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古の灯火  作者: 丸亀導師
第一次世界大戦
29/83

第一次世界大戦の勃発

――外務省の視点――


1914年7月、東京・外務省。

夏の陽光が、外務省の建物に差し込み、執務室の空気を重くしていた。

外務大臣牧野伸顕は、机の上に積まれた欧州からの電報を、静かに読み返していた。


サラエボ事件の報が届いてから、数週間が経過していた。

オーストリア皇太子暗殺が、欧州の火薬庫に火を点けた。

セルビアへの最後通牒、オーストリアの宣戦布告、ロシアの動員、ドイツの参戦。


事態は、急速に悪化していた。

牧野は、内心で状況を分析していた。

日英同盟の存在が、日本を連合国側に引き込む。

英国は、アジアでの日本協力に期待を寄せている。

満洲権益の安定と樺太の資源開発が進む中、日本は欧州危機を機会と捉えるべきか。


しかし、米国の中立姿勢と、中国の動揺が懸念された。

アジア局長が、報告書を持って入室した。


「大臣、英国から同盟履行の要請が届きました。

ドイツの極東権益、特に青島の処理を求めています。」 


それに対して牧野は、頷いた。


「予想通りだ。

我々は、連合国側で参戦する。

しかし、欧州本土への派兵は避ける。アジア・太平洋に限定し、権益拡大を図る。」 


局長は、続けた。


「ロシアの動員が、満洲に影響を与える可能性があります。」


牧野は、静かに答えた。


「ロシアとは、協約がある。緊張は避けたい。」


外務省の会議は、連日続いた。

欧州危機の高まりが、日本外交の転機となることを、牧野は認識していた。

日英同盟の継続は、必要だが、米国の警戒を増大させる。

中国の権益拡大は、アジア独立国の支援と矛盾する。


牧野は、内心で苦悩していた。

戦争の勃発は、日本に機会を与える。

青島攻略、太平洋島嶼の占領。

しかし、長期化すれば、負担が増す。

研究会の革新が、軍を強くした。


しかし、外交は、均衡を保たねばならない。

外務省の将校たちは、電報を次々と解読した。

欧州の戦雲が、近づいていた。

牧野は、窓から外を見た。

東京の街は、静かだった。


しかし、世界は、変わろうとしていた。

第一次世界大戦の勃発は、日本外交に新たな試練をもたらした。

外務省は、慎重に道を探っていた。

  


