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古の灯火  作者: 丸亀導師
戦間期
137/138

1941年12月8日 2

一九四一年十二月八日。

オアフ島真珠湾の空が、第二機動艦隊の放った八〇〇キロ徹甲爆弾と重油の黒煙によって完全に覆い尽くされていたのと、まさに同時刻。


日付変更線を跨いだ西太平洋、フィリピン・ルソン島の沖合においても、大日本帝国の「もう一つの巨大なあぎと」が、静かに、そして暴力的にその口を開いていた。


第一機動艦隊。

軍縮条約の足枷を外され、徹底的な近代化改装とMBF(特級硬化繊維素材)による装甲化を施された大型正規空母『天城』『赤城』、そして防空・対潜の要としてアップデートされた中型空母『鳳翔』を中核とする、西太平洋制圧部隊である。


「……ハワイの第二機動艦隊より暗号電文。『トラトラトラ(我、奇襲ニ成功セリ)』」


「よし」 


旗艦『天城』の右舷にそびえる新設計の箱型アイランド(島型艦橋)の中で、司令官は短く頷いた。


「真珠湾の連中がパレードの先陣を切った。我々が遅れをとるわけにはいかんな。第一波、発艦。目標、クラーク基地およびイバ飛行場。ルソン島上空の敵航空戦力を完全に払拭せよ」


夜明けのフィリピン海。


波を切り裂いて三十ノット以上で疾走する『天城』と『赤城』の広大なMBF飛行甲板から、一五六〇馬力の「金星」エンジンを轟かせた一式戦闘機『烈風』と、一式攻撃機『流星』の編隊が次々と空へ舞い上がっていく。中型空母『鳳翔』からは、艦隊の上空を警戒する直掩機と、対潜哨戒用の観測機が放たれ、艦隊の頭上に絶対的な防空・対潜のアンブレラを形成した。


史実において、フィリピン防衛の指揮を執るダグラス・マッカーサー大将は、真珠湾攻撃の報告を受けていながらも、濃霧や指揮系統の混乱により、自軍のB-17爆撃機やP-40戦闘機を地上に並べたままにするという致命的な失態を犯した。


この世界線においても、その悲劇(アメリカ側から見れば)は全く同じように、いや、よりシステマチックで冷酷な形で繰り返された。

午前九時。ルソン島・クラーク空軍基地。

上空に到達した『流星』の編隊は、整然と並べられたB-17の群れを見下ろし、まるで演習場のような正確さで急降下を開始した。


「……全弾命中。敵重爆部隊、地上ニテ完全に沈黙」


流星の放ったクラスター焼夷弾と二五〇キロ爆弾が、アメリカ極東陸軍航空隊の誇る「空の要塞」を滑走路ごと火の海に変える。

遅れて迎撃に上がろうとしたP-40戦闘機も、圧倒的な速度と旋回性能、そして二〇ミリ機関砲の破壊力を持つ『烈風』の前に、なす術なく空中で挽肉に変えられていった。


開戦からわずか一時間。

フィリピンにおけるアメリカ軍の航空戦力は、第一機動艦隊の放った第一波攻撃のみで「完全に消滅」したのである。


巨砲の咆哮(大和型戦艦の顕現)

空の脅威が完全に排除された午前十一時。

ルソン島西岸、リンガエン湾の沖合に、分厚い朝靄を切り裂いて「巨大な鋼鉄の山」が姿を現した。


「……ゴッド・アルマイティ(全能の神よ)。なんだ、あの化け物は……!」


沿岸防衛陣地のトーチカから双眼鏡を覗き込んだアメリカ軍の観測将校は、その巨大な艦影を見て、恐怖で声を震わせた。

基準排水量六万八千五百トン。全長二七二メートル。

大日本帝国海軍が世界の常識を根底から覆すべく、最高機密のベールに包んで建造した超弩級戦艦『大和』である。

その巨体は、セミ・トランサム・スターン(艦尾水平切り落とし)と四軸推進の二一万馬力によって、三〇ノット以上の高速で波を蹴立てて進撃してくる。艦橋のトップには、巨大な「三号電波探信儀レーダー」が不気味に回転していた。


