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第38話「天空合同演習 ― 司令官リオ、始動」

天空合同演習 ― 司令官リオ、始動




航空艦隊運用会議



王城作戦室――。

高天井の部屋に、緊張した空気が静かに漂っていた。


円卓には、エルミナ級五隻・ハルカ級五隻の艦長、参謀部、技術班が整列している。

アラカワは端席で腕を組み、黙って資料に目を通していた。


その中央で、リオがわずかに深呼吸する。


「――では、航空艦隊運用会議を始めます」


自らの声に、小さく緊張がにじむ。

未来の艦隊司令官として、逃げられない立場だ。


隣のセラフィナが、姉らしさを隠しつつも支えるように一言ささやく。


「リオ、落ち着いて進めなさい。あなたの会議よ」


リオはうなずき、資料をめくった。



陣形について



参謀長が立体戦術図を展開する。


「空中艦隊の最大の問題は、高度差による危険です。

反重力場の干渉もあり、密集陣形は不可能。

三層構造が基本となります」


リオは迷いなく言葉を継いだ。


「干渉範囲は平均六十メートル前後。

だから――“上・中・下の三段フォーメーション”が現実的ですね」


参謀長が驚きと評価を含んだ目を向ける。


「……その通りです。よく把握されています」


セラフィナも堂々と発言した。


「旗艦エルミナは中段が適任。

上下の警戒をハルカ級に任せる形で、安定した陣形になるわ」


両軍の意見が自然に一致していく。


アラカワは黙って聞いていたが、

資料の一部を軽く指で叩いて補足だけ行った。


「……技術的には、それで問題ない。

ただし間隔は最低150メートルは確保することだ」


それだけ言って、また静かに黙り込んだ。

彼の役目は“最低限の技術的安全ライン”の提示だけだからだ。



艦の役割



セラフィナが続ける。


「旗艦エルミナは戦術統合と指揮を担当するわ。」


リオは頷き、軍の資料に目を走らせる。


「ハルカ級は索敵・前衛・迎撃……

“艦隊の手足”として動いてもらう、という理解でいいですね」


参謀長が頷く。


「そのとおりです」



演習内容



参謀長が資料を切り替えた。


「敵国に航空艦はないため、自律ドローンを擬似敵として使用します。

三次元軌道で敵艦の動きを再現し、

ハルカ級による迎撃テストを行います」


リオは真剣なまなざしで戦術図を見る。


「旗艦は中段で指揮、エルミナ級は中距離、

ハルカ級が外周で迎撃……ですね」


セラフィナは満足げに頷く。


「ええ。リオ、いい理解よ」


アラカワはその会話を聞きながら、

(こいつ……ちゃんと指揮官になりそうだな)

