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古の灯火  作者: 丸亀導師
第一次世界大戦
37/81

青島攻略作戦

1914年8月下旬、中国山東半島・青島沖。


連合艦隊の第二艦隊は、南洋諸島作戦と並行して、青島の海上封鎖を開始していた。


ドイツ東アジアの要衝である青島は、堅固な要塞と港湾を備え、ドイツ東洋艦隊の残存勢力と補給基地を擁していた。

日本海軍は、英国の要請に応じつつ、アジア太平洋での権益確保を目的に、迅速な封鎖と攻略を計画した。

第二艦隊司令官加藤定吉中将は、旗艦出雲の艦橋で、地図を広げていた。 


南洋諸島へ主力の河内型戦艦と金剛型巡洋戦艦を派遣した後、残余の戦力で青島を包囲する。

準弩級の薩摩型・香取型、敷島型前弩級戦艦が主力となり、装甲・防護巡洋艦が封鎖線を形成した。

駆逐艦は港湾入口を監視し、水雷艇が近海を巡回した。

鹵獲ロシア艦の周防・丹後が、追加火力として参加し、封鎖を強化した。


「海上封鎖を徹底せよ。ドイツ艦艇の脱出と補給船の接近を、完全に阻止する。」


加藤の命令が、無線で艦隊に伝わった。

巡洋艦から水上偵察機が発艦し、青島港の状況を観測した。

偵察機は、低空で港湾上空を旋回し、要塞の堡塁配置、沿岸砲の位置、港内のドイツ艦艇を詳細に報告。

無線通信が、情報を即時共有し、封鎖線の調整を可能にした。

偵察機のパイロットは、観測士とともに、写真撮影装置で要塞の地形を記録した。


堡塁の死角と射界が、艦隊に伝えられた。

艦橋に立つ若い水兵、田中太郎は、双眼鏡を手に敵岸を睨んでいた。

二十歳の彼は、日露戦争の勝利を子ども時代に聞き、軍に憧れて入隊した。

今、初めての実戦。

心臓が、激しく鼓動した。


「ドイツの要塞は、固いらしい。だが、我々の艦隊は強い。勝てるはずだ。」


太郎は、自分を励ますように呟いた。

しかし、夜の艦上で、遠くの要塞灯を見ると、不安がよぎった。

家族の顔が、浮かんだ。

母の声が、耳に蘇った。


「無事で帰ってきなさい。」


その言葉を胸に秘め太郎は、拳を握りしめた。


この戦いが、早く終わればいい。

砲手の一人、鈴木次郎は、砲塔内で汗を拭っていた。

二十五歳の彼は、砲撃の反動に体を預けながら、照準を合わせた。


「これで、敵を弱らせる。日露の仇を、取るわけじゃないが……国を守るためだ。」


次郎は、故郷の妻と子を思い、歯を食いしばった。

砲弾が発射されるたび、艦体が震え、心が引き締まった。

妻の手紙が、胸ポケットにあった。


「あなたが無事なら、それでいい。」


次郎は、砲を撃ちながら、生きて帰ることを誓った。

ドイツ守備隊は、要塞の強固さを頼みに抵抗を準備していた。


しかし、日本海軍の封鎖は、厳密だった。


戦艦の遠距離砲撃が、要塞の外郭を軟化させ、港湾への出入りを封じた。

薩摩型・香取型の主砲が、精密な射撃で堡塁を攻撃。

砲声が、海を震わせ、兵士たちの胸に響いた。


9月に入り、陸軍の揚陸が始まった。

陸軍第18師団の主力が、龍口湾に上陸。

海軍駆逐艦が舟艇を護衛し、艦隊の砲撃が敵沿岸砲を抑えた。

水上偵察機の観測で、上陸地点の敵火力が事前に特定され、損害を最小限に抑えた。


舟艇は、波を切りながら海岸へ向かい、兵士たちが次々と上陸した。

舟艇の兵士、佐々木健一は、十九歳の新兵だった。

銃を握りしめ、波に揺られる舟艇で、岸を見つめた。


「上陸したら、生きて帰れるか。」


健一の心は、恐怖と興奮で満ちていた。

日露戦争の勝利を、学校で学んだ…、しかし完全な恐怖を克服することは誰にでも出来ない。それは生きたいという執念。

嘗て死んでいった者達が抱えていたその思い、今、自分がその続きを担う。


家族への手紙を、胸ポケットにしまった。

父の言葉が、蘇った。


「お前は、国の誇りだ。」


内心父はどう思っていた事だろうか?本当にそう思っていたのだろうか?脳裏を過るその意識。健一は、舟艇が岸に着く瞬間、息を止めた。 


その傍らを工兵部隊が、迅速に橋頭堡を構築していく。

装軌トラクターの試験運用で、重砲・補給の陸上移動を迅速化した。

トラクターを操る運転手、伊藤正は、二十八歳。

