し、壁面の磁性を簡易に確かめ、時刻と位置を書き込んだ。


この日の終わりには、まだ姿の確証はなかった。

ただ、旧西通路の向こうに何かがいて、それが鉱脈の筋に沿って動いている可能性は、かなり強くなった。

私にとって必要だったのは、もう一歩だけ、それを生きものとして見切ることだった。

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