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古の灯火  作者: 丸亀導師
戦間期
58/82

海軍軍縮条約

――――――


1920年の帝国海軍の艦艇


1. 主力艦(戦艦・巡洋戦艦)

当時は、最新鋭の「超弩級」から、すでに型落ちした「弩級」「準弩級」までが全て現役でした。

超弩級戦艦(12隻)

長門型: 長門、陸奥(世界最強の41cm砲艦)

伊勢型: 伊勢、日向、播磨、紀伊

金剛型(巡洋戦艦): 金剛、比叡、榛名、霧島

加賀型: 加賀、土佐(※建造中)

天城型(巡洋戦艦): 天城、赤城(※建造中)

赤石型(巡洋戦艦): 赤石、荒川(※建造中)

弩級・準弩級戦艦(旧式:6隻)

河内型: 摂津、河内

薩摩型: 薩摩、安芸

香取型: 香取、鹿島

敷島型: 三笠


2. 航空母艦

鳳翔(史実よりも2年前倒し)

※1920年時点では建造中(1920年就役予定)。この時点では日本にまだ完成した「空母」は存在しませんでした。


3. 巡洋艦(約30隻以上)

重装甲巡洋艦(旧式含む):出雲、磐手、浅間、常盤、八雲、吾妻(日露戦争の武勲艦たち)

軽巡洋艦(最新鋭):天龍、龍田、球磨、多摩、北上、大井、木曾(5,500トン型が次々と就役中)

防護巡洋艦:筑摩、矢矧、平戸、利根、対馬、新高


4. 駆逐艦・潜水艦

駆逐艦(約100隻)

一等駆逐艦: 峯風型(最新鋭の高速艦)などが量産中。

二等・三等駆逐艦: 桃型、楢型、および日露戦争期の旧式艦が多数。


潜水艦(約40隻)

海大1型などが登場し始めた時期ですが、まだ沿岸警備用の小型潜水艦(呂号など)が主流。


――――――――


1922年 ワシントンDC 日本国総領事館


脂汗を流している海軍の武官・堀悌吉が重い口を開き、呟くように言った。


「幾つかの妥協をする他あるまい。」


その言葉を聞いて、外交官はやっと物事が前に進むのだろうという安堵を顔に浮かべていた。


「それで……、どれを妥協する?」


「赤石型の他あるまい、それなら向こうも納得する。戦艦2隻を生贄にするのだ、対英米7割は絶対だ。それが…、兵部省の絶対要件だ。」



―――――


赤石型巡洋戦艦 計画概要

計画時期:1919年〜1921年頃(ヴェルサイユ条約後、ワシントン会議開催直前)

艦級名:赤石型巡洋戦艦(仮称:赤石、駿河など)

隻数(計画):2〜4隻

排水量:基準約38,000〜42,000トン / 満載約45,000トン

全長:約250〜260 m

速力:30〜32 kt(通商破壊に最適な高速性)

主砲:30.5 cm(12インチ)3連装砲 × 3基(合計9門)

射程:約35,000 m(高初速弾使用時)

設計思想:従来の巡洋戦艦(金剛型)の高速性を維持しつつ、対艦30.5 cm砲弾に耐えうる装甲を施すことで、敵主力艦との偶発的交戦にも対応可能とする。

装甲:

舷側主装甲帯:30.5 cm(対艦30.5 cm砲弾耐性)

甲板装甲:約100〜150 mm

砲塔前面:約350 mm

機関:艦本式タービン + ロ号缶(総出力約130,000〜150,000馬力)

航続距離:約8,000〜9,000 NM(巡航速力18 kt時)

乗員:約1,200〜1,400名

設計思想の核心:

