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古の灯火  作者: 丸亀導師
戦間期
111/136

陸と海と空の1937年11月

一九三七年(昭和十二年)十一月。


南京での「特一号・斬首作戦」の鮮やかな成功により、大陸の泥沼化を完全に回避した大日本帝国。背後の憂いを絶ち切った総力戦研究所は、いよいよ対米・対ソの「本格的な正規戦」を見据え、極秘裏に進めていた陸戦兵器のパラダイムシフトを公の場へと引き摺り出しました。


相模陸軍造兵廠の広大なテストコース。

秋の冷たい風が吹き抜ける中、観閲台に並んだ陸軍首脳陣と研究所の技官たちの目の前に、地響きを立てて「異形の鉄塊」が姿を現しました。


『昭和十二年式中戦車』――開発コードネーム「チハ」。

史実において、薄いリベット装甲と歩兵支援用の短砲身を積んで太平洋の島々で米軍のシャーマン戦車に蹂躙されたあの「悲劇の戦車」とは、名前以外に何の共通点も持たない、文字通りの**「化けオーパーツ」**でした。


走・攻・守の完全なる最適解(主力戦車への昇華)


「……なんと美しいシルエットだ。リベットの頭が一つもないぞ」

双眼鏡を覗き込んだ機甲部隊の将官が、感嘆の声を漏らした。


目の前を時速四五キロという快速で駆け抜けるその戦車は、当時の世界標準であった「垂直の装甲をリベット(鋲)で留めた無骨な箱」ではなく、すべての面が滑らかな傾斜を持った**「完全溶接の流線型」**をしていました。

この『十二年式チハ』には、総力戦研究所が極東戦線で得た血の教訓と、未来の戦場を見据えた「数十年先の設計思想」が詰め込まれていた。



絶対的防御(避弾経始と弱点の完全排除):

車体前面は五〇ミリ(傾斜角五〇度)、砲塔前面は七〇ミリの完全溶接装甲。傾斜装甲(避弾経始)の採用により、正面の実質的な防御力は当時のいかなる対戦車砲も弾き返します。


さらに驚くべきは、**「車体前方機銃と覗き窓の完全廃止」**でした。「歩兵を薙ぎ払う機銃が減るのは困る」という旧弊な歩兵将校からの猛反発を、研究所は「車体正面に穴を開ければそこが装甲の致命的な弱点ショットトラップになる。機銃は主砲同軸(副武装)だけで十分だ」と一蹴し、完全なのっぺらぼうの強靭な正面装甲を実現させたのです。



生存性の極致(MBF製スポールライナー):

装甲の内側には、極薄(六ミリ)のMBF(特級硬化繊維素材)が内張装甲として貼り付けられていました。これにより、もし敵の徹甲弾や粘着榴弾が装甲表面で炸裂しても、内側に飛び散る致死性の金属片スポールを強靭な繊維が完全にキャッチし、乗員の命を確実に守り抜きます。



未来の兵站思想(パワーパックと後方駆動):

史実の日本戦車が採用していた「前輪駆動フロント・スプロケット」を廃止し、後方駆動輪方式を採用。これにより、車体前部にトランスミッションを置く必要がなくなり、被弾時の走行不能リスクを激減させた。


さらに、空冷V型一二気筒ディーゼルエンジン(三五〇馬力)と変速機を一体化させた**「パワーパック方式」**を採用。戦地でエンジンが故障しても、クレーンでパックごと吊り上げてポン付けするだけで、わずか数十分で修理が完了します。


一撃必殺の牙(五七ミリ×五〇口径高初速砲):

一六〇〇ミリという余裕のある巨大な砲塔リングに搭載されたのは、歩兵支援用の榴弾砲ではなく、敵の重装甲を遠距離から叩き割るための高初速の五〇口径五七ミリ戦車砲でした。(※このリング径の余裕は、後年、より強力な七五ミリ砲への換装すら容易にします)


