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古の灯火  作者: 丸亀導師
第一次世界大戦
44/84

空軍創設

研究会での審議

1915年3月、東京・陸軍大学校近郊の研究会室。

春の陽光が、窓から柔らかく差し込んでいた。

日本軍学研究会の会議室は、いつもの静けさに包まれていた。

青島攻略戦の終結から数ヶ月が経過し、研究会メンバーは、欧州観戦武官からの報告書を基に、戦争の帰趨を議論していた。

机の上には、航空機の有用性を強調する報告書と、青島での偵察機活躍の戦訓が置かれていた。

長老の一人、松川敏胤大佐は、報告書を読み終え、静かに言った。


「事ここに至って、欧州大戦では益々航空機の有用性が発揮されている。

今一度、航空軍の設立に対する問答を執り行いたい。異議のあるものはいるか?」


彼の言葉に対し、手を挙げるものは皆無であった。それもそのはず、昨年の12月、この場にいるメンバーにそれらに対する決を取った時、異議を申し立てる者はいなかった。


今や、欧州大戦での航空機の活躍は鰻登りであり、早晩これらの者から、参謀本部へと談判する者が現れても、不思議なものではなかった。

松川が周囲を見ると、手を挙げるものはいない。


「では、始めたいと思う。意見あるものは要るか?」


そのひと言に対して、多くの者が手を挙げる。これは積極的に思う事を、受けれやすい体制がここに根差している何よりの証拠である。

真っ先に手を挙げた将校がいた…、彼は緊張に僅かに頬を赤らめながら、真剣な眼差しを松川へと投げかけていた。

襟首には未だ、軍に入ったばかりである証しの、少尉の徽章が輝いていた。


「そこの…、見ない顔だな。新人かね?名を何と言う?」


松川はその将校を指差し、名を尋ねた。


「ハッ!石原莞爾少尉であります!烏滸がましくも、意見を述べさせて頂きたく!!」


緊張で頬が赤らんでいた。

松川や、好古等古株の人間は、その初々しさに少し頬が綻んだ。まるで、昔のコソコソとやっていた頃の自分達を見ているようだった。


「よろしい、では石原莞爾少尉。貴官はこれらに対しどの様な意見を持つか?」


それに気分を良くしたのか、彼は臆することなく前に進み出て、声を張った。


「先ずは、航空軍の所属士官を如何様に決めるかが、寛容であると考えます!!」


真っ当な答えが返ってきたことに、首を縦に振る。それに対して、文句を言うものは一人もいない。しかし、その後に直ぐに手を挙げるものがいた。


「航空研究部所属の山本五十六です。

空軍創設にあたり、海軍としては独自の航空部隊の創設を考えております。

コレは私個人の見解ではなく、秋山真之少将の意見でもあります。

海軍は、陸軍と違い、洋上で定期的な航空部隊の援護を預かることができません。

敵地攻撃をする為に、航空機運用能力を持つ艦艇が必要となります。

その場合、空軍位の部隊があると非常に混乱が生ずる可能性があります。」


これに対する意見は海軍側からは根強く、既に議論されていたものの、再考の余地ありとして留め置かれていた事もあった。

そして、当然ながら陸軍側からこのような返答が返ってくる。


「海軍ばかりが航空隊を持つ、それはあまりにも不公平ではないか?」


と、それに対する答えは口論へと発展する余地もあったが、元老として研究会を今回限りまでとした、好古が立ち上がった。


「三軍とすれば、部隊運用に対して均衡が産まれる。陸海はそれぞれ中が悪い事も、昔のものであればよく理解出来ていよう。

然らば、3つ目の組織があればそう。

三国志で言うところの、天下三分の計と言ったところだろうな。」


好古のその言葉は、この研究会の人間であれば誰しもが納得のいく言葉であった。

他のメンバーも、次々と意見を述べた。

航空担当の若手中佐が、言った。


「航空機の開発は、一元化すべきだ。陸海の別々では、資源の無駄が生じる。」


海軍側の若手が、再び言った。


「艦載機の開発は、海軍独自で進めるべきだ。航空機母艦…空母の可能性を、探らねばならない。」


議論は、活発に続いた。

研究会は、空軍創設の必要性を確認し尽くしていた。陸海の連携と、新軍の独立。


それが、結論だった。


松川は、まとめを述べた。


「空軍の創設を、参謀本部へ具申する。大日本帝国航空軍として、新軍の創設を提案するものとする!!」

メンバーたちは、頷いた。

意見書は、血判を押され、送られた。



―――――――――――――――――――――――――――――


件名: 大日本帝国航空軍の創設に関する意見具申


青島攻略戦および欧州観戦武官報告を基に、航空機の軍事的有用性が顕著に証明された。

偵察・観測の効果は、戦況を左右するまでに至っている。 


しかし、現行の陸海軍共同研究部隊では、開発・運用の統合が不十分であり、長期戦の兆しが見える欧州大戦に対応できない。

よって、航空部隊を独立した軍種として創設し、以下の要項で推進することを具申する。


1. 創設の必要性

航空機は、陸海の共通戦場である上空を支配する新兵器である。

偵察・観測の役割を超え、攻撃・迎撃の可能性が拡大している。

陸海軍の別個運用では、資源の無駄と連携の遅れが生じる。

一元化された航空軍により、開発・教育・運用の効率化を図る。

 

