第41話「王都グルメ探索 ― はじめての庶民ランチ」
王都グルメ探索 ― はじめての庶民ランチ
王城の朝 ―― ふと訪れた休日
王城の執務室は、久しぶりに静けさに満ちていた。
書類仕事がすべて終わり、リオはようやく息をついた。
窓辺では猫が丸くなり、ぽかぽかと陽を吸い込んでいる。
そこへ帽子を手にしたシャーロットが現れた。
「…今日は、街でお昼を食べてみたいのですわ」
その一言に、リオは思わず目を瞬いた。
「街の…食堂で?」
「ええ。一度、庶民の食事というものを体験してみたくて」
アラカワは書類を閉じ、軽く肩をすくめた。
「…しょうがないな。護衛として同行する」
猫は当然といった顔で立ち上がり、しっぽを揺らす。
こうして、お昼の小さな外出が決まった。
王都の通り ―― 炭火とパンの匂い
昼にはまだ早いというのに、王都の通りはすでに賑わっていた。
焼きたてのパンの香り、
魚を焼く香ばしい煙、
揚げ物の油の音。
どこを歩いてもお腹が鳴りそうな匂いが漂っている。
シャーロットは嬉しそうに通りを見渡した。
「まあ…どれも美味しそうな匂いですわね」
その横で、リオのお腹が控えめに主張する。
「…ぐぅ」
アラカワがじと目を向ける。
「まだ昼前だぞ」
猫は魚屋台へまっすぐ突撃し、店主に撫でられてご満悦だ。
「今日も来たのか、おまえ。本当に魚が好きだなぁ」
リオは猫を抱き上げて、照れくさそうに笑った。
『陽だまり食堂』 ―― ほんのり温かい昼ごはん
口コミで評判の食堂『陽だまり食堂』は、
石造りの小さな建物だった。
中に入ると、野菜スープの匂いと、
木製のテーブルのあたたかさが迎えてくれる。
アラカワは店内を見回し、
「…まあ、ここなら安全だな」と椅子に腰を下ろした。
シャーロットは野菜たっぷりのスープを選び、
ひと口飲んで、ほっとしたように目を細めた。
「…優しい味ですわ。身体に染み渡ります」
リオは揚げ小魚を口に運び、思わず顔を輝かせた。
「カリッとして…すっごくおいしい…!」
猫がじっと見つめてくる。
「にゃ(それよこせ)」
「だ、だめだよ! これはボクの昼ごはん…!」
アラカワは鶏肉の香草焼きを噛みしめながら、
しみじみとつぶやいた。
「こういう店が増えるのは悪くないな。
素朴だが、ちゃんとした料理だ」
どこか懐かしく、しみ込む味だった。
食後の散策 ―― 市場と猫だらけの通り
食堂を出て、腹ごなしに市場通りを歩くことにした。
色とりどりの野菜が山積みにされ、
焼き上がったパンが店先に並び、
魚が冷たい水の中で泳いでいる。
そして――やたら猫が多い。
ナス屋の前に三匹、
魚屋の影に五匹、
パン屋の棚の下に二匹。
気づけば、リオの足元に猫が群がっていた。
「リオ様、猫に好かれてますねぇ!」と商人が笑う。
リオは困ったように微笑んだ。
「…昔からなんです」
シャーロットは猫を撫でて喜んでいたが、
アラカワが淡々と注意する。
「シャル、撫で過ぎると連れて帰りたくなるだろう。ほどほどにな。」
「別に…そんなこと……」
アラカワは小さくため息をついた。
ほんのり事件:例の妖精
ふと、パン屋の前で見覚えのある緑色が動いた。
枝豆の妖精だ。
「ここのパンは素晴らしいのだ! もちもちして――」
店主に怒鳴られ、慌てて追い出されていく。
「だから許可取れって言ってるだろ!!」
妖精は走りながら文句を言う。
「ぼくは知識を広めているだけなのだ!!」
リオは苦笑し、
アラカワは「またか」と頭を押さえた。
猫は「にゃ」とだけ鳴いていた。
夕暮れ ―― ただの幸せな一日
日が傾きはじめた通りを歩きながら、
シャーロットは嬉しそうに微笑んだ。
「とっても楽しい一日でしたわ。
また…街へ散歩に行きたいです」
リオも、肩の力が抜けたような表情で答える。
「うん。ボクも…また一緒に来たいな」
アラカワは軽く肩をすくめながら、
どこか満足げに呟いた。
「…まったく。気が抜けない連中だ」
猫はしっぽを揺らしながら、その横を歩いている。
今日は何も起きない。
ただ、ごはんを食べて、笑って、猫に囲まれただけ。
そんな普通の一日が、誰よりも大切に思えた。