――民間からの視点——大戦前夜の日常 


1913年夏、東京・浅草の小さな町工場。

鈴木健一は、三十五歳の町工場の主人として、毎日旋盤の前に立っていた。 


工場は、機械部品を製作する小さなもので、従業員は十数名。

日露戦争の勝利から八年が経ち、街は活気づいていた。

満洲や樺太の資源が、鉄鋼や機械の需要を増やし、健一の工場も注文が絶えなかった。 


健一は、作業着のまま、工場の隅で新聞を読んだ。

カリフォルニアの移民法改正の報。

日本人移民の土地所有制限。


健一は、ため息をついた。


「米国は、我々を脅威と見ているのか。」


工場で働く若い職人たちが、休憩中に話していた。


「戦争に勝ったのに、米国は冷たいな。」


「満洲の権益が、向こうの気に障るんだろう。」


健一は、内心で複雑な思いを抱いていた。

戦争の勝利は、国を強くした。

工場は、軍需部品の注文が増え、仕事が安定した。

しかし、米国の法案は、移民の苦労を思い起こさせた。


健一の弟は、カリフォルニアへ渡り、農場で働いていた。

手紙では、差別が厳しくなったと書かれていた。

妻の美代は、家で家計を切り詰めていた。

子どもたちは、学校で栄養学を学び、米糠の重要性を話していた。


美代は、健一に言った。


「国は強くなったけど、物価も上がってるわ。米糠油が安くなったのは、助かるけど。」


健一は、頷いた。


「戦争の勝ちが、こうして生活を変えたんだな。」


街では、自動車の音が聞こえ始めた。

工場近くの道を、トラックが走る。

健一の工場も、軍からの注文で、自動車部品を製作していた。

機械化が進み、仕事が増えた。

しかし、欧州のニュースが、新聞を賑わしていた。


バルカン半島の緊張、列強の対立。

健一は、職人たちに言った。


「欧州が騒がしいな。また、戦争になるかもしれない。」


職人たちは、顔を見合わせた。


「日本は、英日同盟があるから、大丈夫だろ。」


健一は、静かに考えた。

勝利の余韻が残る中、世界は変わり始めていた。

民間人の生活は、戦争の成果で豊かになったが、新たな不安が忍び寄っていた。




軍部の視点


――陸軍視点――


1914年8月、東京・参謀本部。

夏の暑さが、参謀本部の建物にこもっていた。

作戦課の室は、電報と報告書で埋め尽くされていた。

サラエボ事件から1ヶ月。

欧州の緊張が、ついに戦争へと移行した。

オーストリアのセルビア宣戦布告、ロシアの動員、ドイツのフランス侵攻。

事態は、急速に拡大していた。


参謀次長の上原勇作は、地図を広げ、部下たちに指示を出していた。

彼は、研究会メンバーの一人として、日本備戦法の推進者だった。

日露戦争の勝利がもたらした自信を胸に、欧州の動向を冷静に分析していた。


「欧州戦線への情報収集を強化せよ。

観戦武官を増派し、戦術・装備の詳細を報告させる。」


部下の将校たちは、頷いた。

日本備戦法の地形適応と機動性が、欧州の戦場でどのように機能するかを知る必要があった。

塹壕戦の兆しが見え始めていたが、日本軍は平原機動を基調としていた。


欧州の教訓は、日本備の進化に不可欠だった。


上原は、続けた。


「また、青島攻略作戦の立案を急げ。

ドイツの極東権益を、無血に近い形で確保する。

連合国側の義務として、迅速に処理せよ。」


作戦課の将校たちは、地図を広げ、青島要塞の配置を検討した。

日本備戦法の迂回包囲を、海軍の支援と連携して適用する。

偵察機の活用と砲兵の側背射撃を計画に組み込んだ。

参謀本部は、静かに動き始めた。

欧州戦線への観戦武官派遣は、航空機・機械化の教訓収集を目的とした。


青島攻略は、アジア限定の作戦として、効率的に立案された。

上原は、内心で考えた。

戦争の規模は、予想を超えている。


しかし、日本は、欧州本土への派兵を避け、アジアでの利益を確保する。

日本備の強みが、ここで試される。

参謀本部は、大戦勃発の報を受け、静かに準備を進めた。

欧州の戦雲が、日本軍に新たな教訓をもたらそうとしていた。


青島攻略作戦は、迅速に立案された。




――海軍の視点――


1914年8月、東京・海軍軍令部。

夏の暑さが、軍令部の建物にこもっていた。

作戦室は、電報と地図で埋め尽くされ、将校たちの表情に緊張が張り詰めていた。

第一次世界大戦の勃発が、連合国側としての日本参戦を決定づけた。


英日同盟の履行として、ドイツの極東権益、特に太平洋上の島嶼拠点と青島の無力化が、急務となっていた。

軍令部長の秋山真之少将は、地図を広げ、参謀たちに指示を出していた。


