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古の灯火  作者: 丸亀導師
第一次世界大戦
52/84

展望


――――――――――――――

皇軍奮迅す! 中東戦線に輝く勝利の光 


クート解囲・バグダッド占領 英軍を救い、オスマン軍を粉砕

我が帝国陸海空軍合同派兵部隊は、英国軍の要請に応じ、遠く中東の砂漠戦場に於いて、未曾有の勝利を収めた。


クート・アル・アマラの包囲を解き、オスマン軍を崩壊させ、バグダッドを無血に近い形で占領するに至ったこの戦いは、連合国全体の戦線に決定的な転機をもたらしたものである。


戦場の実情は苛烈を極めた。灼熱の砂漠、日中の気温は30度を超え、夜間は急激に冷え込む。補給線は長大で、水源は限られ、敵の包囲網は鉄壁の如く堅固であった。英国軍タウンゼンド少将隷下の1万3千名は、飢餓と疾病に苦しみながらも耐え抜き、我が軍の到着を待ちわびていた。 


神尾光臣中将指揮下の我が軍は、ペルシア湾岸ブーシェフルに上陸後、わずか12日で350粁を超える砂漠を横断し、ティグリス川東岸に到達した。


大正5年式軽戦車が砂塵を巻き上げ、自動車化歩兵がこれに随伴し、空軍の偵察機・戦闘機は上空を制圧しながら観測射撃を誘導した。

英国軍が西方から正面を圧迫する中、我が軍は東方から側面を突き、敵の包囲網を内側から崩壊させた。


この戦いにおいて、我が軍の損害は極めて軽微であった。総兵力2万名に対し、死傷者は数百名に留まる。

一方、オスマン軍は数千名を失い、統制を崩壊して退却。英国軍も包囲下の長期消耗を日本軍の迅速な支援により救われた。

この勝利は、単なる戦果に非ず。


我が帝国軍は、遠き異国において、列強の一員として堂々と立ち上がり、連合国を支える存在であることを、世界に示したのである。

今やバグダッドは我々の手に落ち、中東戦線は連合国優位に転じた。


しかし、勝って兜の緒を締めよ。


戦いはまだ終わっていない。次なる戦場、次なる試練が待っているかもしれない。

軍部はこの戦訓を徹底的に学び、さらなる質的優位を築かねばならない。


国民もまた、皇軍の奮迅に報いるべく、団結と覚悟を新たにせよ。

大日本帝国軍は、世界の戦場にその名を刻んだ。

栄光あれ、皇軍に。

栄光あれ、大日本帝国に。



――――――――――――――


そんな新聞を片手に見ながら、研究会の将官たちは先の戦闘での報告を吟味していた。

オスマンの動きに対する、皇軍の動きは正しく流水の如き活躍によって、英国より礼の言葉を賜るほどの戦果であるという。


しかし、そんな話題とは裏腹にここにいる者達は、事案に耽っていた。

空軍の創設に伴い、この軍学研究会には民間からの人間も加わる事になり、今回はその記念すべき第一回会議でもあった。


「国民が高揚するのは別に良いが、軍全体にもこれらの影響が波及しつつある。適度な戦意は良いことだが、抑制的にすべきだろうか?」


「既に先手を打って、新聞側には、ある程度の節度を持つようしています。しかし、これらは後々の課題ですね。」


総力戦という形は、今まで人類が経験したことのない戦争形態である。

確かに日露戦争は、準総力戦と見れるがそれでも国家連合同士が全力でぶつかり合い、戦線を構築するという形には至っていないのだから、この戦争の異様さであろう。


「我々は、軍事だけではなく、国家全体の統制を研究しなければならない。

戦う前に戦う準備をし、戦った後に戦いを活かす。

それが、研究会の本当の使命だ。」


軍学研究会の意義は変容し始めていた。軍学研究会は、古き軍学から学ぶだけでなく。これからの戦争に対する、総力戦と軍民の力関係の研究や、国家全体の統制を志向し始めていた。


それは最早、軍学研究とは名ばかりに総力戦そのものを研究するものという事である。

なお、後年となる1929年にこの研究会は、総力戦研究会と名を変えることとなる。



総力戦に対する幾つかの意見を纏めている傍ら、中東戦線での戦果と詳報から、兵部省統合参謀本部へと向かったものの内、最も重要度の高いと思われるものを彼らは抽出していく。


