第35話「王国AI革命 ― PASのある暮らし」
王国AI革命 ― PASのある暮らし
王城の会議室。静けさが満ちる中、リオの一言が空気を切り裂いた。
「――ヴェルティアを、インフラにしようと思うんだ。」
その場にいたアラカワ、シャーロット、マルティン、側近たちは、一瞬で表情を固めた。
誰も言葉の意味が理解できず、部屋には気まずい沈黙が落ちる。
リオは続けた。
「最近ね、王国がすごい勢いで発展してるせいで、“技術が難しすぎてついていけない”っていう意見がけっこう来てるんだ。」
シャーロットも思い当たる節があるのか、眉を寄せた。
「確かに、霊波ネットやPDSは便利ですが……。国民全員がすぐに使いこなせるとは限りませんわね。」
アラカワは腕を組んでうなった。
「たしかに、急激すぎる発展は格差の原因にもなるな。」
リオは軽く息を吸い、机の上の資料を指で叩いた。
「だから“街中にAIサーバーを設置して、声で呼び出せばPDSでアシストAIが出てきて、使い方や案内をしてくれる”……そんな仕組みを作りたいんだ。」
それは、旧世界でもまだ実現していなかった夢に近い技術だった。
“歩く爆発物”の登場
そのタイミングで、扉がノックされる。
入ってきたのは、工廠の天才研究者――レア・クローヴァだった。
彼女が入室した瞬間、リオ以外の全員が反射的に身構えた。
“歩く爆発物”だとか“存在が危険物”とまで言われる人物である。
レアはため息をつきながら、両手を広げた。
「失礼ねぇ……今日は爆発物なんて持ってきていないわよ。」
部屋の全員は同時に心の中で同じ言葉を思った。
(“今日は”……?)
レアは椅子に腰掛け、淡々と説明を始める。
「リオ君の案をもとに、“PAS”を作ったわ。街に設置されたサーバーが、呼びかけに応じて立体映像AIを出す仕組みよ。もちろんR-Netと接続しているから、情報提供も万全。」
その説明に、場の空気が一気に引き締まった。
革命的な技術が、またひとつ生まれてしまったのだ。
街角のPAS試作品
レアの案内で王都の大通りへ向かうと、建物の壁に小さな黒い箱が取り付けられていた。
レアは「これが試作品よ」と言い、リオが呼び出しの言葉を試す。
「PAS、オン!」
その瞬間、青白い光が道の中央に浮かび上がり、少女の姿をした立体映像が形を取った。
その顔立ちは――どう見てもヴェルティアである。
リオは嬉しそうに「ボクのコンディションを教えてよ!」と話しかける。
AIは薄く眉を寄せた。
「……うるさいですね。コンディションを読み上げます。」
どうやら性格までヴェルティアを参考にしたらしい。
AIは要望に応じて空間に内容を表示しながら、淡々と読み上げる。
「健康状態:良好。睡眠質:標準以上。
身長:〇〇㎝。体重:〇〇kg。
“何かに抱きついていないと眠れない傾向がある”
“11歳までオネショの癖があった”」
リオはみるみる真っ赤になり、慌ててホログラムに手を伸ばす。
「ちょ、ちょっと待って! どうやったら止まるのこれ!?」
AIは無表情のまま答えた。
「うるさいですね……PASオフと言われれば消えます。」
叫ぶように「PASオフ!」と言うと、光の少女は静かに消えた。
レアは涼しい顔で言う。
「こんな感じで、呼び出した人をサポートするわ。」
リオは興奮気味に「改良の余地はありそうだけど……これなら皆が迷わずに暮らせるよ!」と頷いた。
一方アラカワは、どこかで胸騒ぎを覚えていた。
彼の長年の勘は、“平和な未来”より“カオスな未来”を予感していたのだ。
そして王国はカオスに包まれた
――それから数ヶ月後。
民間企業が次々とPAS事業に参入し、王国はAIブームに飲み込まれる。
AIモデルは国民の要望に合わせて増え続けた。
・「おとなしい系AIがいい」
・「かわいい男の子AIがほしい」
・「リオちゃんソックリのモデルが欲しい」
・「AIに罵られたい(強め)」
その結果――王国の街角には様々な人格のAIが並ぶことになった。
ある街角では、
「最寄り駅はねぇ♡そこの角を曲がるだけ♡そんなこともわからないの?ざぁこ♡ざぁこ♡」
と煽り散らすモデルがいた。
別の通りでは、
「この街で一番うまいカレー屋はこの坂の上や。提供スピードがドバーッとはやくて、ああ~たまらねぇぜ。」
と謎のおじさんが道案内していた。
国民の反応も千差万別だ。
「PASが相手してくれるおかげで一人でも寂しくない!」エルミニア人男性(24)
「囲碁の相手をしてくれて毎日楽しい」日本人男性(65)
「リオちゃんモデルがすごくて……ぐへへ(悪用)」エルミニア人女性(18)
リオは完全に予想外の方向に進んだPASを見て、
「……これはこれで、みんな楽しそうだから……まぁ、いいかな……?」と、遠い目で呟いた。
アラカワだけは、本気で頭を抱えた。
「だから言っただろ……絶対こうなるって……」
こうして、王国はPASという新しい“混沌”を手に入れた。
それは技術革新であり、同時に――終わりなきカオスの始まりであった。