と心の中だけで呟いた。



安全基準の確認



参謀長が最後の資料を置く。


「一点だけ、霊核炉の出力変動について。

危険ではありませんが、今回は急加速・急停止を避ける方針です」


リオは素早く理解した。


「つまり……“通常運転だけで戦う”ってことだね」


「それで十分です。航空艦そのものが高性能なので」


セラフィナはリオのほうを向く。


「旗艦の安全は、私が責任を持つわ。

あなたは指揮に集中しなさい」


「うん……任せるよ、姉さん」


そのやり取りに、参謀部の何人かが少し柔らかい表情を見せた。



会議終了



参謀長が閉会を告げる。


「以上で、明日の航空艦隊合同演習の方針は確定します」


艦長たちが一斉に敬礼し退出する。


セラフィナがリオの肩に軽く手を置いた。


「さあ、指揮官。いよいよ本番よ」


リオは深く息を吸い、強い目で前を見据えた。


「……うん。やるよ。空の艦隊を、ちゃんと動かせるように」


その横で、アラカワは黙って立ち上がった。


「……じゃあ俺は陸上のほう戻るぞ。

演習の間、整備班の連中の相手が山ほどあるからな」


短くそう言うと、彼は静かに部屋を出ていった。

口数は少ないが、必要な時だけ確かな助言を残し、

彼らしい去り方だった。


こうして、

エルミニア王国初の空中艦隊演習は、幕を開けようとしていた。



航空艦隊合同演習



翌朝。

王都の空は澄みきっており、風も穏やかだった。

演習には絶好の天候だ。


旗艦エルミナの甲板上では、乗員たちが忙しく動き回り、

艦体は低い霊力振動音を響かせながらゆっくり浮上していた。


リオは制服の襟を整え、セラフィナとともにCICへ向かう通路を歩いていた。

いつになく緊張した面持ちで、セラフィナは静かに弟の横顔を見つめる。


「大丈夫よ、リオ。今日は模擬戦なんだから、失敗してもいいの」


「……失敗しても、か。

でも、ここから僕は“実際に艦隊を動かす側”なんだ。

練習でも、いい加減な指揮はしたくない」


セラフィナは短く息をつく。

姉として、弟の成長を実感する瞬間だった。


「ふふ。ちゃんと“司令官の顔”になってきたじゃない。

その意気よ、リオ」


CICの扉が開き、二人はさっと照明の落ちた指揮席へ入る。

円形のモニター群、霊波地図、艦隊配置。

すべてが空中艦隊の“心臓部”だった。


リオは司令席に座り、深く息を吸い込んだ。


「――全艦、漂泊解除。

エルミナ級は中段位置に移行。

ハルカ級は高度差をつけて上下へ展開」


参謀が「了解、全艦へ送信」と復唱し、艦隊は静かに動き始めた。



立体フォーメーション



霊力場が唸りを上げ、十隻の空中艦が次々と高度を調整する。

上昇する艦、下降する艦、その中で中層を維持する旗艦エルミナ。


モニターには立体図が浮かび、

艦の動きに合わせて青い線が上下に流れていく。


「全艦、隊形整いました」


セラフィナがサブ指揮席から報告する。

姉としての表情は消え、完全に軍人の声だった。


「よし……各艦、速度を維持。

索敵開始」


ハルカ級が外周へ散開し、

蜘蛛の巣のように広がった索敵網が空域全体を覆っていく。



ドローン出現



「――反応!高度三千、複数の小型反応を確認。

パターン一致、訓練ドローンです!」


CIC内に緊張が走る。


「来たね……!

ハルカ級、識別航行開始。

エルミナ級は射界を確保――通常砲撃のみ」


「了解!」


ハルカ級が高速で動き出し、

三次元に複雑に動くドローンへと向かう。


「敵群、急降下して接近!速度、予測値を超えています!」


セラフィナの眉がわずかに動く。


「……あれ、制御班が張り切りすぎたわね。

リオ、どうする?」


司令席でリオは一瞬だけ考え、すぐに判断した。


「ハルカ級は急降下禁止、斜め進入に切り替え!

正面衝突になる角度は避けて!」


参謀たちが驚いたように動きを止めた。


「斜め進入……!

衝突リスクを最小化して射角を確保する、ですか……!」


セラフィナは思わず笑う。


「いい判断よ。落ち着いているわね、司令官」


「……こういうのは“地面に落ちないように動く野良猫”と同じなんだって。

『真正面に突っ込むのは素人』って、誰かに言われた気がするし」


「それ、絶対アラカワでしょ」と周囲の参謀が小声で笑った。



迎撃戦



ハルカ級が斜めの角度からドローンへ接近し、

青白い対空レーザーが次々に蹴散らしていく。


「命中!」「敵影、四分の一消失!」


しかし敵役ドローンは高度を崩し、大きく潜るように進路を変えた。


「敵、下段へ潜行!

下層の艦を狙っている可能性!」


「ハルカ級、下層の防空ラインを再構築!

エルミナ級、砲撃角を五度下げ!」


「了解!」


空中戦特有の上下移動が混ざり、

艦隊は三次元の迷路の中で戦うような様相を見せ始める。


セラフィナは素早く手元の霊波地図を操作しながら言う。


「ドローンの進行予測が乱れてる。

リオ、上層の艦を一隻下に回したほうがいい――」


「ダメ。上段を崩すと全体の高度バランスが壊れる。

ハルカ級に“反転迎撃”を任せよう。

彼らならできる」


セラフィナは一瞬だけ弟を見つめた。

その瞳には確かな自信が宿っていた。


「……いいわね。任せましょう」



通信妨害



突然、警報が鳴り響く。


「通信班より報告!

妨害波、発生! 一部ハルカ級との通信が不安定!」


「予定通りの妨害テストだ……!」

リオは即座に指示を飛ばす。


「各艦、指示遅延を想定した”個艦裁量”を許可!

セラフィナ、旗艦から全艦へ最低限の指示だけ送って!」


セラフィナは一言、「了解」とだけ言い、

素早く最低限の作戦方針を各艦へ送る。


その間にも、ハルカ級は通信なしで個別判断し、

見事にドローン群の側面から包囲へ入った。


「……やるじゃん」とリオは小さく感嘆した。


参謀が思わずつぶやく。


「この動き……指揮が冴えている。

通常の会議で見せる姿とはまるで違う……!」


セラフィナは誇らしげに笑った。


「本番に強いのが、うちの弟なのよ」



戦闘終了



通信が回復し、ドローン群の最後の一隻が撃墜される。


「全敵影、消失!

航空艦隊、模擬戦勝利!」


艦内に拍手が沸き起こった。


リオは硬かった肩をようやく落としながら言った。


「ふぅ……なんとかなった。

でも、課題は多いね。高度差の維持と……あと通信だ」


セラフィナは弟の肩に軽く手を置いた。


「それを理解できてるなら十分よ、司令官。

今日で――あなたが本当に“空の艦隊の指揮官”になれるって、分かったわ」


リオは照れたように笑う。


「姉さんがいれば、なんとかなるよ」


――こうして。

エルミニア王国の“空の艦隊”は、

初の合同演習を成功させ、新たな一歩を踏み出したのだった。



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