通商破壊を前提とした高速戦艦。

敵商船団・補給線を高速で襲撃し、敵主力艦隊との決戦を回避する。

装甲を弩級戦艦級に引き上げつつ、高速性を維持することで、「巡洋戦艦の最終進化形」を目指した。



――――


彼は、己の用いる裁量権を最大に使い、現在アメリカ合衆国ワシントンDCで開かれている国際会議。

海軍軍縮会議に於いて、日本側の用いる最大の要件である。主力艦艇の対英米7割を保証するようにと、駆けずり回っていた。


そもそも、この対英米7割という枠組みであるが、史実と違い実際帝国海軍としては、非常に頭の痛い物事であった。

潜水艦や通商破壊用の巡洋艦の脅威の増大という、新たな段階に進んだ戦争において、日本は新たに手に入れた領土の保全の為に、海軍に軍の整備を約束していた。


「しかし、赤石型は我が海軍の未来を担うはずの艦だった。

通商破壊、敵補給線撹乱……それらを誰が担うのか?」


外務省の男が本音を言う。実際、海洋に囲まれた日本国の資源。特に新たに手に入れた、ニューギニアやペルシアの利権。

日本海そのものを内海とする戦略上、通常護衛能力は必要不可欠である。

外務省も、その部分はしっかりとしていた。


それに対して堀は、渋い顔をしながらも答えた。


「現在急ピッチで進められている、空母鳳翔の戦力化。これを、通商護衛の中心に据え置けないか、我々は考えています。

空軍も規模を拡張し、各島嶼部に空港又は飛行艇港を構え、有事の際これを基地として運用出来るよう、戦略を練り上げています。」


会議室の空気は、重く淀んでいた。

外では、ワシントンの雪が静かに降り続け、窓ガラスに白い模様を描いていた。

外交官は僅かに息をすると、静かに口を開いた。


「米国は、我軍の長門型戦艦に対して非常に警戒をしている。本当に赤石型で大丈夫だろうか?」


「既に完成しているものを破棄しろと言うのであれば、我々は断固として拒否するのみです。

別に、我々とてこれ以上の建艦競争は望んでいないのです。

向こう側が勝手に脅威と思っているのですから、被害者面も甚だしい。」


外交官は、苦笑を浮かべた。


「しかし、米国は長門型の41センチ砲を『世界最強の脅威』と位置づけている。

赤石型を犠牲にしても、比率5:5:3.5を飲ませるのは、容易ではないだろう。」


堀は、静かに目を細めた。


「長門型は、我が海軍の誇りだ。

だが、赤石型は『通商破壊の切り札』として計画されたもの。

速力30〜32ノット、30.5センチ3連装砲3基、対艦30.5センチ装甲……これを失うのは痛いが、条約で重巡洋艦と軽巡洋艦の制限が緩和されれば、赤石型の役割はそちらで引き継げる。

戦略的に見れば、こちらもまた脅威でしょう。我々が敢えて、押すように見せれば、相手も乗ってくるでしょう。」


外交官は、手を顎に当てゆっくりと頷いた。


「つまり、赤石型は『生贄』として差し出し、長門型と伊勢型4隻、金剛型4隻の10隻を残す。

これで、質的優位を維持しつつ、比率5:5:3.5を勝ち取る……ということか。

米国は納得するだろうか?」


「納得するしかないでしょう。我々は妥協するのです。向こうも妥協をしなければ、建艦競争が続くだけですから。英国はそれを黙って見ていることは出来ない。必ず、米国に引くように言うでしょう。」