「測的完了。目標、リンガエン湾沿岸・米軍防衛陣地。距離、二万八千」


大和の強固な装甲に守られた総合CIC(戦闘指揮所)では、電探と光学測距儀のデータが『零式統合射撃盤』に吸い込まれ、一瞬にして未来位置と偏差がアナログ計算機によって弾き出されていた。


「撃て(テーッ)!」

ドグゥゥゥゥォォォォォォンッ……!!!


鼓膜を破るような轟音とともに、大和の四六センチ(一八インチ)三連装主砲塔から、一・四六トンもの質量を持つ九一式徹甲弾(および三式弾)が、音速を超えて空へ放たれた。

発射の猛烈な衝撃波は、海面をすり鉢状に凹ませ、周囲の空気をプラズマのように揺らした。


放たれた九発の巨弾は、放物線を描き、アメリカ軍が絶対の自信を持っていた沿岸のコンクリート陣地に正確に降り注いだ。

それは、通常の「艦砲射撃」という概念を逸脱した、文字通りの『天災』であった。


着弾の瞬間、厚さ数メートルの鉄筋コンクリート陣地が、まるで砂上の楼閣のように根元から粉砕され、空高く吹き飛んだ。トーチカの内部にいた守備兵たちは、爆発の熱線を浴びる前に、致死的な衝撃波によって内臓を破裂させられ、即死した。


「次発装填。仰角修正なし。撃ち方、待て……撃て!」


三〇〜三五秒という異常な短間隔で、大和の主砲が次々と火を噴く。

随伴する長門型、伊勢型、金剛型の戦艦群もこれに続き、一斉に三五・六センチ〜四一センチ砲の雨を降らせた。

ルソン島の海岸線は、大日本帝国海軍が誇る「無敵の水上打撃部隊」による艦砲射撃によって、文字通り地形が変わるほどの徹底的な破壊蹂躙を受けたのである。


反撃しようにも、アメリカ軍の沿岸砲は射程が届かず、ただ一方的に、安全圏アウトレンジからの圧倒的質量によってすり潰されていくしかなかった。


鋼鉄の津波(強襲揚陸艦隊の殺到)


大和型をはじめとする戦艦群の艦砲射撃が、沿岸の防衛線に巨大な「穴(突破口)」を穿った直後。

沖合で待機していた本命の部隊が、いよいよ牙を剥いた。


軽空母四隻(大鷹型等)と、強襲揚陸艦(特一等輸送艦)一五隻以上からなる「電撃揚陸艦隊」である。


大鷹型の飛行甲板からは、対潜哨戒用の観測機と、上陸部隊に近接航空支援(CAS)を行う攻撃機が絶え間なく発艦し、上陸地点の空と海を完璧に封鎖している。


「特一等輸送艦、海岸線へ接近! 艦尾ハッチ、開け!」


史実のガダルカナルやノルマンディーで見られたような、「兵士が小舟から海に飛び込み、機銃掃射を浴びながら水の中を歩いて上陸する」という悲惨な光景は、そこには存在しなかった。


基準排水量一万四千五百トンを誇る強襲揚陸艦は、戦艦の艦砲射撃によって完全に沈黙した海岸のすぐ手前まで直接乗り上げた。

巨大な艦尾の汎用発進口スターン・ランプが油圧でゆっくりと下ろされ、砂浜(あるいは仮設ポンツーン)に直接架け渡される。いわゆる『RO−ROロールオン・ロールオフ機能』の完全な実戦運用である。


「第一機甲大隊、前進!」


ゴゴゴゴゴゴッ……!!