彼は、日本海海戦の英雄として知られ、研究会の影響を受け、海上での機動と偵察を重視していた。

この大戦は、海軍にとって新たな機会であり、試練でもあった。


「ドイツの太平洋拠点は、カロリン・マーシャル・パラオ諸島に散在している。

これらを無力化するため、海上偵察機の実戦参加を検討せよ。」


参謀の一人が、報告した。


「共同研究部隊の水上偵察機が、試験段階を終えています。

艦載可能で、偵察範囲を拡大できます。」


秋山は、頷いた。


「よし。海上偵察機を、艦隊に搭載し、実戦で活用する。

敵拠点の位置把握と砲撃観測に用いる。」


研究会の影響で、海軍は偵察の重要性を強く認識していた。

気球から航空機への移行が進み、水上偵察機の開発が加速していた。

この大戦は、その実戦試験の場となる。

作戦立案は、ドイツ太平洋拠点の無力化を主眼とした。

青島攻略は陸軍主導だが、海上からの封鎖と偵察支援が海軍の役割。

太平洋島嶼の占領は、海軍単独で実施可能だった。


秋山は、地図を指した。


「連合艦隊は、太平洋諸島へ進出。

海上偵察機で敵拠点を特定し、無血占領を図る。

青島については、陸軍と協調し、海上封鎖と航空偵察で支援する。」


参謀たちは、陸軍との協調を議論した。

共同研究部隊の成果が、陸海の連携を容易にしていた。

陸軍の偵察機と海軍の水上機が、情報を共有する形が検討された。


「陸軍の所沢部隊と、偵察情報を交換する。

青島の砲撃観測を、共同で実施せよ。」


秋山の指示は、明確だった。

海軍の視点から、大戦はアジア・太平洋での権益確保の機会だった。

海上偵察機の実戦参加は、新時代の始まりを象徴した。

作戦立案は、迅速に進んだ。

連合艦隊は、出撃準備を始めた。


ドイツ太平洋拠点の無力化は、海軍の任務として確定した。

陸軍との協調は、研究会思想の遺産だった。

共同研究部隊の航空機が、両軍の橋渡し役となった。

軍令部は、静かに動き始めた。

大戦の波が、日本海軍に新たな試練をもたらそうとしていた。




航空機研究部隊の視点 ——若手将校たちの意見交換——


1914年夏、所沢飛行場・陸海軍共同研究部隊本部。

夏の陽光が、飛行場の草原を強く照らしていた。

所沢の飛行場は、航空機のエンジン音とプロペラの風切り音で賑わっていた。


陸海軍共同研究部隊は、設立から4年が経過し、偵察機の試験運用を本格化させていた。

第一次世界大戦の勃発が、部隊の活動に新たな緊張を与えていた。


部隊の会議室では、海軍の若手将校と陸軍の若手将校が集まり、意見交換を行っていた。

海軍側は、横須賀から派遣された山本五十六大尉(30歳)と数名の同僚。


陸軍側は、徳川好敏大尉(31歳)と工兵学校出身の若手たち。


皆、航空機の未来を信じ、熱心に議論を交わしていた。


高野五十六は、地図を広げ、静かに言った。


「欧州の戦雲が濃くなっている。

英国から同盟履行の要請が来ている。海上偵察機の実戦参加を、検討すべきだ。」


徳川好敏は、頷いた。


「同意だ。

所沢の偵察機は、陸上での観測に優れている。

海軍の水上機と連携すれば、敵艦隊の位置把握が正確になる。」


海軍の若手将校の一人が、続けた。


「艦載機の可能性は大きい。

空母の甲板から発艦すれば、艦隊の目を上空に広げられる。」


陸軍の将校が、答えた。


「陸上基地からの支援も重要だ。

平原での偵察は、我々の得意分野。共同で運用すれば、効果は倍増する。」


議論は、航空機の役割に移った。

五十六は、冷静に言った。


「航空機は、偵察だけでなく、攻撃の可能性も持つ。

敵の補給線を、上空から脅かすのさ。」


徳川は、考え込んだ。


「攻撃は、まだ早い。

エンジン出力と信頼性が、不足している。

まずは、偵察と観測を完璧にしてからだ。」


パイロットたちは、別室で休息を取っていた。

彼らは、試験飛行の疲れを癒しつつ、未来を語り合っていた。

一人のパイロットが、言った。


「欧州で戦争が始まったら、実戦の機会だ。偵察機で、敵の動きを捉える。」


別の者が、笑った。


「俺は、もっと高く飛びたい。上空から、戦場全体を見るのさ。」


パイロットたちは、航空機の未来を信じていた。


それは、陸の機動を上空に広げるもの。 


海の艦隊を、守る目となるもの。


共同研究部隊は、静かに動き始めた。

欧州の戦雲が、航空機の試練を呼んでいた。

若手将校たちの意見交換は、熱を帯びていた。

陸海の連携が、航空の道を開く。

所沢の風が、プロペラを回していた。



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