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古の灯火  作者: 丸亀導師
第一次世界大戦
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北方戦域


1917年秋頃、中東戦線での日本の活躍はその後も続いており、数の少なさ故に前線での活躍は低調になっていたものの、後方支援を中心としたメソポタミア周辺地域での治安維持活動を行なっていた。


陸軍は1個師団という戦術単位としての数の少なさから、積極的攻勢に出るのは、自殺行為となるという判断と、先の戦闘からの英軍からの理解を得ることに成功した事により、其れ等の動きが実現することとなった。


海軍に関して言えば、ペルシャ湾からヨルダン川西岸地区までの補給路を守り続けており、決定的海戦は起こらなかったものの、偵察や散発的な沿岸砲撃等で少ない戦果を上げていた。


一方で、空軍は特に戦闘機部隊の活躍が目覚ましく、英軍航空隊と協力しつつ、オスマン軍航空隊による口腔偵察に対しての迎撃任務を行いながら、偵察機による偵察と軽爆撃任務を行い、その存在感を堅持していた。


そんな派遣軍の動きとは打って替わり、極東での日本の動きもまた活発となっていた。


1917年2月頃に起きたロシアでの2月革命を皮切りに、ロシア国内は内部分裂を起こし、内戦状態となっていた。


日本は要人保護の名目に、当時企業などの進出が活発に行われていた、ウラジオストク、漁業権を獲得していたカムチャツカ半島のペトロバプロフスク等に、派兵を決定。数千人規模の小規模な派兵であったが、現地ロシア軍との共同歩調を約束し数カ月の間に、実効的な軍事支配態勢を整えつつ、現地住民に対しての、一定の経済的,人道的支援を開始していた。


しかし、事態は急変することとなる。


10月の終わり頃、突如として社会主義左派勢力ボリシェヴィキによる革命運動が起こると、其れ等の影響はまたたく間に拡がりを始める。

立憲民主党主導のロシア臨時政府は、これらに対応に奔走するものの、この所謂10月革命の勢いは途轍もないものであった。


当日直ぐに、ソビエト社会主義共和国の樹立を宣言すると、反革命運動主義を掲げる勢力。または、革命に消極的な勢力に対して、武力行使を決行。

これによって臨時政府は、力を急速に喪いロシア国内は内戦へと突入していった……。


大日本帝国首脳部は、これらの事態に対して北方への軍事力強化を議会で可決。

ウラジオストク並び満州への陸軍大凡5個師団の派遣を決定、連合国との協議の結果、内戦への限定的介入を行う。

日本軍は「連合国共同出兵」の名目で、ウラジオストク並びに沿海州の実効支配を強め、ここに本格的なシベリア出兵が始まった。



翌年の初め頃


日本軍はこの出兵に対して、まずシベリア鉄道の支配を確立すると共に、ロシア軍反革命部隊である。『白衛軍』と呼ばれる者達と接触を果たし、ハバロフスク・アムール川流域を占領。

現地親日派ロシア人(白軍系・コサック)を支援し、「沿海州自治政府」を樹立。


これ等の防衛に専念していた……。



沿海州自治政府の臨時首都

ウラジオストク・スヴェトランスカヤ通り22番地、行政庁舎の奥まった一室。

暖炉の火が弱々しく揺らめき、部屋を薄橙色に染めていた。

外では、シベリアの冬風が窓を叩き、雪が静かに積もっていく音が聞こえる。


室内にいるのは、かつてロマノフ王朝の輝きを象徴した5人の若者たち。

中央のベッドに横たわる少年――アレクセイ・ニコラエヴィチ皇太子は、顔色が青白く、血友病の症状で体を震わせていた。

彼の傍らに座るのは、姉のオルガ・ニコラエヴナ皇女(21歳)