「主力戦車(MBT)」という概念の誕生


「……素晴らしい。これならば、ソ連のBT戦車だろうが、アメリカが作っているという多砲塔の新型戦車だろうが、アウトレンジから一方的にスクラップにできる」


デモンストレーション(走りながらの行進間射撃や、ホルストマン式懸架装置による滑らかな悪路走破)を見届けた所長は、深く頷いた。


当時の欧米列強は、戦車を「歩兵の盾となる足の遅い重戦車」と「偵察や追撃に使う装甲の薄い巡航(騎兵)戦車」の二種類に分けて開発していた。


しかし、この『十二年式チハ』は、重戦車並みの装甲と火力、そして巡航戦車並みの機動力を、二〇トンという極めてコンパクトな車体にすべて押し込んでいた。


それはもはや「中戦車」というカテゴリすら超えた、戦場のあらゆる任務を単一の車体でこなす**「主力戦車メイン・バトル・タンク」**という、戦後世代の概念が世界で初めて具現化した瞬間だった。


―――

昭和12年式中戦車 チハ


{IMG240024} 


1. 寸法・重量

車体長: 6.00 m

全幅: 2.80 m

全高: 2.40 m

総重量: 20 トン


2. 機動力・機関系

最高速度: 45 km/h

エンジン: 空冷V型12気筒ディーゼルエンジン

最大出力: 350 hp

懸架方式: ホルストマン式独立懸架方式(純粋なボギー式)

履帯幅: 400 mm

駆動方式: 後方駆動輪方式(フロント被弾時の走行不能リスクを低減)

機関配置: パワーパック方式(野戦での迅速なエンジン交換が可能)


3. 武装

主砲: 57ミリ×50口径戦車砲

副武装: 6.5ミリ機関銃(主砲同軸のみ)

砲塔リング直径: 1,600 mm

※車体機銃: 完全廃止(正面装甲の弱点排除)


4. 装甲・防御力(全面溶接構造)

【車体装甲】(機銃・覗き窓の一切ない完全な滑らか装甲)

前面: 50 mm(傾斜50度)※避弾経始により実質的な防御力は大幅に向上

側面: 30 mm(傾斜30度)

後面: 25 mm(傾斜10度)

【砲塔装甲】(完全溶接装甲)

前面: 70 mm(傾斜30度)

側面: 40 mm(傾斜10度)

後面: 30 mm(傾斜なし)

【追加防御】

MBF(内張装甲 / スポールライナー): 6 mm(被弾時に装甲内側から剥離する金属片を防ぎ、乗員の生存率を向上)


―――


十一月四日。

広島県、呉海軍工廠の巨大な屋根付き乾ドック。

厳重な防諜網に守られたその巨大な穴の底で、神事の祝詞が静かに響き渡り、一本の巨大な竜骨キールが据え付けられました。


第一号艦(のちの大和)、起工。


観閲台からその途方もないサイズの竜骨を見下ろしていた総力戦研究所の海軍技官たちは、彼らが描き出した「新しい海神」の設計図(青写真)を胸に抱き、静かに身震いをしていました。


史実において、大和型戦艦は「不沈の巨城」でありながら、鈍重さと対空火器の弱さというアキレス腱を抱えていました。しかし、総力戦研究所が主導したこの世界線の『大和型』は、旧態依然とした大艦巨砲主義のロマンを完全に削ぎ落とし、**「電磁式算定器コンピューターと新素材(MBF)が導き出した、絶対生存と必殺の最適解」**へと変貌を遂げていたのです。



「……何度見ても、思い切った設計だ。戦艦の象徴とも言える『副砲』を完全に全廃するとはな」


海軍の将官が、設計図を見ながら感嘆の息を漏らしました。


史実で搭載されていた15.5cm副砲は「装甲の弱点になる上に、中途半端である」として設計段階で完全に撤去されました。空いたスペースと重量は、すべて「対空戦闘」に全振りされている。

昭和四年式12.7cm連装高角砲を片舷六基ずつ(計二四門)。

さらにレーダー管制と連動した35mm連装機関砲を四〇門、死角を埋める20mm機銃を三〇基以上。これはもはや戦艦というより、**「海に浮かぶ絶対防空要塞」**です。


機関出力は史実を遥かに超える**「210,000馬力」。重油専焼缶にはMBFによる完全な断熱被覆が施され、熱効率を極限まで引き上げています。

さらに造波抵抗を殺すため、艦尾は垂直に切り落とされた「セミ・トランサム・スターン」を採用し、30ノット超えの高速航行時の艦尾の沈み込みを抑制。

そして、スクリューの後流に配置された「並列二枚舵」**により、この6万8500トンの巨獣は、従来の戦艦の三分の二という驚異的な旋回半径で「敵の魚雷を踊るように回避する」機動力を手に入れました。