特に、航空機分野に対する不満が顕著に多い報告書に目が行っていた。



「山本航空参謀からの報告によれば、戦闘機による対陸上支援は上々であるが、しかし専用の航空爆撃機が必要か…。

やはり偵察機による手榴弾だけでは、限界があるという事だな。

懸架装置の開発はどうなっているのか?」


「はい、一応物は出来ていますが、如何せん重量があります。

将来的に単葉機にも搭載可能ではありますが、現状開発中の双発機に搭載するのが主要になるかと…。」


それぞれが考えていく、航空機という新兵器の扱いは非常に難しいものである。

果たしてどのようなものが最適解であるか、ソレこそ試作を繰り返すしか無い。


「青島では偵察機からの投弾で十分だったが、メソポタミアの広大な砂漠戦線では話が違う。 敵の塹壕・補給拠点・陣地を一撃で破壊するだけの爆弾を、正確に投下できる機体がなければ、我々の機動包囲はいつか行き詰まる。」


それに対して、空軍の徳川好敏准将が答える。


「双発爆撃機の初飛行は今年の12月を予定しています。

現在の試作機は、英国のハンドリー・ペイジO/400を参考にしつつ、我が国の軽量化技術を投入したものです。

最大搭載量は800kg程度、航続距離は約1,000km。

これに懸架装置を組み合わせれば、250kg爆弾を4発、または100kg爆弾を8発まで搭載可能と見込んでいます。」


「それで十分だ。

我々は、常に敵の背後を取る戦い方を追求してきた。

しかし、敵が深く塹壕を掘り、補給を固めた場合、側面から包囲するだけでは決着がつかないこともある。

その時に、空中から一撃で敵の心臓部を突く爆撃機が必要になる。」


会議室の空気が、重く沈んだ。

一人の将校が、静かに付け加えた。


「陸上戦からの詳報では、英国軍の75mm砲が曲射で敵陣地を崩しましたが、それでもオスマン軍の抵抗は頑強でした。

我が軍の軽戦車と航空機の連携で勝てたのは、敵がまだ航空の脅威に慣れていなかったからです。

次に同じような戦場が来たら、敵はより深く掩体を掘り、対空火器を強化してくるでしょう。」


「だからこそ、双発爆撃機は急務です。

航続距離1,000kmあれば、ペルシア湾からクートやバグダッドまで往復可能です。

懸架装置が完成すれば、急降下爆撃ではなく、水平爆撃による精密投下も可能になります。」


各々が意見を言い合う。

そして、其れ等の形は確かに日本軍の行く末を暗示していた。

ただ、そんな中にあって唯一会議に深い関わりを持っていない者達がいる。

それは海軍であった。


海軍の戦闘詳報は、正直言えば派手さは無い。寧ろ、敵艦隊を見つけて攻撃した、回避した。航空機の偵察力は効率的に良いという、そう言った内容ばかりであるからだった。


「海軍としては航空機の有用性を認めつつも、やはり、専用の航空機運用艦の必要性が急務であると言わざる負えない。

このまま航空機が進化を続ければ、戦闘艦艇に対する直接攻撃も可能となるかもしれない。」


今回の会議にも参加していた秋山真之は、イギリスによる敵艦に対する雷撃、其れ等の詳報を幾つか欧州から受け取っていた海軍は、航空機に魚雷攻撃を可能とするものを思案していた。

それと同時に、航空機という物が潜在的に、戦艦の砲に匹敵する力を保持しているとも考えていた。


「何れにせよ、陸海空そして民の全てが足並みを揃えなければ、大戦は生き残れないという事は確かだろう。」


との結論で占めていた。


そして、もう一つの議題。喫緊の問題である、ロシア革命に対する北方への派兵に対して、幾つかの課題を持ち出した。


陸軍の将校が口を開く。


「現在我々は、カムチャツカ半島と沿海州に限定的な派兵を送り出している。

コレは要人保護の観点から致し方ないものであり、国際的に見てもある程度の理解は得られるだろう。

問題は、それ以北である。

ロシア帝国は崩壊し、臨時政府は混乱の極みにあり、ボリシェヴィキの勢力は急速に拡大している。

極東の空白は、我々が埋めねばならない。」


それに対して補足する形で加藤定吉中将が、慎重に言葉を選びながら応じた。


「しかし、問題は二つある。

一つは、ボリシェヴィキの浸透速度だ。

彼らはすでに沿海州に工作員を送り込み、現地住民への宣伝を始めている。

我々が軍事力で押さえつけるだけでは、長期的な安定は得られない。

現地ロシア人やコサック、遊牧民との協力体制を構築しなければ、いつか背後から刺されることになる。」


それに対して徳川好敏が更に手を挙げた。


「もう一つの問題は、連合国側の反応だ。

英国・フランス・米国は、シベリア出兵を『連合国全体の共同事業』と位置づけ、我が国の単独行動を警戒している。

もし我々が沿海州以北に深く進出すれば、『日本はロシア領土を蚕食しようとしている』との非難が強まるだろう。」


日本軍は、大日本帝国は次の時代を模索しながら。道なき道を歩こうとしていた。






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