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第6話「クラリウム工廠 ― 光を鍛える者たち」

クラリウム工廠 ― 光を鍛える者たち




未知の報告 ― 霊晶反応



王城執務室。薄い朝光のなか、リオは机上のサンプルケースを見つめていた。

青く脈打つ“ブルーリフ鉱”。呼吸のような律動は、どこか生き物じみている。


「解析結果、報告します。」ヴェルティアの声が静かに落ちる。

「エネルギー密度は瀝青炭の一万三百六十倍。微量でも空間干渉を誘発。

電磁場の偏向、重力の局所ゆらぎを確認。放射性反応なし。危険度は高。分類――天然クラリウム(霊晶石)。」


リオは深く息を吸い、うなずいた。

「……やっぱり、ただの石じゃなかったわけだね。」


PDSが空間に展開し、波形グラフと立体モデルが花のように浮かび上がる。

曲線はところどころ跳ね、重なり、青白い光の帯を編んだ。


「追記。制御失敗時、局所的な空間崩落のリスク。」

「つまり――火や電気と違って、“空間そのもの”を動かす燃料。使い方を誤れば世界を壊す。」

「要約、適切です。」

リオは目を閉じ、短く考え、決意を固める。

「それでも正しく使えば、この国を変える“光”だ。扱い方を作ろう。」



王国科学会議 ― 光をどう扱うか



王城大広間。円卓の上にサンプルケースが置かれ、空気は張りつめていた。

シャーロットは膝の上でそっと拳を握り、出席者を見渡す。

グランツは資料束を抱え、眉間に皺を寄せる。

URS代表のリチャードは無表情にペンを回し、

日本人技術者代表の高城博士は興奮を抑えきれない様子で前のめりだ。

アラカワは壁際で腕を組み、周囲の警備線に目を配っている。


PDSが起動し、会議の中央に立体図が浮かぶ。

青の波形が、重力の揺らぎと磁場の偏向を可視化するたび、小さなざわめきが走った。


「結論から言おう。」リオが立ち上がる。

「これは天然クラリウムだ。莫大な可能性と、同じだけの危険がある。」


リチャードが手を挙げる。

「危険が勝る。貴国の現状で扱うべきではない。

 制御理論もない未知の物質に手を出せば、産業どころか国土が危うい。」


すかさず高城博士。

「封印は解決じゃない。理解し、規格化し、手順化する――それが技術だ。

 “未知”を恐れたままでは、永久に何も始まらない。」


「両方、正しいよ。」リオは頷いた。

「だから――危険を前提に、制御のための場所をつくる。

 研究・試験・兵装転用の全てを、厳格な規則の下で一体運用する拠点だ。」


リチャードは腕を組み直し、深く息を吐いた。

「……しかし、クラリウムは我が国でもまだ研究段階の代物だ。

 本当に制御できるのだろうか?」


リオは一歩前へ出て、胸をパンッと叩いた。

「大丈夫、やってみせます。――主にこのヴェルティアが!」


「私頼みですか……。」

ヴェルティアの呆れた声が袖口から響き、

会議室に微妙な笑いが走る。

緊張に満ちていた空気が、少しだけ柔らいだ。


シャーロットは微笑みを浮かべつつも、真剣な声で口を開く。

「……わたくしは賭けます。エルミニアが“光を恐れず、正しく導く国”であることに。

 ――王立クラリウム工廠、建設を許可します。」


グランツが静かに息を吐き、リチャードは無言のまま頷いた。

高城は手帳に大きく丸印を描く。

アラカワは短く「了解」とだけ言い、警備計画のメモに線を引いた。



クラリウム工廠、起工



建設地は王都郊外、旧炭鉱群の廃坑地帯。

地耐力、隔離性、既存インフラ――すべてが条件に合致していた。


URSの重機が地面を穿ち、日本人技術者が設計を調整し、

エルミニアの職人たちが梁を組み上げていく。

クレーンの先で鉄骨が空に描く四角形は、やがて大きな枠組みとなり、

ガラスと鋼で覆われた巨大な“炉心”が姿を現した。


「名前はどうする?」高城が聞く。

リオは少し考えて笑う。

「**Arsenal(工廠)**ってのは、戦いのためだけじゃない。

 人の未来を打つ場所だ。――王立クラリウム工廠でいこう。」


完成予告鐘が鳴り、歓声が上がる。

多国籍の手が一本の塔を立ち上げる――それは、この国が“融合の力”を得た証だった。



霊晶石と霊力と



まずは霊晶石クラリウムについて、その性質や特性等の基礎研究が行われた。その為に、ヴェルティアの持つクラリウムに関する情報を一度まとめようということになった。


工廠の一角にリオが立ち、ヴェルティアAIが静かに語り始めた。

「いいですか、みなさん。まずクラリウムというのは──」


しかし、そこで制止の声が入る。

「ちょっと待った。なんというかリオ首相の服が喋っているのはわかるんだが、なんだかその…。服に説明されるのは何か違和感を感じる。」

という声が技術者達の間から出たのだ。


「ふむ…。ヴェルティア、なんとかならない?」

とリオが尋ねると…。

「はあ、しょうがないですね…。ではこうしましょう」


ヴェルティアがPDSを展開、空中に立体映像を映し出すとそこにはやる気の無さそうな青い髪の小柄な少女が浮かび上がった。

「はあ、これで満足ですか」と立体映像の少女が喋る。


「おおっ!」と声があがった。これがヴェルティアの人格としての容姿なのであった。

「問題解決だね。ヴェルティア、続きを進めてくれ」

「わかりました。それではまずクラリウムの特性について──。」

ヴェルティアAIが表示している少女が、指先で空間に文字や図形を描きながら説明を始めた。


クラリウムとは次元の歪みや崩壊領域から生成される結晶状の高エネルギー物質である。

空間および重力場へ直接干渉する能力を有し、適切な制御下で膨大なエネルギーを放出する。

さらにクラリウムにはいくつかの形態が存在する。


■ エーテル(Ether / 霊気)