MBFハイブリッド装甲と、完全盲目射撃(レーダーFCS)


「艦橋の上部構造物や内装材に『MBF(鋼紙)』を多用したことで、重心が劇的に下がり、復原性が向上している。そして何より、この装甲だ」


技官が指差した断面図には、狂気じみた防御構造が描かれていました。

舷側装甲は410mmのVH鋼。しかし、その内側には**「100mmの高硬度MBF層」**がクッションとして挟み込まれています。敵の砲弾が鋼鉄を叩いた際の破壊的な衝撃波を繊維層が減衰させ、装甲の割れや破片スポールの飛散を完全に防ぐ「複合装甲(チョバムアーマーの祖)」の概念です。水面下にはMBF製のハニカム(蜂の巣)構造材が充填された巨大なバルジが張り出し、魚雷の直撃エネルギーを物理的に吸収します。


そして、艦の最高所には「三号電波探信儀」と「零式統合射撃盤オートトラッカー」が鎮座。

もはや光学測距儀(肉眼)に頼る必要すらありません。

分厚い雲の向こう、あるいは漆黒の夜の闇の先を走る敵艦をレーダーで捕捉し、算定器が未来位置を計算。MBF製パーツで軽量化された装填機構が、46cm砲弾を30秒間隔で自動給弾し、**「相手の姿を一度も見ることなく、一方的に超重砲弾の雨を降らせる」**という、アウトレンジの極致を実現していました。


一九四一年(昭和十六年)の竣工に向けて、アメリカの想像を絶する「鋼鉄の死神」が、その胎動を始めたのです。


これに際し、海軍はこの戦艦の予定性能を国際的に発表した。

勿論、46センチ砲の搭載は秘匿して…。


なお、同時並行して4隻の正規空母が建造されている




瀬戸内海での静かな神事から数日後。

関東平野の奥深くに設置された「航空技廠」の耐爆コンクリート製テスト倉庫では、鼓膜が破れそうなほどの、全く質の異なる「絶叫」が響き渡っていました。


キィィィィィィン……ゴァァァァァァァァァッ!!!


分厚い防音ガラスの向こう側。テストスタンドに固定された「プロペラのない奇妙な鉄の筒」の尾部から、青白い高温の炎の槍が一直線に噴き出していました。


「排気温度、七〇〇度を突破! タービン回転数、規定値に到達! 推力四七五キログラム!」


イヤーマフ(防音耳当て)をつけた計測員が、計器板を睨みつけながら絶叫しました。

総力戦研究所の航空エンジニアたちは、ガラス越しに赤熱するタービンブレードを見つめながら、固唾を呑んでいました。

大日本帝国初の「噴流推進機関ジェットタービン」、その初の連続稼働テストです。


史実の「ネ20(一九四五年完成)」に相当する推力と基本構造を持つこのジェットエンジンは、炭素繊維の焼成実験(高温無酸素炉)の副産物として得られた耐熱合金のデータと、STEL機関で培われたタービンブレードの精密加工技術が融合した結果、史実より八年も早く「実用レベルの推力」を叩き出すことに成功したのです。


「……推力は計算通りだ。プロペラ機の限界速度を置き去りにできるぞ」


主任技官が、震える手でストップウォッチを握り締めました。

しかし、テスト開始から数十分後。


「駄目です! タービンブレードの基部にマイクロクラック(微小亀裂)が発生! 排気温度に耐えきれず、融解が始まっています!」


「燃料カット! 緊急停止させろ!」


ゴフッ、という鈍い音とともに炎が消え、ジェットタービンは重苦しい金属の軋み音を立てて停止しました。

結果として、この試作エンジンの**「連続稼働寿命(耐久時間)」はわずか数時間程度**。実戦で使うにはあまりにも短命な、諸刃の剣でした。


「……やはり、現在のニッケルクロム合金の冶金技術では、燃焼室とタービンブレードの超高温・高回転に耐えるのはこれが限界か」


主任技官は、赤黒く焼け焦げたエンジンを見つめて悔しげに唇を噛みました。


「所長。我々が岩国工場で発見した『特一号炭素繊維カーボン』を、このタービンや、超音速に耐える航空機の構造材(主翼など)に使うことはできないのですか?」


視察に訪れていた研究所の所長は、首を静かに横に振りました。



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