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第40話「枝豆と霊子肥料 ― クラリウム農業の光と影」

枝豆と霊子肥料 ― クラリウム農業の光と影




王城会議:食料安全保障の行方



王城の高窓から朝の光が差し込む。

机の上には「食料自給」「施肥計画」と書かれた分厚い資料が積まれている。

ひなたで寝る猫を除けば、会議室はいつになく緊張していた。


副首相マルティンが資料をめくりながら言った。


「…もし今の輸入ルートが停止すれば、国内備蓄は六十五日で底をつきます。

 エルミニア王国は、思っている以上に外部依存が強いのです」


シャーロットは静かに頷く。


「食料の国内生産を増やすしかありませんわね」


農務卿が説明を引き取った。


「問題は肥料でございます。窒素、リン、カリウム……どれも国外依存です。

 肥料がなければ土地は痩せ、収穫は激減します」


その場に重い空気が落ちた。


リオは、恐る恐る手を上げる。


「…霊力を使って、窒素肥料を作れないかな?」


視線が集まる。

だが、レアだけはぱっと顔を輝かせた。


「できるわ。 空気と水を霊素変換装置に通して成分を分離し、再構成すればいい。

 大規模装置が必要だけど、理論的には可能よ。」


マルティンが驚いたように眉を上げた。


「そんなに……シンプルな話なのかね?」


「ええ、ややこしいのは回路制御だけです」


レアの言葉に、場の空気が一気に明るくなる。


リオは続けた。


「あと……窒素は霊素変換で作れるとして、リンとカリウムは?」

「それらは下水から回収できないかな? 下水にはリンやカリウムが含まれているって聞いたことがあるし…。」


農務卿が深く頷いた。


「下水処理の残渣には確かにリンとカリウムが含まれております。

 しかし王国の処理施設はまだ簡易なものばかりで……」


アラカワが腕を組む。


「だが、霊素変換で沈殿物から成分を抽出できれば話は変わる。

 技術的には検討の価値があるな」


レアも同意する。


「窒素の国産化を先行して、次にリンとカリウムの回収を始めましょう。

 国産肥料三点セットが揃えば、自給自足も夢じゃありません」


こうして、王国の“食料を守るための技術計画”が本格的に動き出した。



霊素変換棟:リオ・レア法の誕生



数週間後。

王都外郭にある霊素変換棟では、新設された装置が低くうなりを上げていた。

大気を取り込み、水を吸い上げ、すべてを変換装置へ流し込む巨大な設備だ。


レアが誇らしげに言う。


「この装置で大気中の窒素、そして水からは水素を抽出して再構成する。

 これで肥料の原料となるアンモニアが生成されるわ。」


アラカワが生成された液体を観察してうなった。


「こりゃすげぇ…。

 文字通り、大気と水から肥料が生まれたんだな」


シャーロットは笑みを深める。


「リオの発案とレアの技術。名付けは“リオ・レア法”で決まりね」


「そんな…ぼくなんて…」


リオは耳の先まで真っ赤になったが、

猫だけが「どうでもいいにゃ」という顔であくびをした。



試験農場:霊子肥料の威力



農耕地帯に設けられた試験農場。

生成されたアンモニアを原料に生産された新肥料を施した畑では、野菜たちが勢いよく伸びていた。

葉は艶やかで、根もしっかりとしている。


「すごい…本当に効いてる…!」


リオは思わず声を漏らした。

農民たちも大喜びで、収穫への期待が一気に高まった。


ただひとつ、気になることがあった。

畑を歩く猫だけが、大豆の列を避けて歩く。


「……なんでだろう?」


リオが小さくつぶやくが、答える者はいなかった。



異変:光る大豆



大豆が枝豆ほどの大きさに成長したある日の夕刻。

農民が血相を変えて駆け込んできた。


「首相! 大豆が光っとります! なんだか怖ぇです!」


駆けつけると、確かに一株だけ淡い緑光を放ち、

まるで生き物のように脈動していた。


光は中央へ集まり、鼓動のように収束していく。


「何これ…?」


リオが思わず手を伸ばした瞬間、

光が弾け、風が巻き起こった。


ぱんっ。


そこに立っていたのは――

緑髪で、頭に枝豆の飾りをつけた、小さな子供。


「やあ! ぼくは枝豆の妖精なのだ!」


全員の思考が止まった。


リオが恐る恐る口を開く。


「これって…ずん――」


「その名を出すなぁ!!」

アラカワが全力で口を塞いだ。


「いや、どう見てもずん――」


「言うなと言ってるだろ!!」


枝豆の妖精はにこにこしていたが、

周囲はただただ「はあ!?」と叫ぶばかりだった。


猫だけが「にゃ」と一声鳴いて、興味深げに眺めていた。



王城実験室:原因究明



王城の一室にて。

枝豆の妖精は椅子に座り、足をぶらぶら揺らしていた。


「生まれたからには、皆さんのお役に立ちたいのだ!」


アラカワは頭を抱えた。


「…いや役に立たなくてもいいから…まず原因を…」


ヴェルティアが肥料サンプルを解析する。


「…この肥料、一部に霊子が本来の百倍ほど濃縮されています。

 たぶん回路の偏りで、一ヶ所に溜まったのでしょう」


レアが腕を組む。


「大豆は窒素固定をする植物だし、特に負荷が集中したのかもしれないわね。

 いずれにせよ改善が必要だわ」


リオは思わず妖精を見つめる。


「つまり、偶然の…副産物ってこと?」


枝豆の妖精は胸を張った。


「ぼくは偶然でも必然でも、ナンでもいいのだ!

 とにかく元気なのだ!」


アラカワは深いため息をついた。



妖精の進路:ネコネコ動画へ



処遇に困った一同がどうするか相談していると、

枝豆の妖精はぴょこんと手を挙げた。


「ぼく、知識を広めるのが得意なのだ!」


「知識…?」


「こういうのを作るのだ!」


そう言って妖精が端末を操作すると、

R-Net上の動画投稿サイト、ネコネコ動画へ“枝豆の妖精講座”が投稿された。


数時間後。大バズ。


「めっちゃわかりやすい…!」

「声が可愛い…!」

「枝豆の妖精、天才すぎる」


王国中で妖精の動画が再生され、

気づけば妖精は広告収益で生活できるほどになっていた。


アラカワは呆れながら言った。


「…働いてるのか遊んでるのか分からんな」


リオは苦笑するしかなかった。



肥料改善と、不穏な夜



霊子除去工程を加えた肥料は無事に安全化され、

窒素肥料として正式に流通が決まった。

王国の食料自給率向上への、大きな一歩だった。


その夜。

リオはひとり農場へ足を運んだ。

足元では猫が静かに寄り添っている。


光っていた大豆の株は、今はただの植物だ。

それでも、何かが胸の奥をじくりと刺激した。


「…生き物が、こんなふうに出来るなんて…本当に大丈夫なんだろうか」


風が吹き抜け、遠くの森で何かが脈動するような微かな気配がした。


猫がぴんと背を伸ばし、毛を逆立てる。


「…気のせい、だよね?」


霊子の気配は一瞬で消えた。

だが、その違和感だけが夜気の中に残った。


それは、世界のどこかで“何か”が静かに動き出した証だった。



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