クラリウムのエネルギー化状態

四種の色荷を持ち、複雑に絡み合って存在する。

クラリウムがエーテル化(霊気化)することによって、空間・重力干渉能力を発現する。

高密度状態では生物的挙動を示し、感応・共鳴・意思伝達などの現象を引き起こすことが確認されている。


■ クラリオン(Clarion / 霊子)

クラリウムの粒子状態

電子や陽子に近い粒子的振る舞いを示すクラリウムの形態。

通常物質中に溶け込み、不可視の霊的エネルギー流として存在する。


■ エーテル波(霊波)

エーテルが空間を伝播する波動現象。

四種の色荷を持つエーテルがそれぞれ色荷の違う霊場を形成し、お互いに生成しあうことで空間を伝播していく。

通信、感応、攻撃、結界など多用途に応用可能。


また、エーテル(霊気)の物理特性においては


霊圧(Ether Voltage)EVエーテルを押し出す力。使用者の意思や感情に比例。

霊流(Ether Current)ECエーテルの流動量。EVの影響を受ける。

霊力(Ether Power)EP実際の出力値。EV × EC により算出される。

抵抗(Ether Resistance)ER精神負荷・装備限界などにより生じる損失要素。


等の特性があることなどが説明された。

これらの性質を応用し、今後の技術開発を行っていくのだ。



初実験 ― 光の暴走



試験室。厚い透明壁の向こうに、親指大のクラリウム片が安置されている。

周囲にはコイル、遮蔽板、測定器。

PDSが試験手順を空中に展開し、項目が一つずつ緑に染まっていく。


「励起レベル、ステップ1。温度上昇、微弱。

空間ゆらぎ、0.003G――許容範囲。」ヴェルティア。


リオが頷く。「ステップ2、いこう。」

コイルが唸り、青い粒がわずかに明滅する。

空気の抵抗が変わった。耳の奥で圧がずれる感覚。

PDSの波形が、一瞬、鋭く跳ねた。


「警告。位相反転の兆候――」

次の瞬間、床がわずかに浮いた。

作業台の工具がカタリと滑り、壁のボルトが微振動する。

青白い光が線となって走り、装置の縁をなぞった。


「遮断っ――」高城が叫ぶより早く、

アラカワが透明壁の前に跳び込む。

剣は抜かない。右掌を前へ、霊力の奔流を素手で受け止めた。


――バンッ。


床石が片腕の周囲だけ蜘蛛の巣状に砕け、

背中を青白い光が舐めていく。

アラカワは歯を食いしばり、霊圧を流し込んで**“押し返す”**。

奔流は一拍だけためらい、やがて熱の尾を引いて収束した。


「……安定化確認。励起停止。空間ゆらぎ、0.0004G。」ヴェルティアが告げる。

試験室の音が、ゆっくり戻ってきた。


リオは息を吐き、アラカワに駆け寄る。

「大丈夫!?」

「肩がちょっと痺れただけだ。」彼は手を握って開き、笑う。

「……でも分かったろ。これは牙を持ってる。」


高城は額の汗を拭い、震える声で言った。

「同時に――確かに応答する。生き物みたいに。」

リオは頷く。

「光を恐れず、正しく導く。

 そのための規格と手順を、ここで作るんだ。」



誓いの夜



夜の工廠。ガラス越しに、中枢塔のランプが脈を刻んでいた。

リオとシャーロットが並んで見上げる。遠くで保安灯が点滅し、

風が金属の縁を鳴らす。


「……この光は、本当に人のためのものになるでしょうか。」

女王の声はかすかに震えていた。

「なるよ。」リオは静かに答える。

「人が“願い”を込める限り、光は道を照らす。

 そのために、怖さも、面倒くささも、ぜんぶ手順に変える。」


ヴェルティアが柔らかく発光した。


「霊子回路、安定稼働。クラリウム解析進行率――12%。

未知領域に進入。以後も段階的安全率を維持します。」


「よろしく、ヴェルティア。」

リオが振り返ると、アラカワが入口で片手を上げた。

「警備手順、更新しておいた。次は俺の番で失敗させない。」

「さっきも充分すごかったよ。」リオが笑う。

「すごいに越したことはない。」アラカワも笑った。


二人の言葉に、シャーロットは小さく息を吐き、

目の前の塔に視線を戻す。


こうしてエルミニア王国は、“光を鍛えるための炉”を手に入れた。

それは研究所であり、工場であり、祈りの場でもある。

未知は牙をむく。だが、人は手順を作る。

ここから“クラリウム戦記”の本当の幕が上がる。

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