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古の灯火  作者: 丸亀導師
戦間期
136/137

1941年12月8日 1


一九四一年十二月八日(ハワイ現地時間七日)午前六時〇〇分。

オアフ島の北二〇〇海里。北太平洋の重い波と濃霧を切り裂き、四つの巨大な人工の島が風上へと三十ノットで疾走していた。


大日本帝国海軍・第二機動艦隊。

超大型空母『蒼龍』『飛龍』『白龍』『黒龍』。

その飛行甲板には、MBF(特級硬化繊維素材)の装甲床を震わせながら、暗緑色に塗られた一式艦上戦闘機『烈風』と、一式艦上攻撃機『流星』がびっしりと並べられていた。

旗艦『蒼龍』の艦橋。

防空ガラス越しに荒れる海を見下ろす長官の前に、作戦参謀が進み出た。


「……全艦、射出準備完了。目標、オアフ島真珠湾。合衆国太平洋艦隊ならびに、全軍事インフラ施設」


「よろしい。……第一波、発艦始め」


命令は伝声管を通じ、無機質に伝達された。

史実のように、プロペラの風圧と己の腕だけを頼りに数十メートルを滑走するような前時代的な光景は、そこにはなかった。

艦首に埋め込まれた二基の油圧式カタパルトに『烈風』がセットされる。蒸気ではなく油圧を用いた確実なピストン運動が、機体をわずか数秒で射出速度へと叩き出す。


シュガァンッ! という金属的な作動音とともに、一五六〇馬力の「金星」エンジンを唸らせた『烈風』が次々と漆黒の空へ撃ち出されていく。続いて、八〇〇キロ徹甲爆弾を抱えた『流星』が重い機体をカタパルトの暴力的な推力で空へと押し上げられた。

一隻につき二基のカタパルト。四隻で八基。

艦載機は数分間隔で次々と射出され、上空で一切の乱れなく見事な編隊を組み上げていく。


第一波、一八〇機。

それは「職人芸」ではなく、完全に規格化された工場の「生産ライン」のような、冷徹でシステマチックな出撃であった。



第一波・第二波の蹂躙(戦艦群の処刑)

午前七時五〇分。

オアフ島上空の雲を抜け、日本海軍の攻撃隊が真珠湾の真上に到達した。

日曜日の朝。湾内には、アメリカ太平洋艦隊の誇る戦艦群(アリゾナ、オクラホマ、ウェストバージニア等)が、まるで標的艦のように美しく二列に並んで停泊していた。


「トラトラトラ(ワレ奇襲ニ成功セリ)」


打電と同時。

急降下爆撃・雷撃兼用機である『流星』の編隊が、逆ガル翼のダイブブレーキを開き、一斉に戦艦群へと牙を剥いた。

史実の九九式艦爆(二五〇キロ爆弾)とは違う。彼らが抱えているのは、戦艦の装甲を容易く貫く「八〇〇キロ徹甲爆弾」である。


ドゴォォォォン……ッ!!

アリゾナの第三砲塔付近に直撃した八〇〇キロ爆弾は、分厚い甲板装甲をバターのように貫通し、弾薬庫の奥深くで炸裂した。一瞬にして艦体が二つに折れ、巨大な火柱がオアフ島の空を焦がす。


同時に、超低空で海面を這うように進入した『流星』の雷撃隊が、魚雷を投下。電磁式姿勢制御装置を備えた新型魚雷は、浅い真珠湾の海底に沈み込むことなく、的確に戦艦オクラホマの土手っ腹に連続して突き刺さった。


「なんだあの機体は!? 戦闘機より速いぞ!」


ヒッカム飛行場やホイーラー飛行場で迎撃に上がろうとしたアメリカ軍のP-40戦闘機は、滑走路を離れる前に、上空から降下してきた『烈風』の二〇ミリ機関砲の猛烈な掃射を浴び、次々と火ダルマに変わっていった。

第一波が戦艦群の背骨を折り、防空網をズタズタに引き裂いた直後。


息をつく暇もなく、第二波攻撃隊(一六〇機)が湾内に殺到した。


彼らは残存する巡洋艦、駆逐艦、そして飛行場の格納庫を、精密機械のような正確さで徹底的に破壊していく。湾内は重油の黒煙と炎に包まれ、世界最強を誇った合衆国太平洋艦隊は、開戦からわずか一時間で文字通り「壊滅」した。


第三波の鉄槌(戦略インフラの消滅)

史実において、日本軍は「敵空母の反撃」を恐れ、二波の攻撃で満足して撤退した。その結果、真珠湾のドックや燃料タンクは無傷で残り、アメリカはわずか半年で息を吹き返すことになる。

しかし、この世界線の「上の連中」が、そんな甘い計算を許すはずがなかった。


「……敵の反撃の兆候なし。長官、予定通り『第三波』を叩き込みます」


「やれ。島を更地にしろ。半年は絶対に立ち直れないように」


午前十時。

弾薬を再装填し、三度目の空へと舞い上がった『流星』の編隊が、黒煙に沈む真珠湾へ三たび降下した。

彼らの標的は、もはや沈みゆく軍艦ではなかった。

ドガァァァンッ!!