彼女は弟の額に冷たい布を当てながら、静かに言葉を続けた。


「伯父様、キリル・ウラジーミロヴィチ大公伯父様。今、国土は、民はどうしているのでしょうか?」


部屋の隅に立つのは、キリル・ウラジーミロヴィチ大公

彼は軍服の上に厚手のコートを羽織り、厳しい表情で窓の外を見つめていた。


「オーリェチカ、今国は乱れている。かの伝統も格式も分からぬ者達によって、民は惑わされ、殺戮が始まっている。

だが、我々にはそれを止める術はない。」 


キリルの声は低く、抑揚を抑えていた。

しかし、その言葉には、深い絶望と、わずかな決意が混じっていた。

隣に立つのは、タチアナ・ニコラエヴナ皇女

彼女は静かに手を組んでいたが、瞳には涙が浮かんでいた。


「父上と母上は……本当に……」


言葉を最後まで言い終えることができなかった。

1918年7月、ソヴィエト当局が


「ニコライ2世と家族全員の処刑」


を宣言した報せは、極東に逃れた皇族たちに衝撃を与えた。

だが――ここにいる5人は、死んでいなかった。


アレクセイ、タチアナ、オルガ、マリア、アンナスタシア。

ニコライ2世とアレクサンドラ皇后の5人の子息は、奇跡的に生き延びていた。

彼らを救ったのは、日本軍の諜報網と、極東に残った親日派ロシア人貴族たちの献身だった。


1917年秋、ボリシェヴィキの粛清が迫る中、皇族たちはシベリア鉄道の秘密列車で極東へ脱出。

日本軍の海軍陸戦隊と中野学校相当の特殊部隊が護衛し、ウラジオストクに到着したのだ。


今、彼らは「シホテルーシ共和国」の象徴として、生きていた。

アンナスタシア・ニコラエヴナ皇女(16歳)は、部屋の隅で静かに座っていた。


彼女は、幼い頃の記憶を思い出すように、ゆっくりと口を開いた。


「私たちは、もうロシアには戻れないの?」


キリル大公は、ゆっくりと振り向いた。


「戻るべきロシアは、もうないのかもしれん。

だが、ここに新しいロシアを築くことはできる。

我々は、生き延びた。それだけでも、希望だ。」


タチアナが、弟のアレクセイの手を握りながら言った。


「日本の方々は、私たちを守ってくれている。

ここで、私たちは生きる意味を見つけなければならない。」


アレクセイは、弱々しい声で呟いた。


「父上は……いつも言っていた。

ロシアは、どんな時も立ち上がれる……と。」


部屋に、重い沈黙が落ちた。

外では、雪が静かに降り積もり、ウラジオストクの街灯がぼんやりと灯っていた。


シホテルーシ共和国は、まだ脆弱だった。

ボリシェヴィキの影は、極東にも忍び寄り始めていた。

しかし、ここにいる5人の皇族は、生きていた。

そして、その存在自体が、日本軍の極東支配を正当化する、最大の象徴であった。


キリル大公は、窓の外を見ながら、静かに決意を新たにした。


「我々は、ここで新しいロシアを築く。

たとえ、それが日本軍の庇護の下であっても……」


雪は、静かに降り続いていた。



同日 チタ


雪の降る凍土、その上空を飛び上がる巨大な機体。

両翼に日の丸を掲げるその単翼機は、空をわがまま顔で飛んでいる。

大正6年式双発爆撃機

―――――――――

全長:約12.5〜13.0 m

全幅:約18.0〜19.0 m

全高:約4.2〜4.5 m

自重:約3,800〜4,200 kg

最大離陸重量:約6,200〜6,800 kg

機関:国産水冷V型12気筒エンジン2基(出力各約300〜350馬力、英国ロールス・ロイス・イーグルエンジンの国産改良型)

最大速度:約150〜165 km/h(巡航速度約120〜130 km/h)

航続距離:約800〜1,000 km(爆装時)

実用上昇限度:約5,000〜5,500 m

乗員:3〜4名(操縦士、爆撃手、機銃手)

武装:

爆弾搭載量:最大約800 kg(250 kg爆弾×3発、または100 kg爆弾×8発)

防御機銃:11 mm重機関銃2〜3挺(前部・後部銃座)

特徴:

双発レイアウトによる安定性と信頼性向上。

初期から単葉翼を採用


――――――――――

それが、空を数機の編隊を組んで飛んでいる。

それをエンジンを強化された、5年式戦闘機が護衛しながら西へ西へと飛んでいた。


次第に見えてくるのは、幾つかの人影。

その数は数千は下らない。それが東西に別れて銃撃をしている。

そんな最中にこの機体は、西側に着いている方の頭上へとやってくると、胴体下部に取り付けられている60kg爆弾を次々と投下して行く。


ヒュルヒュルヒュルヒュル


という風切り音と共に、落下していくそれは人々の中央に落ちると、火花と共に炸裂しその人々を血花へと変えていく。

護衛の戦闘機は、それを確認しつつ地上へと接近すると混乱しているそこに対して、機銃をばら撒いていく。


コレは堪らないと、そう判断したのだろう。指揮官が号令をかけると、彼らは一目散に逃げていく。

それを、東側に見ている人々は手を大きく振り上げる。

幾つかの号令の後、彼らは荷物を纏め上げて東へ東へと進んで行く。


彼等を待つ人々の元へと向かうために、彼らは今日も進んでいるのだろう。


「主義者の連中は懲りないな…、もう何日もやっているのにキリがない。」


爆撃機の操縦席でパイロットが呟くと、空を眼下にしつつ来た道を戻っていく。

この機体が戦場を飛ぶのは、今日で既に3回目であった。



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