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古の灯火  作者: 丸亀導師
戦間期
115/135

潜る

1938年6月

米英には、大日本帝国の幾つかの情報が入っていた。

大量の鉄鋼と多くの資材が、大規模に動いている。

昨今公表された、大日本帝国からの戦艦の建造数と、正規空母と思われる、大型艦艇の建造との比較を行い、その数値が現実のものであると確信した時…米英は恐怖した。


このままでは、制海権は完全に獲られる。


彼等は日本の大型の新型艦が如何様な性能で、どのような目的で建造をしているのか、血眼になって探っていた…。


ちょうどその頃、大和型戦艦の船体の一部が形となり、防諜工作も難しくなった頃だろうか?


そんなタイミングを計るように、台湾の高雄に位置する新設された造船ドックにて、とある潜水艦が建造されようとしていた。


「……計算が合いません。まったく、合いません」


ONIの分析官が、机の上に散乱した貨物列車の輸送ダイヤと、鉄鋼生産量の推計グラフを指差して震える声で言いました。


「日本が公表した建艦計画――新型戦艦と大型空母数隻の建造。それ自体は驚くべきことですが、問題は『彼らが実際に消費している資材の量』です。満州や極東から国内の造船所へ運び込まれている特殊鋼、MBF(鋼紙)、そしてセメントの総量は、公表されている艦艇の総トン数を**『数万トン以上』も上回って**います!」


MI6から派遣されたイギリス海軍の武官も、脂汗を拭いながら同意しました。


「あの極東の島国は、我々が想像している以上の『何か』を造っている。それも、建艦条約の制限など最初から鼻で笑うような、途方もないスケールの化け物だ。このまま彼らの新型艦隊が就役すれば、太平洋とインド洋における我々の制海権は完全に終わるぞ」


見えない巨大な敵。

その恐怖に駆られた米英の諜報機関は、日本の造船拠点である「呉」や「横須賀」に対して、持てるすべての人員と資金を注ぎ込み、スパイ網をフル稼働させました。



そしてちょうどその頃。

広島県の呉海軍工廠では、巨大な屋根(目隠し)で覆われた造船ドックの中で、ついに『大和型(改)』の途方もない船体の一部が、外からでもうっすらと輪郭を窺えるほどに成長しつつありました。


「見ろ……なんだ、あの巨大なバルジは! そしてあの異常な太さの砲塔リング……! 日本軍は、四〇センチを超える超重砲を積んだスーパー・ドレッドノート(超弩級戦艦)を造っているぞ!」


双眼鏡を覗き込んだ米英の潜入工作員たちは、その常軌を逸した鉄の城の威容に完全に目を奪われました。彼らは血眼になって大和のスケッチを描き、無線で本国へと「日本軍の巨大戦艦の脅威」を打電し続けました。


しかし、それこそが東京の総力戦研究所が仕掛けた**「最も高価で、最も完璧なデコイ」**だったのです。



日本の本州から遥か南西に離れた、絶対防衛圏の南の要衝――台湾・高雄たかお


米英の諜報員が誰一人として注目していなかったこの南国の港湾都市に、資材の輸送ルートを複雑に偽装し、大和や大型空母の建造予算の陰に隠して運ばれた数万トンの特殊鋼とMBF材が、この台湾の地にひっそりと集積されていたのです。


一九三八年六月。

蒸し暑い熱帯の夜風が吹く中、高雄のドックの暗い水底で、ひとつの巨大な竜骨が据え付けられました。


『須号型潜水艦(潜特型・戦略爆撃用潜水空母)』第一号艦。

水上排水量三五〇〇トンという、当時の潜水艦の常識を根底から破壊する超巨大なダブル・ハル(眼鏡式耐圧殻)。


その艦首には、カタパルトを甲板と同一平面に埋め込む(フラッシュ・デッキ化)ための緻密な油圧機構が組み込まれ、艦橋の基部には、MBFコーティングによって完全防湿された『巨大な航空機用・水密格納筒』の基礎が溶接されようとしていました。


それは、大和のように水平線の上で堂々と砲を撃ち合うための兵器ではありません。


四万海里という無尽蔵のスタミナで地球の裏側まで誰にも見つからずに潜航し、アメリカ本土のインフラやパナマ運河の心臓部へ、新型攻撃機『晴嵐』の八〇〇キロ爆弾を直接叩き込むための「暗殺者の刃」。


米英が「大日本帝国は巨大な水上艦隊で太平洋の覇権を獲りにくる」と信じて疑わず、大和の幻影に怯えているその背後で。

帝国は、アメリカを内側から食い破る真の戦略兵器の建造を、誰にも知られることなく、この南の島で静かにスタートさせたのでした。

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