2. 組織概要

名称: 大日本帝国航空軍(略称: 帝国空軍)

地位: 陸軍・海軍と並ぶ独立軍種。

参謀本部に航空本部を設置し、総力戦対応の指揮を一元化。

人員構成:

陸海軍からの転属将校・下士官を基幹とし、民間技術者を積極登用。

初年度規模: 約3,000名(操縦士800名、整備士1,500名、その他700名)。

予算: 陸海軍予算から抽出(各軍の約10%相当)。

航空機生産・教育施設の建設を優先。


3. 開発・運用方針

開発一元化:

航空力学研究所を基盤に、民間企業(三菱・中島・川西等)との連携を強化。

機体・エンジン・武装の国産化を急ぎ、陸海共通仕様を標準化。

機種開発優先:

偵察機の改良(航続距離・信頼性向上)。

爆弾投下装置の搭載試験。

戦闘機の開発(機銃搭載、同期射撃装置)。

無線通信の音声化研究。

教育・訓練:

所沢・横須賀に航空学校を統合設置。

陸海合同演習を定期化し、連携を強化。


4. 長期戦への備え

欧州大戦の長期化兆しを考慮し、航空軍は総力戦の鍵となる。

上空支配が、陸海の機動を支え、補給線・敵情把握を確保する。

早期創設により、日本軍の質的優位を維持し、国家防衛を強化する。

以上、帝国空軍の創設を強く具申する。

研究会メンバー一同の総意である。


―――――――――――――――――――――――――――――


1915年夏、東京・参謀本部および軍令部合同会議室。


日本軍学研究会の意見具申書が、参謀本部と軍令部に届けられてから、数週間が経過していた。

具申書は、帝国空軍の創設を強く求め、三軍の均衡と航空開発の一元化を提言していた。


合同会議室では、陸軍参謀総長田中義一と海軍軍令部長秋山真之が、具申書を基に議論を進めていた。

田中総長は、書類を手に、静かに言った。


「研究会の具申は、理に適っている。

航空機の有用性は、青島と欧州観戦で証明されているからな。

三軍とする事を、要請すべきではある。」


秋山部長は、頷いた。


「海軍としても、同意だ。と言うが、我々も研究会に所属しているのだから、当然と言えば当然であるが…

しかし、陸軍省と海軍省が、新たな空軍省の創設に抵抗するのは、予想される。」


確かに、陸軍省と海軍省は、予算・人事の分離を重視し、新省庁の創設に慎重だった。

陸軍省は、航空を陸上支援の延長と見なし、海軍省は艦載機の独自運用を主張していた。


田中は、提案した。


「抵抗を避けるため、三軍を統合し、兵部省の傘下とするのはどうか。」


秋山は、静かに考え、答えた。


「兵部省を復活させ、陸海空を統括するか…なるほど、確かに明治政府が建てられた当時、軍を統合統括下に置こうとした時期があったな。

参謀本部を兵部省の下とし、陸海空の参謀本部を統合。

三軍の参謀長を統合し、統合参謀長を擁立する。これならばいけるだろ。」


この提案は、研究会の上申を基に、軍の再編を伴う大胆なものだった。

陸海の対立を解消し、総力戦対応の組織を構築する。


田中は、結んだ。


「これで、抵抗をある程度は抑えられる。

それでも抵抗ある場合は…、権力を振りかざすしかあるまい。

兵部省は、統合参謀長を擁立し、国家防衛の総責任を負う。」 


秋山は、頷いた。



1915年夏、東京・内閣府。

日本軍学研究会の意見具申書は、参謀本部と軍令部から内閣へ上がってきた。


大隈重信首相は、書類を前に、深いため息をついた。

具申書は、帝国空軍の創設と三軍統合を求め、兵部省の復活を提言していた。


欧州大戦の長期化兆しと青島の戦訓が、軍の再編を迫っていた事を理解していたが、内閣会議は過熱した。


特に当時の陸軍大臣と海軍大臣は、新軍創設に抵抗した。


陸軍大臣は、言った。


「たとえ参謀本部の意見とは言え、航空は、陸軍の支援が主な任務である独立させる必要はない!」


こういう時だけ仲が良いのか海軍大臣も同調した。


「艦載機は、海軍のものだ。空軍省など、予算を食うだけで我々の運用に支障をきたすだけだ!!」


議論は、激しくなった。


しかし、陸海それぞれの軍部からの突き上げが、各大臣の発言を弱くしていた。


憲法改正の必要性が高まり、大日本帝国憲法の軍事条項(統帥権・軍令権)を改め、三軍統合を可能にする案が浮上した。


しかし、ここである問題が生じた。憲法改正の手続き自体が、憲法に明記されていない問題が指摘されたのだ。


