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ロバート教授の幻獣生態調査記録  作者: ロバート・クロフト
第二章 一九七二年 旧ヴァルム鉱区において報告される異常音響現象および坑内灯火の色調変化の予備調査
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第一節

**一九七二年十一月八日 グランデール北部山地、ヴァルム鉱山町着**


北部山地へ向かう列車は、平地を離れるにつれて窓の外の色を少しずつ失っていった。

秋が終わりきっていないはずの時期であるのに、山裾の木々はすでに黒ずみ、川は鉛のような鈍い光を帯びている。

谷の町というものは、近づく前から匂いで分かることがある。

湿った木、煙、獣脂、鉄錆、そして人が長く土を掘った土地に特有の、冷えた石の匂いである。


ヴァルムは、そうした匂いの強い町だった。


地図の上では「旧鉱区に隣接する山間集落」とあるが、実際にはまだ完全に旧ではない。

主坑道のいくつかは閉じられたものの、北側の脇坑では低品位鉱脈の試掘が続けられており、選鉱場の建屋も半ば稼働している。

石造りの家屋はどれも低く、風除けのためか窓も小さい。

通りには人間だけでなく、背の低い頑丈な体格の者が自然に混じっていた。

旅の途中で何度も目にしてきたことではあるが、山地のドワーフ系住民は平地の都市にいる者たちより、ずっと土地に馴染んで見える。

身体の特徴が似合うというより、歩幅や視線の高さまでが、岩と斜面の多い暮らしに合わせて固まっているのだろう。


大学から渡された指示書には、

**「旧ヴァルム鉱区において継続的に報告される異常音響現象および坑内灯火の色調変化について、地質学・生体影響学の両面から予備調査を行うこと」**

とあった。

ずいぶん整った言い方だが、要するに、坑道の奥で鉄器が勝手に鳴り、ランプの火が青く細る原因を調べてこい、ということである。

文面は乾いていて、何かの名を先に置いてはいない。

こういう紙がこちらへ回ってくる時は、たいてい現地の話がまだ一つの形に固まりきっていない。

その曖昧さのまま見に行けるうちのほうが、かえって都合がよかった。


町の側の言い方はもっと簡潔だった。

宿の主人は私の紹介状を読むより先に、

「地の下で笛を吹くものの話だろう」

と言った。


この町では、現象そのものより、その前触れのほうが生活に馴染んでいるらしい。

通りの角の金物屋には、小さな銀色の鈴が何十個も下がっていた。

飾りにしては数が多い。

店番の老婆に聞くと、坑夫たちが腰道具へつけるのだという。

落盤の警報でも魔除けでもなく、「先に鳴れば引き返すため」と彼女は言った。


「何が来るんです」

と私が聞くと、老婆は首をすくめた。

「逆だよ。何かが来る前に、こっちの鉄が落ち着かなくなるのさ」


町役場にあたる事務所で、鉱区管理の責任者から話を聞いた。

責任者はドワーフ系の男で、名をハルヴェンという。

灰色の髭を短く刈り、机の上の書類を一枚も乱さぬ人物だった。

彼は怪談じみた話を好まぬようで、現象についてもあくまで実務の言葉で説明した。


「怪我人は出ていません。ただし、三か月で退職者が五名です」

「事故ではなく?」

「事故に至る前に辞めるんです。耳鳴り、眠れない、道具箱の中で勝手に鉄が鳴る、暗い場所で火が縮む。そういう訴えが増えると、家族が嫌がる」

「報告は主にどの坑で?」

「第三脇坑と、その先の旧採掘区です。深度はそれほどでもない。ただ、音の回り方が変だ」


そこで彼は、机上の図面を私のほうへ回した。

坑道の断面図と、過去半年の簡単な異常報告である。

興味深いことに、現象は常時発生するのではなく、数日から十日前後、何もない期間が続いたあと、短いあいだ集中的に起きている。

しかも報告の多くは、発破や掘削の翌日ではなく、その二、三日後に偏っていた。

夜勤帯より、明け方前の報告が多い。

作業疲れによる錯覚と片づけるには、少し揃いすぎている。


「町では、何と呼ばれているんです」

私が訊くと、ハルヴェンは露骨に眉をしかめた。

「若い連中は色々言います。鉱笛だの、深層の子だの」

「あなた自身は?」

「空洞の鳴りです。あとは湿気と金属の具合でしょう」


理性的な返答だった。

だが理性的な人間ほど、言葉にしない部分を持っていることがある。

彼は「深層の子」という名を否定はしたが、嘲笑もしなかった。


夜、宿の帳場で、町医者のアルノーと同席した。

痩せた男で、酒を飲みながらも診療鞄を足元から離さない。

彼の話では、ここ数か月で増えたのは怪我ではなく、むしろ説明しにくい不調だった。

坑内へ入った翌日から平衡感覚を崩す者、金槌の音に過敏になる者、寝入りばなに足元から細い笛音を聞くという者。

いずれも数日で軽快するが、繰り返すうちに仕事へ戻れなくなる。


「鉱毒や換気の問題では?」

そう言うと、アルノーは首を振った。

「一応疑った。だが同じ区画でも平気な者は平気だし、地上勤務へ回すと治まる。熱や発疹もない。肺も汚れちゃいない。身体より先に、耳と足場の感覚がやられる」


それは以前、別の土地で経験した距離感の乱れに少し似ていた。

もちろん坑道と谷地では条件が違いすぎる。

安易に結びつけるつもりはない。

ただ、地形と土地の現象が、人間の感覚のほうを少しずつ狂わせる構図には見覚えがあった。


町で呼び名が一つに落ち着いていないということは、現象の受け取られ方がまだ定まっていないのだろう。

ただの不便として済まされていない以上、坑道の中には、音や湿気だけでは片づけにくい何かがあるのかもしれなかった。


翌朝から鉱区へ入る許可を得た。

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