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古の灯火  作者: 丸亀導師
戦間期
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関東大震災



1923年(大正12年)9月1日、午前11時58分。

大地が唸り声を上げ、帝都・東京が跳ね上がった。


立っていることすら困難な激震の中、初空軍参謀長・山本五十六(当時40歳・少将)は、倒れかけた格納庫の柱にしがみつきながら、硝煙の上がる滑走路を睨みつけていた。


「長官! 格納庫の壁が崩落! 機体点検を!」


しかし部下の悲鳴を遮り、山本は怒鳴った。


「点検など後だ! 赤トンボ(練習機)でも何でもいい、飛べる機体はすべて上げろ! 無線機を積んでな!」


その声は焦りと、愚か者を叱咤する感情がこもる。


「は? しかし余震が…」


部下は周囲のことが気がかりで、大局を見て取れていない。


「馬鹿野郎! 東京を見てみろ!」


山本の指差す南の空――そこにはすでに、どす黒いキノコ雲のような噴煙が上がり始めていた。火災だ。


「地上の電話線はズタズタだろう。何が起きているか把握できるのは『空』しかいない。上空から火災の延焼方向を観測し、陸軍の工兵に伝えろ。これは戦争だ。相手は『火』だ!」



同時刻、横須賀鎮守府。

海軍次官秋山真之(当時55歳・中将)は、執務室の窓ガラスが割れる中、受話器を握り潰さんばかりに叫んでいた。


「艦隊の出動だ! 訓練は中止、全艦抜錨!」


「救援物資を積みますか!?」


「違う! 発電機だ!」


堀の判断は冷徹かつ的確だった。


「東京の電力は死ぬ。夜になれば闇が恐怖を生み、パニックになる。戦艦、巡洋艦の全発電能力を東京の送電網に直結させるんだ。『明かり』こそが治安だ!」



午後2時。東京、下町。

史実では火災旋風が人々を飲み込んだ時刻。しかし、この世界線では異なる音が響いていた。

ズドドドドド……!


重苦しい排気音と共に、崩れた家屋を押しのけ、炎の壁に突っ込んでいく鉄の塊があった。

第一次大戦の欧州戦線から帰還した、陸軍工兵隊の「装甲牽引車トラクター」部隊である。


「第3ブロック、家屋を倒壊させ防火帯を作る! 爆破用意!」


指揮するのは、軍学研究会出身の若手将校たちだ。彼らは「精神力で火を消せ」などとは言わない。

上空を旋回する空軍機から、無線で「風向きと延焼予測図」がリアルタイムで送られてくる。


「風速15メートル、南南東へ延焼中。先回りして神田川沿いの建物を破壊しろ!」


そして、その工兵たちを支えたのは、予備役の兵士(在郷軍人)たちだった。

彼らの多くは、農村での機械化政策により、トラクターやトラックの運転技術を持っていた。


「おい、そこのトラック! 避難民を荷台に乗せろ! 荷物なんか捨てるんだ!」


「了解! 任せろ!」


史実のような「荷車を引いて逃げ惑う群衆」ではなく、ピストン輸送を行うトラックの列が、整然と人々を郊外へ逃がしていく。



午後6時。夕闇が迫る中、人々の不安は頂点に達していた。


「朝鮮人が井戸に毒を入れた」「社会主義者が暴動を起こした」


史実同様、恐怖が生んだデマが広まりかけていた。自警団が竹槍を手に殺気立つ。

その時だ。

避難所となった公園に設置された、巨大なラッパ(スピーカー)から、ノイズ混じりの、しかし力強い声が響いた。

海軍艦艇からの電力供給により復活した、軍用放送ラジオである。


『……市民諸君。こちらは戒厳司令部である』


声の主は、陸軍近衛師団長 林銑十郎中将のであった。


『現在流布している「暴動」や「毒」の噂は、空軍の偵察によりすべて虚偽であると確認された。繰り返す、すべてデマである』


『火災は工兵隊が食い止めている。井戸の水は飲むな、給水車が向かっている。隣人を疑うな。協力して火と戦え』


「空から見ている」という絶対的な情報が、疑心暗鬼を霧散させた。

竹槍を下ろした自警団の若者は、隣にいた朝鮮人の人夫にバケツを手渡し、共に消火活動へ戻っていった。

この日、東京で「虐殺」は起きなかった。



震災から1ヶ月後。

内務大臣・後藤新平は、広げた地図の前で頭を抱えていた。


「予算が足りん……。私の『帝都復興計画』は、夢物語だと財務省に笑われたよ」


そこへ、軍服姿の二人の男が入ってきた。山本五十六と秋山真之である。


「後藤さん、その『大風呂敷』、我々が買いましょう」


山本が言った。


「軍事費を削る気か?」


「逆です。『東京そのものを要塞化する』という名目で予算を通します」


山本と秋山が提示した「帝都防衛・復興統合案」は、後藤の計画をさらに軍事的に合理化させたものだった。


100メートル道路:

