第34話「王都放送:クラリウム未来史」
王都放送:クラリウム未来史
王国放送局のスタジオに、落ち着いた照明と柔らかな音楽が流れた。
大きな円形テーブルの前には、番組MCであるアナウンサーのセルジュと、
クラリウム史研究者のカティア=ベルンが座っている。
セルジュが微笑みながらカメラへ向き直った。
「皆さまこんばんは。王国放送“未来への扉”。
本日は特別企画――
『クラリウム技術・発展の軌跡』 をお送りします」
カティアが真面目な表情でうなずく。
「この数年で、わたしたちの生活は大きく変わりました。
その中心にあるのが……クラリウムです」
モニターに、天然クラリウムの白い結晶が映し出される。
セルジュが語る。
「発見の起源は、王都北部“おばけの森”。
当初は幻覚現象の噂が立つ程度の場所でしたが……
のちに、近代クラリウム研究の礎となりました」
カティアが補足する。
「その後、各地に発霊所が建設され、
霊気を抽出・安定させる技術が確立されました」
画面には、発霊所が建設される過程の映像、
初期の霊動機が動く歴史映像、
霊動車が街を走り始めた頃の記録が流れる。
セルジュは軽く笑って言う。
「いやはや、今の若い世代には信じられないと思いますが、
昔はこの国……馬車や自転車くらいしかなかったんですよ」
カティアも笑い、
「R-Net(霊波ネットワーク)が完成し、
世界中の霊子回線を繋いだことで、
情報社会も一気に広がりましたね」と続ける。
セルジュはモニターへ向き直った。
「ではここで、現場の取材VTRをご覧いただきましょう。
人気レポーター、リナ・アルステッドさんです」
VTR:レポーター取材の旅
画面が切り替わり、元気いっぱいの女性レポーター・リナが映る。
「はいっ! 王国放送取材班、リナです!
今日はクラリウム技術の最前線を“直撃”していきます!」
背後には広大なアルテナ高原。
冷たい風が吹き抜け、巨大な白い建物が並んでいる。
「まずはここ、アルテナ高原の“精製クラリウム工場”から!」
工場の職員が案内する。
「こちらでは、おばけの森奥地から採掘された天然クラリウムを、
安定化のために再結晶化します。
不純物を分離し、純度を高める工程ですね」
リナが窓越しに覗き込むと、
巨大なチューブの中で光る結晶が脈動していた。
「わぁ……! …あれ、なんか温かい?」
職員が苦笑いする。
「それ、暖房の風が吹いてるだけですよ」
「な、なんだぁ〜……!」
軽くオチを入れて、次の場所へ。
航空艦エルミナへ
画面が切り替わると、
ルミナシティ王立海上基地の港湾に、
停泊中の航空艦エルミナが鎮座していた。
リナは思わず叫ぶ。
「でっっっかいーーーー!!」
セラフィナ艦長が現れ、敬礼する。
「ようこそ、航空艦エルミナへ」
「か、艦長さん……オーラがすごい……!」
セラフィナは淡々と案内を続ける。
「まずは艦橋です。
ここで航行・重力制御・空間安定を行います」
艦橋はまるで巨大なコックピット。
透明化された壁からは、空中の雲層が見える。
リナが感嘆する。
「空の上を飛ぶ艦って……こういう景色なんですね……!」
次に居住区画。
元海上自衛隊組の文化と、エルミニア王国の文化が融合した独特の空間。
セラフィナが笑みを浮かべる。
「生活面は、地上とほぼ変わりませんよ。
ただ、揺れない分、こっちのほうが酔いません」
リナ「なるほど!」
最後にシミュレーションルームへ案内される。
「ここでは、空中戦や機動訓練を再現できます」
巨大なホロ画面が立体映像を展開し、
リナは息をのんで見上げた。
「映画みたい……!」
艦特製カレー
その日は金曜日。
エルミナの食堂では、艦特製カレーが提供されていた。
リナはスプーンを口に運び、目を見開く。
「お、おいし〜〜〜い!!」
セラフィナが少し照れながら言う。
「元海上自衛隊の文化でして……各艦ごとに“自慢のカレー”があります。
うちはスパイス多めです」
そして――王立クラリウム工廠へ
場面は、巨大ゲートがそびえる王立クラリウム工廠へ。
リナは緊張した様子で言う。
「いよいよ……王国最先端の技術が集まる場所へ来ました!」
だが――研究棟の前に立つと、
なぜか扉の隙間から白い煙が漏れていた。
「え? なにこれ? 漏れてる? 爆発? もしかして取材NG?」
ビクビクしながら扉を開けると――
「いらっしゃい」
白衣が真っ黒に燻り、
頬に煤をつけたレア・クローヴァが立っていた。
「混沌と混乱の研究室へようこそ」
スタジオから笑い声が入る。
レアの“霊素変換”実験
レアは堂々と装置を指さす。
「ここで“霊素変換”を研究しているの。
霊気を霊子回路に沿って物質化する技術よ」
リナは衝撃で声を震わせる。
「そ、それってつまり……“設計図を元に物質を作る”技術……!?」
「理論上はね。成功したら王国の産業は大きく変わるわ」
レアが装置のスイッチを入れる。
ウィィィィン……と低い音が研究室に響く。
装置中央の窓に光が集まり、
何かの“形”が生成されつつあった。
リナは息を呑む。
「すごい……これ、成功ですよね!?
画面の前の皆さん、今まさに歴史が――」
レアが得意げに言いかけた瞬間。
「まあ、今回はわりと安定し――」
チュドォォォォォン!!
画面が一瞬真っ白になり、
研究室中に煙がもくもくと立ちこめる。
レポーターも技師もレアも、全員アフロになっていた。
リナが絶叫する。
「もう!!
爆発オチなんてサイテーー!!」
スタジオへ戻る
画面がスタジオに戻ると、
MCセルジュが困った笑顔をしていた。
「……えー、技術開発には失敗がつきもの、ということで」
カティアは額を押さえながら言う。
「レア・クローヴァさんは優秀なんですが……安全管理だけは……」
セルジュが締めに入る。
「それでも、あの研究が未来を切り開くのは間違いありません。
クラリウム技術は、今日もどこかで新しい光を生み出している――
本日の“未来への扉”は、この辺りで」
映像がフェードアウトし、
番組ロゴが静かに画面に浮かぶ。
《王都放送 未来への扉》
……。
番組を見ていたアラカワが溜息をつきながら呟いた。
「なんだこれは…。たまげたなぁ。」
今日も王国は平和であった。