明治憲法は、改正手続きを詳細に規定しておらず、慣習的に天皇の裁可と帝国議会の議決で対応されていたが、新軍創設のような大改正には、手続きの明確化が不可欠だった。


大隈首相は、憲法学者と協議した。


改正手続きを憲法に組み込む案が、提案され、改正案の骨子は、以下の通りだった。


憲法改正の発議: 天皇の勅命または帝国議会(衆議院・貴族院)の議員総数の3分の1以上の賛成により、改正案を提出。

議決: 帝国議会の両院で、各々総議員の3分の2以上の出席と、出席議員の3分の2以上の賛成で可決。

公布: 天皇の裁可を得て公布し、即時または指定日より施行。

この手続きを憲法に新設し、軍事改正(兵部省創設、三軍統合、帝国空軍の独立)を併せて実施する。


これらを臨時招集した国会で突如として突きつけられた議会は、その議論は、過熱した。


特に野党議員は、「憲法の神聖性を損なう」と反発し、猛反発を示した。


しかし、大隈には大正天皇から厳命が下っていた。


「奉公として、やりなさい。」

天皇の言葉は、重かった。

大隈は、辞職を撤回してまで、改正案を帝国議会へ提出したのだ。


それでも、議員からの猛反発は止まなかった…。しかし、そこで有ることが起きた。

大正天皇が、議場に現れたのだ

そして、御言葉を発した。


「国家の安危は、軍の強さにあり。航空の時代が、来ている。

改正を、速やかにせよ。帝国臣民が、枕を高くして眠ることが出来るようになることを、朕は切に願う。」


天皇の言葉は、議場を静かにした。


即座に、改正案が審議され、衆議院・貴族院で3分の2以上の賛成を得た。


手続きの新設が承認され、軍事改正(兵部省創設、三軍統合、帝国空軍の独立)が併せて可決された。


年内に発布され、即時効果を発揮した。


大日本帝国憲法の初の改正は、政党政治始まって以来の出来事だった。

大正天皇の決断が、軍の変革を促した。



改正大日本帝国憲法



第4条の改正(内閣の位置づけ)

(旧)内閣は、天皇を輔弼する。

(新)内閣は、総理大臣を首班とし、天皇を輔弼し、国家行政の総責任を負う。

内閣は、兵部省を含む各省庁を統括し、総力戦対応の行政を一元化する。

ただし、軍事緊急事態における現地指揮官の判断は、事後承認を原則とする。


第11条 兵部省の役割(新設)

兵部省は、陸軍、海軍、空軍の行政を統括し、国家防衛の総責任を負う。

兵部大臣は、内閣の助言と承認により天皇が任命する。

兵部省は、軍需生産、補給、教育、衛生を統括するが、現地部隊の戦術的判断は、指揮官の裁量に委ねられる。


第11条の1 軍の統帥権(新設)

天皇は、陸軍、海軍、空軍の統帥権を有する。

統帥事項は、兵部省の下に設置される統合参謀本部の議を経て上奏される。

ただし、現地最高指揮官は、通信途絶または緊急事態において、独自判断で行動し、事後承認を求めることができる。


第11条の2 陸海空軍の位置づけ(新設)

陸軍、海軍、空軍は、兵部省の統括の下に置かれる。

各軍の編制・運用は、統合参謀本部の議に基づくが、現地部隊の戦術的判断は、指揮官の裁量に委ねられる。


第12条 軍の予算(改正)

陸軍、海軍、空軍の経費は、予算に計上する。

軍事予算の配分は、兵部省が計画するが、現地部隊の特別経費は、事前承認を要せず、事後精算とする。


新設第55条の1 総理大臣の役割

総理大臣は、内閣の首班として、各省庁の行政を統括し、天皇に上奏する。

総理大臣は、兵部大臣を含む閣僚を任命し、国家危機時の緊急措置を講じ得る。

しかし、現地軍の緊急行動については、事前承認を要せず、事後報告により内閣が承認する。


新設第73条 憲法改正の手続き


憲法改正は、天皇の勅命または帝国議会(衆議院・貴族院)の議員総数の3分の1以上の発議により、改正案を提出する。

改正案は、両院で総議員の3分の2以上の出席と、出席議員の3分の2以上の賛成で可決する。

可決された改正案は、天皇の裁可を得て公布し、即時または指定日より施行する。



発議: 1915年7月、大正天皇の勅命により改正案が帝国議会(臨時議会)に提出。

議決: 1915年8月、衆議院・貴族院の両院で審議。

総議員の3分の2以上の賛成を得て可決。

公布: 1915年9月、天皇の裁可を得て公布。

施行: 1915年10月1日より即時施行。


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