表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/22

第7話「工廠の昼 ― 若き技師たち」

工廠の昼 ― 若き技師たち




王都郊外の施設――

王立クラリウム工廠。


ガラスと鋼鉄が並び、青白いラインが床を走る。

巨大なPDSアーチが天井に展開され、

最新鋭の解析装置が静かな光を放っていた。


その中心にある実験区画で、

三人の若い技師たちが、同時に固まっていた。



最新設備、理解不能



「……ねぇ、これ本当に起動できるの?」

ソフィアがタブレットを片手に、半泣きの声を出す。


「できるよ! たぶん!」

カエルンが透明パネルを必死にスワイプする。


隣でブランが腕を組む。


「おい待て。“たぶん”って言ったな。

 これは国家プロジェクトだぞ?」


「だって、操作パネルが全部空中に浮いてるんだよ!?

 説明書は三百ページで“数式と専門用語”しかないんだよ!?」


「三百ページ!?」


PDSは彼らのテンパり具合をよそに、

淡々と光を脈動させている。



クラリウム、怖すぎる



実験台の中央には、青白く揺れるクラリウム片。


ソフィアは端末を見ながら眉を寄せた。


「……やっぱりどう見ても“呼吸してる”わよね、これ」


「生き物みたいで怖い……」

カエルンが距離を取る。


「怖いならなんでお前が一番近づいてるんだよ」

ブランがツッコむ。


「いや、興味はあるんだよ!?

 怖いけど興味が勝ってる感じの……!」


三人がわちゃわちゃしていると――


カツ、カツ、カツ……


工廠入口から足音が響いた。



リオ登場



白い視察用コートを着た小柄な少年。

猫耳を隠すようにフードを被ってはいるが――


技師たちは一瞬で気づいた。


「しょ、しょ……首相!?!?」


リオはにこっと笑った。


「こんにちは。視察に来たよ」


(かわ……)

三人は心の中で同時に言った。


リオは興味津々でクラリウムを覗き込む。


「わぁ……綺麗だね。光が動いてるみたい」


「あっ、リオ首相!危険です!その距離は!!」


若手技師たちが慌てて前に出たその瞬間――


リオの袖口から声がした。


「危険です。あと五センチ離れてください」


「えっ……?」


三人が固まった。


「すみませんね皆さん。

 私はヴェルティア。“リオの装備”です」


リオが照れたように苦笑いする。


「服が喋ってる……!?」

「ひぃ!? こ、これが噂のAI!??」

「いや待て、人型じゃないのか??」


ヴェルティアはため息をついた。


「やれやれ……落ち着きなさい。

 では、視覚的な方が理解しやすいでしょう」


PDSが起動し――


空中に小柄な少女のホログラムが投影された。


「改めて。ヴェルティアです」


技師3名「「「うわあああああっ!!」」」



初歩の説明(それでも分からない)



ヴェルティアのホログラムは、

指先で空中にクラリウムの立体モデルを描いた。


「この結晶は現在、低位相で安定。

 ただし感応性は高く、刺激には注意が必要です」


「刺激って……どのくらい?」

カエルンが怯えながら聞く。


「あなたたちの大声も刺激です」


三人「「「ごめんなさい!!!」」」


リオは笑いながら言った。


「みんな、すごいね。

 こんな難しいもの扱ってるなんて!」


技師たちは顔を赤くした。


「い、いえ!

 まだ操作もあんまり……」

「PDSも未だに慣れなくて……」

「クラリウムは……正直、怖い……!」


リオは小さな手をぎゅっと握った。


「でも、この光はきっと……

 世界を変える力になるよ」


その声は不思議と柔らかく、

光の鼓動とよく馴染んだ。



小さな暴走と、未来



カエルンが勇気を出してスイッチを押す。


クラリウム片が淡く光った。


……と、


ピッ……ピッ……ピピピピピ!!


「えっ!?なに!?」

「暴走!?!?」

「ごめんなさい!!」


ヴェルティアが慌てず冷静に告げる。


「心配ありません。ただの誤操作です。

 “警報音テスト”のスイッチを押しただけです」


三人「「「そんなスイッチあるの!?!?」」」


リオは笑って言った。


「みんな、本当にお疲れさま。

 ボク、ここから生まれる技術を信じてるからね」


その言葉に、若手技師たちは息を呑んだ。


ヴェルティアも優しく投影を揺らした。


「皆さんの研究が、

 王国の未来を形作るのです」


三人は小さく頷いた。


「……がんばります」

「絶対に成功させます」

「怖いけど……やるしかない!」


クラリウムは、

まるでそれに呼応するように淡く光った。


小さく、でも確かな鼓動。


これが――

王国の新しい技術史の始まりだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