機械の音に耳を澄ませ、泥濘を突破した。


「これで、補給が途切れない。みんなが、戦える。」


正は、機械の力に信頼を寄せていた。

故郷の農地でトラクターを見た記憶が、勇気を与えた。

しかし、敵砲弾の音が近づくと、心臓が早鐘のように鳴った。


「生きて、家族に会いたい。」


正は、ハンドルを握りしめ、前進した。ブルブルと手が震えるがそれを押し殺して歯を強く噛む。


陸軍司令官神尾光臣中将は、上陸部隊を指揮し、日本備の機動包囲を適用し、分散上陸で敵の集中火力を回避させた。


歩兵連隊が、内陸へ進撃し、砲兵が側背射撃を準備しし始めるとそれと連動するかのように、軽迫撃砲の随伴火力が、地形死角を活用した射撃を支援した。


重擲弾筒が、小隊レベルで掩体を攻撃し、ドイツ守備隊は、補給を断たれ、孤立化した。

要塞の外郭が、次第に崩れ始めた。揚陸戦は、順調に進んだ。

陸軍の機動部隊が、内陸へ進撃。海軍の封鎖が、敵の増援を阻止した。




ドイツ東アジア艦隊の残存勢力と守備隊は、要塞の堡塁に立て籠もり、連合国軍の接近を警戒していた。


要塞司令官ヴァルター・フォン・ヴァルデック少将は、司令部で地図を広げ、参謀たちと状況を分析していた。

日露戦争の勝利で自信を深めた日本が、英国の同盟を盾に、青島を狙っていることは明らかだった。


ヴァルデックは、窓から港湾を見下ろし背筋に寒いものが走った。

港内には、軽巡洋艦と補助艦艇が残っていたが、主力を失った艦隊は、もはや出撃不能だった。

南洋諸島からの補給も、途絶え始めていた。


無線で、マリアナ近海の報せが届いたのは、数日前だった。

主力艦隊が、日本艦隊に捕捉されたという。


「日本海軍の動きが、思った以上に速い。」


ヴァルデックは、静かに言った。

参謀の一人が、報告書を読み上げた。


「偵察機が、上空を飛んでいるようです。海上封鎖が、開始された模様です。」


要塞の砲手、ヨハン・シュミットは、堡塁の砲座で、双眼鏡を手にしていた。

二十八歳の彼は、ドイツ本国から派遣された砲兵将校だった。

青島の要塞は、堅固だった。

105mmと280mmの沿岸砲が、海を睨んでいた。

しかし、日本艦隊の影が、水平線に現れた時、ヨハンの心に不安がよぎった。


「日本軍は、日露で勝った。あの機動戦法が、海上でも使えるのか?」


ヨハンは、砲を調整しながら、家族を思い出していた。

妻と幼い娘が、本国で待っている。

この要塞が、落ちたら、どうなるか?果たして自分は生きて帰れるのか?


海上封鎖は、厳密だった。

日本艦隊の戦艦が、遠距離から砲撃を開始したのだ。


最初の砲弾が、港湾近くに落ち、爆発した。

要塞の兵士たちは、堡塁に駆け込み、反撃を準備した。

ヴァルデックは、司令部で命令を出した。


「沿岸砲で、応射せよ。封鎖艦を、威嚇する。」


沿岸砲が、火を噴いた。

しかし、日本艦隊は、射程外から射撃を続け、精度を上げていた。

偵察機の報告が、日本側の優位を支えていた。ヨハンは、砲座で汗を拭った。砲弾が、装填される。


発射。


轟音が、要塞を震わせた。


しかし、日本艦の損害は、見えなかった。


「我々の砲は、届かないのか。」


ヨハンの心に、絶望が忍び寄った。手も足も出ないというのは、当にこの事であった。

補給が、途絶え始め、食糧と弾薬が、限界に近づいていた。


9月に入り、日本軍の揚陸が始まった。龍口湾から、舟艇が海岸へ向かう。


海軍の砲撃が、沿岸砲を抑えていた為に、効果的な阻止射撃が出来ない。それどころか、日本軍は死角に上陸したのだ。

ヴァルデックは、報告を受けた。


「陸軍が、上陸を開始したようです。包囲が、始まります。」


参謀が、言った。


「抵抗を、続けましょう。」


ヴァルデックは、頷いたが、心は重かった。

要塞は、堅固だが、補給がなければ、持たない。その日から日本軍の攻勢が始まった。その機動が、予想以上だった。


ヨハンは、堡塁で銃を構えた。上陸する日本兵の影が、見えた。

彼は、引き金を引いた。

しかし、心の奥で、疑問が湧いた。 


「この戦いは、勝てるのか。」


ドイツ守備隊は、抵抗を続けた。

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