第31話「メイドオークション in 王都」
メイドオークション in 王都
王城のメイド隊詰所では、このところ深刻な声が続いていた。
「人手が足りませんわ……」
メイド長が言うと、周囲のメイドたちも
「ここ数日は掃除も洗濯も追いつきません」と肩を落とす。
要望書がリオの机に置かれると、リオは首を傾げながらつぶやいた。
「最近、たしかに城の中も来客が多いしねぇ……」
アラカワは腕を組み、現実的な意見を述べる。
「募集はかけられるが、すぐには集まらんだろ」
シャーロットもため息をついた。
「短期的に補う方法が必要ですわね」
リオが机にあごを乗せたままヴェルティアに話を振る。
「……ヴェルティア。エーテル・クラフトって、家の道具とか作れるよね?」
ヴェルティアは迷いなく「可能です」と答えた。
「じゃあ……メイドロボとか、できればいいのにねぇ」
リオが冗談半分で言った瞬間、ヴェルティアの返答にその場の空気が凍りついた。
「できますよ」
ヴェルティアが淡々と答える。
「できんのか……?」
アラカワは真顔になってヴェルティアの方を向く。
「まさか本当に……?」
マルティンも目を丸くしている。
「基本家事をこなす程度であれば、素材さえあれば製造可能です。ただし、性能は保証できません」
ヴェルティアは落ち着いた声で言い添えた。
「性能は……まぁ、そこまで高くなくても……」
リオは笑ったが、アラカワに「多分って言ったな?」と冷たい目を向けられる。
だが、それでも流れは止まらず、ついに王国初の“メイドロボ製造計画”が動き出した。
工廠に響くクラフト音
王立クラリウム工廠の民生開発ホールでは、ヴェルティアがPDSを展開しながら「素材投入ボックスを生成します」と告げる。
青白い光の中に現れた大きな箱へ、技師たちが金属骨格材、サーボ、クラリウム結晶、人工皮革などを次々に放り込んでいく。
アラカワは箱を見ながらつぶやく。
「……本当に大丈夫なのか、これ」
「なんとかなるよ。多分」
リオは軽く言い返した。
「だからお前のその“多分”が信用ならねぇんだよ」
「エーテル・クラフト、開始します」
ヴェルティアが宣言すると、箱全体が光に包まれた。
二時間後。
乾いた「チーン」という電子音とともにPDSの箱が分解され、そこから白いフリルのエプロンを着た少女型ロボットが飛び出してきた。
「おはようございますっ! これから精一杯がんばりますっ!」
その明るさだけは満点だった。
そして災害級ポンコツが誕生する
さっそく王城で試験稼働が始まったが――悲劇はすぐに訪れた。
皿を並べさせれば、手が滑って全部落とし、
料理を任せれば、鍋の中身を黒い塊へと変貌させ、
暖炉掃除では灰を盛大に爆散させ、廊下まで白煙に包む。
極めつけは洗濯だ。
洗濯道具を持たせたはずが、気づけばロボット自身が洗濯桶の中で高速回転しながら「ひゃああああ!助けてくださいぃぃぃ!」と泣き叫んでいた。
アラカワは頭を押さえて断言した。
「……ダメだな、これは」
メイドロボは涙目でリオの袖をつかみながら必死に懇願する。
「処分だけはしないでくださいっ!」
「どうすんだよ、これ」
アラカワが呆れ気味に聞く。
「うーん……」
リオは考え込み――
「なんでもしますからぁ!」
メイドロボが叫んだ瞬間、リオの表情がぴたりと止まった。
「……ん? 今“なんでもする”って言ったよね?」
「やめろ、絶対ろくなこと考えてねぇだろ」
アラカワは顔をしかめて言ったが、時すでに遅かった。
王都中央広場、謎の競売会
翌日。
王都中央広場には、なぜか大勢の人と大量の猫が集まっていた。
中心に立つのはリオと、例のポンコツメイドロボである。
リオは威勢よく声を張り上げた。
「さぁ! 本日ここで競りにかけたいと思います! こちらは王立クラリウム工廠で製造されたばかりの初心者のM! 家事ならなんでもこなします! 料理をしたり、掃除をしたりも調教次第では出来るかも知れませんよ! まずは30万から!」
メイドロボは涙目でリオの後ろにしがみつきながら「ご主人さまぁぁ!」と叫ぶ。
だが観客はノリがいい。
「40!」
「50!」
「60!」
「70!」
アラカワは遠くから眉間を押さえながら「……やりやがったな」とぼそりとつぶやく。
リオはさらに煽る。
「渋いなぁ!どうですお客さん!この子は見た目によらず、頑丈で従順!メイド肌はバッチリ!可愛い顔してる割には結構ハードなことやりますよ!さぁ、70からもうひと声いかがです!」
「80!」
「90!」
「90!もう一声!歯切れのいいところで!」とリオが叫ぶと、
「100!」という声が上がり、会場がざわめいた。
リオは大きく頷く。「はい! 100万のお客さんに決まり!」
メイドロボは連れて行かれながら「皆さんお元気でぇぇぇぇぇ!」と叫び、観客の猫たちは「ニャー!」と鳴いて見送った。
リオはどこか満足げな顔だ。
「いい値段だったねぇ」
「……どうですお客さん、じゃねぇんだよ」
アラカワは冷たい目を向けた。
数日後
王城に一通の手紙が届いた。
差出人は──売り飛ばされたあのメイドロボだった。
手紙にはこう書かれていた。
『新しい御主人様にみっちり教育され、料理も掃除もできるようになりました!
たまに皿は落としますが、前よりは確実に上達しています!
お元気で! いつか恩返しに行きます!』
手紙を手にしたリオは、遠い目をしながらつぶやいた。
「……なんだか、娘をお嫁に出した気分だよ」
アラカワはすかさず「じゃあ売るなよ」とツッコみ、
リオは「あ……それはそう」と小さく肩を落とした。
こうして“ポンコツメイドロボ事件”は、しばらく王都の笑い話として語り継がれることになった。