海軍工廠の巨大な「乾ドック」に、八〇〇キロ爆弾が精密に投下される。クレーンがへし折れ、ポンプ施設が粉砕され、修理設備が完全に機能停止に陥った。

そして、山肌に並ぶ数百万バレルもの重油を満載した「巨大な燃料タンク群」。


『流星』の放った焼夷弾と爆弾がタンクに直撃した瞬間、オアフ島そのものが吹き飛んだかのような、この日最大の爆発が連鎖した。


ドグォォォォォォン……ッ!!!


天を突く火柱と、太陽を完全に遮る真っ黒な煙。

流出する燃える重油が真珠湾の海面を覆い尽くし、沈没を免れていた小艦艇までもが火の海に飲み込まれていく。

燃料と修理拠点を完全に喪失したこの瞬間、ハワイは「太平洋の不沈空母」から「補給不可能な孤島」へと転落したのである。完膚なきまでの破壊であった。



深海の狩猟者(伊号第四〇〇型潜水艦の包囲網)

一方、オアフ島の外洋。

真珠湾攻撃の際、アメリカ軍の主力空母『エンタープライズ』と『レキシントン』は、航空機の輸送任務等で偶然にも湾を離れており、空襲を免れていた。


「真珠湾が燃えている……! 全艦、直ちに反転しろ! 日本の空母部隊を探し出し、報復の爆撃を叩き込むんだ!」


エンタープライズのハルゼー提督は激怒し、艦隊をオアフ島近海へと急行させた。

しかし、彼らは知らなかった。

この日、オアフ島を包囲していたのは、空からの爆撃機だけではなかったことを。


オアフ島沖、深度五〇メートル。

音もなく海中を滑るように進む、巨大な黒い影の群れ。

大日本帝国海軍、**『伊号第四〇〇型潜水艦』**である。

史実(別次元)においては、航空機を搭載する「潜水空母」として設計されたこの四〇〇型。しかしこの世界線において、航空機搭載の特務はさらに巨大な『須号』に一本化されている。


その結果、この世界線の『伊四〇〇型』は、航空兵装の一切を持たない**「完全なる純粋な水雷特化型・通常動力潜水艦」**として極端な進化を遂げていた。

水上排水量二、九〇〇トン。

航空機格納筒を持たない流麗な船体は、水中の抵抗を極限まで殺している。艦内に敷き詰められたMBFドライバッテリーと微速クリープモーターにより、史実のどの潜水艦よりも静粛に、深く、そして長く潜り続けることができる「深海の暗殺者」だ。


『……目標、探信儀ニ感アリ。大型水上艦艇、空母トオボシキスクリュー音、二。随伴駆逐艦、六』


伊四〇〇の艦長は、ソナー手からの報告に冷酷な笑みを浮かべた。


「馬鹿め。煙を上げて急行してくれば、この距離でも音で丸わかりだ。……各艦にデータリンク。獲物は我々の『網』に自ら飛び込んできたぞ」


伊四〇〇型六隻からなる潜水戦隊ウルフパックが、完全な無音状態のまま、エンタープライズとレキシントンの進路上に「死の扇陣」を展開する。

彼らの艦首には、一隻につき八門という過剰なまでの魚雷発射管が備わっていた。


「射角良し。……深度五、酸素魚雷、一斉射線サルボ


ズシュウゥゥッ!!

伊四〇〇型の艦首から、航跡を一切残さない巨大な「九三式酸素魚雷」が、一隻につき六本、艦隊全体で三十六本という常軌を逸した密度で解き放たれた。

海面を警戒していたアメリカ軍の駆逐艦は、魚雷の接近を知らせる白い泡(航跡)を発見できなかった。


彼らが気づいたのは、致死量の爆薬を積んだ見えない槍が、誇り高き合衆国空母の舷側に突き刺さった、その爆発の瞬間であった。

ドォォォォォォォォンッ!!!

エンタープライズの右舷水線下に、二本の酸素魚雷が命中。続いて、レキシントンの機関部にも三本の魚雷が致命的な直撃を果たす。

強烈な水柱が太平洋に立ち上り、飛行甲板に並べられていた迎撃機が次々と海へ転げ落ちていく。


「雷撃だ!! 潜水艦! どこから撃たれた!?」


「ソナーに反応ありません! 航跡も見えない!」


反撃しようにも、伊四〇〇型の姿はどこにもない。魚雷を放った彼らは、すでに微速モーターで深く深く潜航し、アメリカ駆逐艦の爆雷が届かない深海へと嘲笑うように消え去っていた。

空からは四頭の竜がインフラと戦艦を焼き尽くし、海からは伊四〇〇型が残された空母の息の根を止める。


一九四一年十二月八日。

大日本帝国が太平洋の盤面に敷いた「絶対的破壊のシステム」は、アメリカ合衆国という巨人の心臓を、一切の反撃を許さぬまま、完璧に粉砕したのである。


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