強襲揚陸艦の腹の中から、STEL(蒸気タービン・電気駆動)機関を搭載した『九七式中戦車(改)』と、完全武装の歩兵を乗せた『STEL装甲牽引車』が、轟音を立てて直接砂浜へと吐き出されていく。

彼らは水に濡れることすらなく、上陸したその瞬間に「機械化部隊」としての陣形を組み、時速四十キロで内陸部への進撃を開始した。


「馬鹿な……! 上陸作戦とは、もっと何日もかけてノロノロと行われるものではないのか!? 数時間で一個師団規模の戦車部隊が陸に上がってくるなど、物理的にあり得ない!」


生き残ったアメリカ軍の将校たちは、土煙を上げて殺到してくる日本の機甲部隊を見て、絶望に頭を抱えた。

歩兵たちの装備も、史実のアメリカ軍の想像を絶していた。

帝国陸軍の兵士たちは、MBF(特級硬化繊維素材)で作られた軽量かつ強靭な「防弾胸甲」を身に纏い、手には連射可能な「昭和〇九年式自動小銃」を握りしめている。


時折、アメリカ軍の残存兵がボルトアクション・ライフルで反撃を試みるが、MBFの装甲板は小銃弾を容易く弾き返し、逆に自動小銃の猛烈な制圧射撃によって一瞬にしてハチの巣にされていった。


強襲揚陸艦が抉じ開けた海岸の「傷口」から、途切れることなく戦車と装甲車が吐き出され、ルソン島という巨大な体に「鋼鉄の毒」が急速に回っていく。


裏切りの密林(第五列の蜂起)

アメリカ極東軍を絶望の底に突き落としたのは、正面から迫り来る帝国の機械化師団だけではなかった。


「司令部! 応答願います! 通信線が切断されました! 背後のジャングルから攻撃を受けています! 敵は日本軍ではありません! ……元・フィリピン軍のゲリラです!!」


マニラの司令部に、各所の守備隊から悲鳴のような報告が殺到していた。

一九四〇年末。アメリカ軍は、日本の経済浸透に怯えるあまり、同盟軍であったフィリピン軍から武器を奪い「武装解除(パナマ化)」を強行した。


誇りを奪われ、密林へと姿を消した数万のフィリピン兵士たち。彼らはこの日、空を覆う日本の大編隊と、海岸を埋め尽くす日の丸の戦車部隊を見て、ついに『復讐の時』が来たことを悟ったのだ。


「アメリカの占領者どもを追い出せ! アジアの解放軍(日本)を迎え入れるんだ!」


彼らは隠し持っていた武器、あるいは日本軍の特務機関から密かに提供されていた銃や爆薬を手に取り、一斉に蜂起した。

アメリカ軍の補給拠点を焼き討ちし、通信網のケーブルを切断し、後退しようとするアメリカ軍部隊の背後から容赦ないゲリラ戦を仕掛ける。


前からは、世界最強の火力を誇る大和型戦艦の艦砲射撃と、完全に機械化された帝国の機甲部隊。

後ろからは、地の利を完全に掌握し、怨念に燃える数万のフィリピン・ゲリラ(第五列)。


上空は、日本の航空機が完全に支配し、退路となる港は潜水艦と駆逐艦によって封鎖されている。


「……終わった。極東における合衆国の防衛計画オレンジ・プランは、開戦からわずか半日で完全に瓦解したのだ」


マニラ地下壕の司令部。

ダグラス・マッカーサーは、テーブルの上の地図に次々と置かれていく「赤色(日本軍)」の駒を見つめながら、トレードマークのコーンパイプを床に取り落とした。


史実において、日本軍が泥まみれになりながら数ヶ月を要した「バターン半島攻略」や「コレヒドール要塞陥落」。


しかし、この冷徹で完璧な『備戦術』が支配する世界線において、フィリピンの運命は数ヶ月ではなく「数日」で決することになる。 


圧倒的な兵站。規格化された戦術。新素材とインフラの暴力。

一九四一年十二月八日。

大日本帝国が解き放った「鋼鉄の津波」は、ハワイとフィリピンを同時に飲み込み、世界地図を不可逆的に塗り替え始めていた。


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