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ロバート教授の幻獣生態調査記録  作者: ロバート・クロフト
第一章 一九七一年 夜間に観測される不定光源の発生条件の確認
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第一節

**一九七一年九月十四日 リュスティア内海東岸、サン・ヴァレール石灰岩台地**


大学から私に渡された依頼書には、「夜間に観測される不定光源の発生条件の確認」とだけある。現地の羊飼いたちは、それをそんな言い方では呼ばない。彼らはただ、*谷を渡る青い獣*と言う。


サン・ヴァレールへ着いたのは、朝の霧がまだ低く台地の割れ目に残っている時刻だった。石灰岩の地表は遠目にはなだらかに見えるが、実際に歩くと足元はひどく悪い。雨水に溶かされてできた無数の裂け目が草に隠れ、人間の足首を試すように口を開けている。羊がしばしば脚を取られるという話も誇張ではないらしい。


宿を兼ねた小さな食堂で、最初に件の獣について訊ねたとき、女主人は匙を止めて私の顔を見た。旅人が景色や魚や古戦場の噂を尋ねることは珍しくないが、あの獣をわざわざ追って来る者はそう多くないのだろう。


「見に行くなら、月の細い晩は避けたほうがいいよ」

「明るいほうが見えやすいという意味ですか」

「逆さ。あれは暗いほどはっきりする」


言い終えてから、彼女は少し声を落とした。

「ただし、はっきり見えた晩は、たいてい帰り道が長くなる」


この地方の者は、霧、崖、古井戸について話す時にだけ奇妙な慎重さを見せる。迷信と片づけるのはたやすい。だが、迷信にはしばしば地形の記憶が混じる。学者が軽蔑したために見落とした知識を、私はこれまで何度も見てきた。


午後、羊飼いの案内で台地の南縁へ向かう。案内役はミケルという青年で、まだ二十代に見えたが、歩き方だけは土地に根を持つ者のそれだった。彼は獣を「ルミエル」と呼んだ。固有名か通称かは分からない。角はなく、狼ほど獰猛でもなく、鹿ほど臆病でもない、と彼は言う。大きさは痩せた牝牛ほど。蹄ではなく、犬や狐に近い足を持ち、崖の斜面を滑るように下りるという。


「襲われた者は?」と尋ねると、彼は首を振った。

「いない。けれど追いかけた者は、たいてい転ぶ」


夕刻、台地の端に出る。眼下には幅の広い谷が沈み、その底を白い霧がゆっくり流れていた。風は海から上がってくるはずなのに、谷底だけが別の方向へ動いている。地温の差によるものだろうが、見ていてあまり愉快な景色ではない。音も妙だった。ミケルの投げた小石が岩に当たって跳ねたはずなのに、反響が遅れて二度返ってきた。谷の形が複雑なのだろうと思う一方で、こうした現象が「声を返す霧」という話に育つのだとも理解できた。


初夜、観測位置を変えつつ二時間ほど待機したが、成果なし。月齢の都合か、あるいは風向きか。霧が濃くなると、岩場の輪郭が急に近づいたり遠のいたりして、人の距離感を狂わせる。ミケルが二度ほど私の袖を引いた。前へ出すぎていたらしい。こういう時、私はしばしば同行者に叱られる。


二日目の夜、ようやく現象を確認した。


最初に見えたのは光そのものではなく、闇の質の変化だった。谷の向こうの斜面、岩棚と低木のあいだに、夜目に慣れた視界が妙に引っかかる場所がある。そこだけ黒が薄い。次いで、湿った石に塗った燐がわずかに息づくような、青白い線が四つ動いた。脚である。その上に、胴の輪郭が遅れて浮く。光は毛そのものから発しているのではないように見えた。むしろ毛先に付着した微細な粒が、呼吸か体温の変化に応じて明滅しているようだった。


獣は一頭だけだった。頭部は小さく、耳は長め、頸は鹿より短く、胴は山羊より重い。脚の運びは猫科のように静かで、しかし着地点の選び方はむしろ野犬に近い。分類しづらいというより、既知のどれにも気持ちよく収まらない。その不快な曖昧さこそ、私が幻獣種に惹かれる理由でもある。


私は手元の赤色灯を覆い、双眼鏡を上げた。ミケルが小声で何か言ったが聞こえなかった。獣は谷を下らず、斜面の途中で止まり、霧へ顔を向けた。そして、聞いたとしか言いようのない動きをした。耳を立てるのではない。全身をわずかに前へ差し出し、鼻先で空気を探るように静止する。その直後、谷の霧の中から、人の話し声に似た音が返ってきた。


無論、言葉ではない。母音めいたひびきが二つ、風にちぎれて届いただけだ。だが、偶然の反響にしては獣の反応があまりに早かった。彼は、いや、この時点ではまだ便宜上そう記すが、その獣は一歩も動かず、その音がやむまでじっと待っていた。やがて霧が流れ、音が途切れると、獣は何事もなかったように斜面を横切って闇へ消えた。


観測はわずか三分ほど。だが帰路、私は二度転びかけた。霧が濃くなったせいだけではない。どうも谷の向こうの距離感が先ほどから一定しない。近く見える岩棚が歩いても遠い。逆に、まだ先だと思った裂け目が急に足元へ現れる。ミケルは無言で私の前を歩き、村へ戻るまで振り向かなかった。


宿へ着いてから、靴底に白い粉が付いているのに気づいた。石灰ではなく、もっと細かい。爪先でこすると、かすかに青く光った。採取瓶に収めたが、夜明け前には完全に失光したため、成分分析は大学へ戻ってから行うほかない。


現時点での推測を記す。


一、この獣の発光は内因性ではなく、体表に付着する微生物あるいは菌類に由来する可能性がある。

二、ただし付着が偶然の汚染でなく、習性として特定の場所を経由しているなら、獣と発光体の間には生態的共生がある。

三、谷の反響異常と獣の行動には関連があるらしい。獣は霧の状態を聴取、あるいは感知している。

四、村人が言う「帰り道が長くなる」は迷信ではなく、夜間の視覚錯誤ないし平衡感覚の攪乱を指すのかもしれない。


ただし、私がもっと興味を惹かれたのは別の点である。あの獣は、光っていたから奇妙なのではない。霧へ向き合った時のあの姿勢――谷の中の何かを待つような、あるいは呼びかけに応じるような沈黙――あれは単なる採食や警戒の動きではなかった。


人間はしばしば、自然の中に自分たちの言葉を聞きたがる。

だが今夜に限って言えば、谷のほうが先に何かを返し、獣のほうがそれを聞いていたように思える。


この記録だけでは、現象の説明にはまるで足りない。

にもかかわらず、私はすでに再訪の必要を感じている。大学が求めるのは、光の発生条件と応用可能性だろう。だが、もしこの獣が霧そのものを利用しているのだとしたら、調べるべきは毛皮ではなく、谷であり、風であり、そして夜の地形である。研究費の申請書にそう書いて認められるかは怪しいが、事実としてはそのほうが正確だ。


明夜は観測点を谷底寄りへ移す。

ミケルは露骨に嫌な顔をしたが、案内を断りはしなかった。土地の者は、危険な場所をよく知っている。そして時に、危険そのものよりも、そこに何がいるかを知っている。


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