「広路」ではなく「緊急滑走路兼、防火帯」として建設。


地下共同溝:

ライフラインの保護だけでなく、「防空壕兼、地下通信網」として整備。


不燃化助成:

満州(韃漢)からのセメントと鉄鋼を軍用列車で大量輸送し、コストを半減させる。


燃料革命:

「ガソリンスタンドは市街地から追放する。代わりに、引火点の高い軽油ディーゼルの供給網を敷く」






「軍が口を出すと、ろくな街にならんぞ」


と渋る後藤に、秋山はニヤリと笑った。 


「ご安心を。デザインは先生にお任せします。我々は『金』と『人手』と『素材』を出すだけです」



こうして、1923年の瓦礫の中から、史実よりも早く、強く、美しい東京が立ち上がった。



これらを達成する為に以下の法令が施行された。


帝都防火及危険物取扱保安令

(大正13年 制定)


給油所の要塞化:

人口密集地(朱引内)のガソリンスタンドは、鉄筋コンクリート壁・地下二重殻タンク・感震遮断弁を備えた「甲種給油所」のみ許可。


完全無臭化:

給油時の揮発ガス(ベーパー)回収装置の設置義務化。大気へのガス放出を禁止。


立地規制:

100m道路(広路)や防火帯沿いなど、延焼遮断効果のある場所への集約・移転。

移行期間(猶予):

新規設置: 即日施行


法制定以降、基準を満たさないスタンドの建設は一切認めない。

既存改修: 3年以内(1927年末まで)

既存の簡易スタンドは、期限内に「要塞化改修」を行うか、郊外へ移転、もしくは廃業しなければならない。

※震災復興区画(丸の内・深川・横浜等)においては、猶予なし(区画整理と同時に建設)。



産業廃棄物資源化及水質保全法

(大正13年 制定)

垂れ流し厳禁:

工場排水に含まれる油分・汚泥・重金属の河川放出を「即時禁止」。違反時は即時の操業停止処分。


濾過の義務化:

活性炭・酸性白土などの吸着フィルター設置を全事業所に義務付け。

国家買取制度:

回収した汚泥ブロック(廃吸着材)を、政府外郭団体「資源再生公社」が燃料として有価で買い取るシステムを確立。


移行期間(猶予):

排出禁止: 1年以内(1925年末まで)

「川を汚すな」という規律は最優先で適用。

設備設置: 3年以内(1927年末まで)

中小零細工場に対し、濾過設備の設置猶予を与える(その間は溜めた汚水を回収車に引き渡すことで代用)。

買取開始: 法制定と同時に試験運用開始、2年後(1926年)に全国展開



自動車燃料効率化及購入助成法

(大正13年 法律第50号)

大衆と企業を「損得勘定」で誘導し、アメ車を市場から締め出すための法律

第3条【認定優良自動車の定義】

商工大臣は、以下の基準を満たす車を「認定優良自動車」とする。

高効率揮発油車: 排気量1.5リットル以下で、リッターあたりの走行距離が極めて優秀なもの(日産ダットサン等を想定)。

重油・軽油自動車: 燃料に重油・軽油を使用するもの(ディーゼル車は無条件で認定)。


第4条【購入助成金】

第3条の認定車を購入する者に対し、国は車両本体価格の3割(30%)を補助する。


第7条【資源浪費付加税】

認定を受けない自動車(燃費の悪いアメ車など)には、通常の自動車税に加え、高率の「資源浪費付加税」を上乗せして課税する。



次世代内燃機関開発奨励法

(大正13年 法律第51号)

メーカーに対し、失敗を恐れずに「ディーゼル」や「航空機用エンジン」の技術開発をさせるための法律。


第2条【特定重要技術の指定】

国は、国防上の重要技術として以下を指定する。

高圧縮点火機関: ディーゼルエンジンおよびその噴射ポンプ技術。

希薄燃焼機関: 省燃費型のガソリンエンジン技術


第3条【開発費補助】

前条の技術開発を行う企業に対し、その研究開発費の2分の1(50%)を国庫より補助する


第5条【政府調達の特例】

軍、鉄道省(国鉄)、郵便局などが購入する車両は、原則として第2条の技術を用いた国産車に限る。



道路運送車両保安基準(改正)

(大正13年 内務省・商工省令)

「安全」を名目に、当時のアメリカ車の標準仕様(木製ボディなど)を狙い撃ちにして排除する、事実上の非関税障壁


第10条【商用車の不燃化と防護】

トラックおよびバスは、火災防止のため以下の構造が必須となる。

燃料タンクの防護: タンクは鋼鉄製の枠と板で覆い、外部衝撃から保護すること(アメ車の剥き出しタンクを禁止)。

車体の不燃化: 客室や重要構造部に木材の使用を禁止する(当時主流の木骨ボディのアメ車を排除)。

火粉防止: 排気管には火の粉止め(スパークアレスター)を装着すること。

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