第30話「王宮メイド隊の日常 ― 猫耳首相の観察記録」
王宮メイド隊の日常 ― 猫耳首相の観察記録
王宮メイド隊詰所。
朝の光が差し込む中、隊長のマリアが分厚い記録帳を閉じた。
「――さあ、今日も猫耳首相の観察任務を始めるわよ」
新人メイドのクレアが、涙目で手を挙げた。
「た、隊長……昨日の首相様、“うぅ……”って机で丸まってて……
尊すぎて、私……三回気絶したんです……」
「慣れなさい」
アンナが淡々と言う。
「む、無理ですぅ!」
マリアは咳払いして、
「今日の任務は“安全確保・身だしなみ・癒しの効果測定”よ」
と読み上げる。
クレアが「癒しの効果って何ですか!?」と叫び、
アンナが「要するに今日も可愛いということね」と言うのを聞き流して、
メイド隊は執務室へ向かった。
朝のリオ
扉を開くと、
寝癖のついた猫耳フードをかぶり、
しっぽクッションを抱いたまま書類を読むリオがいた。
「お、おはよう……みんな」
その姿だけで、メイド隊の頭の中に雷が走る。
「隊長、今日の破壊力……やば……っ」
クレアがふらつき、
マリアは「しっかりしなさい」と言いつつ心の中で同意していた。
アンナは記録帳にさらさらと書く。
(本日も首相様は可愛い。寝癖は右に“ふにゃっ”。
メイド隊の動揺大。)
リオはきょとんと首をかしげる。
「みんな、どうしたの? そんな真剣な顔で……?」
(原因はあなたです!!)
メイド隊全員の心がひとつになった。
紅茶の“ふーっ”
マリアが紅茶を差し出すと、
リオは「あ、ありがとう……」と受け取り、
そっと息を吹きかけた。
「ふーっ……」
その瞬間、クレアが崩れ落ちた。
「むり……無理ですっ……尊……」
アンナは冷静に「新人一名ダウン」と記録する。
リオは慌てて駆け寄る。
「えっ!? 熱かった? ボクの“ふーっ”が弱かった!?」
「違います! 強すぎたんです!」
マリアは心の中で絶叫した。
シャーロットの刺客
そこへシャーロットが入ってくる。
「おはよう、リオ。
今日のあなた、とても……可愛いわね」
「ふぇっ!? そ、そんなことないよ……!」
リオのしっぽが“パタパタ”揺れると、
クレアが再び倒れ、メイド隊はほぼ壊滅した。
シャーロットは微笑む。
「メイドさん、ちゃんと記録してね?」
「は、はい……!」
マリアは背筋を伸ばしながら思った。
(この女王様……仕掛けているわね……)
庭園の猫まみれ事件
気分転換に庭に出たリオは、
子猫たちにわらわらと囲まれた。
「わっ……!? みんな、どこから来たの……?」
「にゃあ」「にゃ~」「にゃっ!」
リオは嬉しそうに笑う。
「良い子だねぇ……みんな……」
クレアは泣きながら倒れ、
マリアが抱き起こし、
アンナは冷静に「新人二名の寿命が縮んだ」と記録した。
裏では“仕事モード”のリオ
執務室に戻ると、
リオはすぐに真剣な表情になり書類を読み込んだ。
「水道局の調査報告……北区の視察も必要だね」
マリアは驚いた。
「首相様……こんなにも成長して……」
アンナも静かに呟く。
「見た目は可愛いのに、中身はもう“国を背負う人”ね」
クレアは涙ぐみながら
「尊い……」としか言えなかった。
夜の廊下で
仕事を終えた夜。
くたびれたメイド隊が廊下で座り込んでいると、
リオが小さなトレイを持って現れた。
「みんな……今日もありがとう。
ボク、みんながいてくれるから頑張れるんだ」
その優しい聲に、メイド隊は一瞬で息を呑んだ。
「……はぁぁぁぁ……尊い……」
クレアは完全に崩れ落ち、
マリアは涙を拭いながら「この国は絶対大丈夫ね」と呟いた。
翌朝の記録
【王宮公式記録・第41号】
・紅茶“ふーっ”事件で新人3名倒れる
・庭園で子猫に囲まれ、メイド隊全滅
・水道調査と北区視察の政策決定あり
・夜、首相様からハーブティー差し入れ
・尊さの暴力につき対策が必要
――王宮メイド隊 隊長 マリア
クレアが記録の端を見て眉をひそめた。
「ねえ……今日の首相様の予定……
“猫用ブラシの試用会”って……何……?」
廊下を歩いていたマルティンが
「……私もまだ聞いてない……」と頭を抱えた。