実際英国には、建艦競争を競り勝つだけの余裕は無い。

消耗した体力を回復し、来たるべき戦いに備えなければならないにも関わらず、無駄に巨艦を作り続けた事によって、財政は圧迫されているのだ。

しかし、守らなければならない面子もあるのだから、そこを立てるために、日本側の意見も取り込むだろうという算段だ。


「それに、我々は我々で次の戦いに備えなければなりません。海軍ばかりが拡張していては…、国が成り立たない。その為の研究会ですから。」


堀悌吉は、静かに言葉を締めくくった。

外交官は、ゆっくりと頷きながら、机の上に置かれた艦艇一覧表を指でなぞった。


「では、芝居を打つのですね。」


「そうだ。

我々は英米比7割を堅持する。これ以上は認められない、と。」


堀の声は低く、しかし確固としたものだった。


「米国は長門型の41センチ砲を恐れている。

英国は中東での貢献を忘れられない。

両国とも、建艦競争の継続は避けたいはずだ。

ここで我々が強硬姿勢を見せれば、向こう側は折れるしかない。

赤石型を犠牲にし、長門型と伊勢型4隻、金剛型4隻の10隻を残す。それで十分だ。」


外交官は、静かに息を吐いた。


「芝居とはいえ、赤石型は確かに惜しい艦でした。

通商破壊、敵補給線撹乱……それらを担うはずの艦だったのに。」


堀は、僅かに目を細めた。


時は少し下る。


日本側使節団と面会するのは、米英仏の代表団である。


ワシントン海軍軍縮会議の会議室は、重厚な木製のテーブルを囲むように、各国代表が着席していた。


米国からはハーバート・フーバー商務長官とエドワード・ハットン海軍次官補


英国からはアーサー・バルフォア外相とロバート・ホーン財務大臣


フランスからはアンドレ・ターディュー外相代理とジョルジュ・レイノー海軍次官補が代表として出席していた。


日本の席には、堀悌吉海軍少将と牧野伸顕外務大臣代理が並び、傍らに通訳と書記官が控えていた。


会議の議題は、すでに核心に迫っていた。

主力艦保有比率、航空母艦制限、巡洋艦・駆逐艦のトン数上限、そして潜水艦の扱い。


米国側代表のハットンが、まず口を開いた。


「日本側の要求する比率5:5:3.5は、太平洋の均衡を崩すものです。

我が国は、太平洋の平和のため、5:5:3を堅持します。」


英国のバルフォア外相は、静かに頷きながら付け加えた。


「我が国も同様の見解です。

日本は中東での貢献を果たしたことは認めますが、戦艦の質的優位はすでに十分です。

比率3を越えることは、連合国全体の安全保障に悪影響を及ぼすでしょう。」


フランスのターディューは、言葉少なに同意を示した。


堀は、ゆっくりと息を吸い、静かに応じた。


「我々は、建艦競争の継続を望んでいません。

しかし、赤石型巡洋戦艦を含む建造中艦艇の廃棄は、すでに大きな譲歩です。

長門型と伊勢型4隻、金剛型4隻の10隻を残すことで、質的均衡を維持できると考えるのが当然です。

これ以上譲歩すれば、我が国の防衛力は著しく損なわれます。」


米国側は、沈黙した。

ハットンは、資料をめくりながら、苦々しい表情を浮かべた。


「赤石型は、通商破壊を前提とした高速戦艦です。

その設計思想は、太平洋の補給線を脅かすものです。

それを廃棄する代わりに、比率3.5を認めるというのは、過大な要求です。」


堀は、静かに目を細めた。


「では、米国は我々に何を望むのですか?長門型と伊勢型を廃棄しろとでも?

それは、我が国の生存権を脅かすに等しい。」


部屋の空気が、さらに重くなった。

英国のバルフォア外相が、ゆっくりと口を開いた。


「両国とも、建艦競争は避けたいはずです。

英国も、財政が圧迫されている。ここで妥協点を模索すべきでしょう。」


堀は、静かに頷いた。


「我々は、赤石型を犠牲にします。

しかし、比率5:5:3.5は絶対です。

これ以上は、認められません。」


米国側は、長い沈黙の後、渋々同意を示した。


ワシントン海軍軍縮会議は、1922年2月6日に調印された。

日本は主力艦保有比率5:5:3.5を獲得し、赤石型を含む建造中艦艇の多くを廃棄した。

しかし、その代償として、条約制限下での重巡洋艦と軽巡洋艦の増強が許された。


それは日本側の思想をある種転換しなければならない事態ではあったが、米英に対して七割の戦力の保持を認められるというものはとても大きな収穫であった。



―――

条約の正式名称

正式名称:ワシントン海軍軍縮条約(Washington Naval Treaty of 1922)


参加国:米国、英国、日本、フランス、イタリア(5大国)


主な内容(本世界線での確定事項)

主力艦保有比率

米国:英国:日本 = 5:5:3.5

日本が中東戦線での貢献と赤石型巡洋戦艦の廃棄を交換条件に、3.5を獲得。


具体的な保有上限トン数(基準排水量):

米国・英国:約52.5万トン

日本:約36.75万トン(史実約31.5万トンより約5.25万トン有利)


主力艦の定義と制限

戦艦および巡洋戦艦の合計トン数に制限。

個艦基準排水量上限:35,000トン(史実通り)。

主砲口径上限:16インチ(40.6 cm)(史実通り)

建造凍結期間:10年間(1922〜1932年)


航空母艦の制限

保有トン数比率も主力艦と同様(5:5:3.5)

個艦基準排水量上限:27,000トン(史実通り)。

日本は鳳翔の就役(1922年)を認められ、赤城・加賀の空母転用も黙認


巡洋艦・駆逐艦・潜水艦

巡洋艦:口径上限8インチ(20.3 cm)、トン数制限なし(史実通り)

駆逐艦・潜水艦:トン数制限なし(史実通り)

潜水艦の完全廃止要求は回避され、日本は伊号潜水艦の開発・配備を継続。


南洋諸島委任統治

旧ドイツ領南洋諸島(マリアナ、カロリン、マーシャル、パラオなど)の委任統治権を日本が維持。

軍事制限条項は名目上存在するが、実質無効化(要塞化継続が黙認)。


その他の重要事項


パナマ運河中立化提案:米国が強く反対し、不採用。

極東のシホテルーシ共和国:条約対象外として黙認(既成事実化)


日本の獲得成果と代償

成果

主力艦比率の有利化(3.5)により、戦艦保有枠が史実より約5万トン増加。

長門型・伊勢型4隻・金剛型4隻の10隻を維持し、質的優位を確保。

南洋諸島の軍事制限無効化により、太平洋絶対国防圏の基盤を固めた。

重巡洋艦・軽巡洋艦の制限緩和で、通商破壊能力を強化。


代償

赤石型巡洋戦艦(赤石、荒川など建造中)の廃棄。

加賀・土佐・天城などの建造中止(一部空母転用)。

米国との潜在的緊張の高まり(太平洋均衡への警戒)。




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