第32話「踊る選挙 ― 猫耳党、国会へ!」
踊る選挙 ― 猫耳党、国会へ!
王城の執務室。
昼下がりの紅茶を片手に、リオが突拍子もない一言を放った。
「また選挙をやろうと思うんだ。」
アラカワが思わずペンを落とした。
「……お前な、前の選挙でどれだけ混乱したと思ってる?」
しかし、リオはどこ吹く風で笑っている。
どうやらきっかけはヴェルティアの入れ知恵だったらしい。
――三権分立。
立法・行政・司法、それぞれに権限を分け、権力の集中と濫用を防ぐ仕組み。
それが「文明国家の基本形」だと、ヴェルティアはリオに講義してみせたのだ。
「つまり、立法機関を作ればこの国も“先進的”になれるのだ!」
「……お前、誰の影響受けてるんだ。」
それでも、リオの提案はすぐに現実化した。
国民の代表による国会を設立するための“国会議員選挙”。
エルミニア王国史上初の立法府を作る選挙が、ここに幕を開けたのだった。
サブカルチャー国家の選挙活動
選挙告示と同時に、王都は一夜でお祭り会場と化した。
通りには派手な看板、音楽、踊る候補者。
リオの“可愛さで選ばれた首相”という前例があったせいで、
「選挙で勝つにはかわいくなければならない」という奇妙な価値観が国中に浸透していた。
候補者たちはこぞってアイドル化した。
ダンス付きのマニフェストソング、
光るPDS衣装、
観客と一体化した選挙ライブ。
街頭では候補者たちが歌いながら手を振る。
「税率下げるよ☆彡」「エーテル割引キャンペーン!」
スピーカーから流れるポップな曲に、子どもたちが一緒に踊っている。
アラカワは頭を抱えた。
「……完全に祭りだな。いや、宗教か?」
政党=アイドルグループという奇跡の発想
地方でもこの熱狂は止まらなかった。
各地の“御当地アイドル候補”が乱立し、選挙区ごとに熱狂的なファン層が形成されていく。
個人では勝てないと悟った候補者たちは、次々とグループを結成。
“政党”という名のアイドルユニットが誕生した。
「経済成長48%!」を歌う《ミラクル・インフレーションズ》。
「未来はかわいいで作る!」を掲げる《フューチャー☆エンジェルズ》。
そして政治家たちは彼らのプロデューサー兼マネージャーとなり、
「公約ダンス」の振り付け指導に追われていた。
「……この国、終わってないか?」とアラカワがぼそりと呟くと、
ヴェルティアはきらきらと目を輝かせて言った。
「これが民意というものです。楽し気でいいじゃないですか。」
猫耳党、爆誕
そんな中、ある“自然発生的ムーブメント”が起きた。
R-Net上で、あるタグが突如としてトレンド入りしたのだ。
――#リオ推し再び。
王国民の間で、「やっぱりリオ首相が一番推せる!」という熱狂が巻き起こった。
リオを勝手に応援する非公式ファンクラブが全国に広がり、
やがてそれが正式な政党として登録されてしまった。
その名も――猫耳党(Party of Nekomimi)。
党旗はリオの象徴である猫耳をモチーフにしたデザイン。
党是は「かわいく、正しく、生きる」。
公約には「全国の学校に午後三時のミルクタイム導入」「猫耳文化財の保護法制定」など、
もはや政策というよりライフスタイルそのものだった。
当の本人は王城で頭を抱えていた。
「ちょ、ちょっと待って! ボクそんな党作ってないよ!」
「国民が勝手に盛り上がってるようですね」とヴェルティアが悪びれもせず答える。
シャーロットは目を輝かせて言った。
「とても素敵じゃありませんか!猫耳党……響きも可愛いです!」
「いや、“響き”の問題じゃないだろ!」
投票日 ― 踊る民主主義
選挙当日。
王国の至るところで“ライブ投票イベント”が開催された。
投票所はまるでコンサート会場。
ステージ上で候補者たちが歌い、踊り、
観客は投票アプリで推しに一票を投じる。
結果は――驚くべきものだった。
猫耳党、得票率38%。
単独第一党。
王国の立法府は、猫耳をシンボルに掲げた新勢力によって席巻されたのだ。
「リオ首相、完全勝利ですね。」とヴェルティアが得意げに言い、
リオは机に突っ伏した。
「……ボク、立候補してないのに……。」
シャーロットは穏やかに微笑む。
「これこそ民意です。かわいく、正しく、生きる――素敵な理念ではありませんか?」
アラカワがため息をつく。
「……この国の民主主義、方向性間違ってねぇか?」
こうして、エルミニア王国初の立法府――
いや、**“踊る立法府”**が誕生した。
その名の下に、歌と笑顔の国政が始まる。
リオの知らぬところで、エルミニアはまたひとつ、新しい伝説を刻んだのだった。




