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第33話「昼下がりの伝説 ― 王都の豚騒動」

昼下がりの伝説 ― 王都の豚騒動




昼下がりの陽光が王都ルミナシティの街並みを照らしていた。

王城の公務を終えるどころか、こっそり抜け出した首相リオは、

いつものようにアラカワを引っ張って街へ出ていた。


今日はただの散歩ではない。

「なごみ亭」という馴染みの定食屋で昼食を取るためだ。

古びた木の看板と暖簾、どこか懐かしい香りのする店構え。

エルミニアの中でも数少ない、“旧地球の味”を再現した食堂である。


アラカワは店の前で足を止め、感心したように呟いた。

へぇ、こんな店があったのか――そんな表情を浮かべる。

店内には、だし汁の香りと炊きたての米の湯気が漂っていた。

懐かしい日本料理に舌鼓を打ちながら、ふとアラカワが気づく。

リオが器用に箸を操りながら食事をしていたのだ。


「お前、箸なんか使えたのか」と言いたげに眉を上げるアラカワに、

リオは得意げに笑ってみせた。

どうやら、こっそり練習していたらしい。

小さな手で箸をくるりと回してみせるその姿に、アラカワは思わず吹き出した。



商店街での出来事



満腹になった二人は、食後の散歩とばかりに商店街へと向かった。

街は活気があふれており、通りには露店や子どもたちの笑い声があふれていた。

穏やかな昼下がり――その平和を破ったのは、突然の悲鳴だった。


「きゃーっ! 強盗っ!」


声のした方を見ると、雑貨屋の前で騒ぎが起きていた。

店主の女性が人質に取られ、二人組の強盗が警察に包囲されている。

銃口が向けられ、誰も近づけない。

その光景を見たアラカワは、ため息をつきながら一歩前に出た。


止めようとするリオの手を振り払い、アラカワは短く言った。

「任せとけ。」


銃を構える強盗が叫ぶ。「来るなっ!」

その瞬間、アラカワの姿がふっと掻き消えた。

次の瞬間には、人質の女性が彼の腕の中に抱かれていた。

ほんの一瞬。誰の目にも、動きは見えなかった。


人々から歓声が上がる。しかし、強盗たちは逆上してアラカワに向けて銃を乱射した。

弾丸が空を裂く――だがアラカワは身じろぎもせず、弾丸を体に受ける。

その瞬間、アラカワは体を器用に操り体表面を利用して弾丸の軌道を逸らした。

火花とともに、弾丸は空へと消えていく。


「タフだねぇ。」

とリオは感心した。



アラカワの伝説



「あ、当たらない!?バカな!!」

焦った強盗の一人が震える声で言う。

「あ、当たりさえすれば……!」

アラカワはゆっくりと前に進みながら、静かに笑った。

「当ててみろよ。」


再び銃声が響く。

弾丸がアラカワの胸を打ち、少しめり込んだかと思うと、

鈍い音を立てて地面に転がり落ちた。

見物人たちが息を呑む。

「社会の秩序は壊せても、たった一人の人間は壊せないようだな。」

アラカワが弾丸を受けた胸をはたいた。


「な、何者だお前……!」と強盗の一人が声を震わせる。

アラカワは背筋を伸ばし、ゆっくりと答えた。

「新生エルミニア陸上防衛隊隊長、アルトリア城会議室のゴミ係――ケイタ・アラカワだ。」


その名を聞いた瞬間、強盗たちの顔色が変わった。

「あ、アラカワだと!? あの伝説の訓練で百キロを笑顔で走破したっていう……!」

「王城の晩餐会で豚一匹を丸ごと平らげたという、あの伝説の!?」

アラカワの伝説には妙な尾ひれがついていた。


周囲がざわめく中、アラカワは額に手を当ててため息をついた。

「変な伝説を付け加えるな!」


その一喝で空気が和らぎ、警察官たちは強盗を取り押さえた。

人質の女性は無事保護され、通りには拍手と歓声が広がる。

こうして小さな事件は、アラカワの見事な手際によって幕を閉じた。


だが――それがすべての始まりだった。

翌日、王都の新聞の見出しにはこう記されていた。

「アラカワ隊長、銃弾をも砕く体術で強盗を鎮圧!」


市民たちは新たな伝説を語り合い、

エルミニア陸上防衛隊宛てには感謝とともに、なぜか大量の豚が寄贈された。

その光景を見て、リオは笑いを堪えながら呟いた。

「……これ、どうするの?」

アラカワは腕を組み、渋い顔で答えた。

「とりあえず、バーベキューでもするか。」


こうして、またひとつ“アラカワ伝説”のページが増えたのだった。



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