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第28話「王都の影 ― 小さなほころび」

王都の影 ― 小さなほころび




王都ルミナシティの朝は、いつも活気に満ちている。

市場の店主たちの呼び声、パン屋の焼き上がる香り、

広場では水汲みをする子どもたちの声が響く。


だが――

その日は、空気のどこかが違っていた。


「ねぇ、聞いた?」

「また水道の圧が下がったんだって」

「井戸が枯れるんじゃないかって噂まで……」


市場の一角で、主婦たちが不安そうに囁き合う。

最近、街中に妙な噂が急に増えていた。


“王国は水を管理しきれていない”

“このままじゃ物価が跳ね上がる”

“首相は猫耳の少年で本当に大丈夫なのか”

“枕がでかすぎる”


どれも、事実とは言えない。

だが、再建途上の国では、噂はあっという間に人の心を飲み込む。



王都での暴動騒ぎ…?



広場で巡回していた治安兵リナは、

不穏な空気に気づいて顔をしかめた。


(なんだろ……今日はやけにみんなピリピリしてる……)


そのとき――

中央通りの奥から、怒号のような声が響いた。


「どこだ! 王宮の人間は!」

「説明しろ! 水が本当に足りないのか!」


通りの先で、十数人ほどの市民が集まり、

半ばパニックのような状態になっていた。


「みんな落ち着いて! 押さないで!」

パン屋の主人がなだめようとしていたが、

声はすぐにかき消されてしまう。


リナは小走りで駆け寄りながら叫んだ。


「み、みなさん、落ち着いてください!

 ここで騒ぐのは危険です!」


だが、市民の不安はすでに限界に近かった。


「落ち着けないよ!

 昨日、水道局が“調査中”って言ったまま音沙汰なしだ!」

「このまま水が止まったらどうするの!?

 料理も洗濯もできないよ!」

「王宮は黙ってるだけじゃないか!」


リナは一瞬、言葉を失った。


(う……どう答えれば……

 リオ首相は毎日のように現場を見てるし、

 本当はすぐに対策を進めているのに……)


だが――

一般市民にとって、“見えない努力”は努力とは伝わらない。


そのとき。


「……邪魔だな」


低い声が背後から聞こえた。


振り返ると、治安隊のベテラン――ファルクが無言で現れた。

その横には隊長のグレンも控えている。


グレンは深く息を吸い、

通りに響くように声を張った。


「市民の皆さん!

 まず第一に――水不足の事実はありません!」


ざわ……と群衆が揺れる。


「王宮と水道局は現在、設備の点検を行っている最中だ!

 一部の地区で圧が不安定なのは確認されているが、

 供給は通常どおり行われている!」


パン屋の主人が声を上げた。


「ほ、ほんとうなのかい!?

 でも噂じゃ“給水制限”が始まるって……!」


グレンは首を振る。


「その噂は虚偽だ。

 霊波ネットでの流言は現在、王宮情報局が調査中だ。

 根拠のない話に煽られないでほしい!」


一瞬、群衆の勢いが弱まる。


だが――

そこへ別の男が割り込んだ。


「嘘だ!

 昨日、北区の井戸が枯れたって聞いたぞ!」


一部の市民がさらに騒ぎ始める。


リナは焦りを覚えた。


(まずい……このままだとデモじゃなく、暴動になる……)


グレンが手をあげた。


「ファルク!」


「……了解」


ファルクが前に出ると、

群衆の前にしゃがみ込み、静かに言った。


「俺は北区の担当だ。

 井戸が枯れたという話は一切聞いていない。

 昨日も点検に行った。むしろ水はいつもより澄んでいた」


嘘や誤魔化しではない。

それが彼の言葉の重さとして伝わった。


場の空気がすっと軽くなる。


別の主婦が涙目で尋ねた。


「じゃあ……噂は全部……」


「不安が不安を呼んでるだけだ」


ファルクがはっきりと言う。


「気持ちはわかる。

 この数ヶ月、国は大きく揺れた。

 前の世界のことだってまだ忘れられない人も多い。

 だから“ちょっとした変化”に敏感になる」


その言い方は、誰の責めもしない。

ただ事実を受け止めてくれる声だった。


市民たちは徐々に落ち着きを取り戻していった。


「……すまなかった」

「ちょっと怖くなって……」


グレンは笑って首を振る。


「怖い時は、俺たちを呼んでくれ。

 俺たちがここにいる理由は、それだけだ」


群衆が散り、通りに平穏が戻った。


リナは深く息をついた。


「隊長……よかった……」


「まだ終わりじゃないぞ」

グレンは苦笑した。


「王宮への報告が残ってる」


ファルクが通りを見渡し、ぽつりと呟く。


「……国はまだ、揺れているな」



王城・執務室



「水の噂……?」


報告を聞いたリオは、小さく目を見開いた。


シャーロットも書類から顔を上げる。


「リオ、どうしますか?」


リオはすぐに答えた。


「明日、ボクが水道局へ行くよ。

 市民のみんなにも、正しい情報を伝えなきゃ」


シャーロットがうなずく。


「ええ。国民はまだ不安が強いもの。

 わたしたちが近くにいることを示さないと」


マルティンが補足するように言う。


「小さな事件でも、積み重なると大きな不安になる。

 放置は危険ですね。情報管理を強化しましょう」


リオは拳を胸に当てた。


「うん。

 “国を守る”って……こういうところからなんだね」


その言葉は小さかったが、

執務室にいた全員が、しっかりと聞き取った。


王都の影に生まれた小さなほころびは――

確かにリオたちの肩に重くのしかかっていた。


だが同時に、

新しい王国の“第一歩”が確かに始まっていた。



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