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第26話「猫のしっぽ ― 王都メイド騒動」

猫のしっぽ ― 王都メイド騒動




陸、海、空――新生エルミニア王国の防衛体制が整い、国家は急速に安定していた。

だが、発展していたのは軍事だけではない。


各地には発霊所が建設され、霊力網が構築されて各都市に霊力を供給している。

供給された霊力は様々な用途で利用された。

また余剰エネルギーは必要に応じてE/Eコンバータによって電力に変換され、各家庭で家電を動かした。


クラリウム技術の民生転用が進み、国民の暮らしにも余裕が生まれ、

王都ルミナシティでは新しい文化が次々と芽吹いていた。


アニメ、映画、漫画、そしてビデオゲーム。

若者たちはこれまでにない自由な創作と表現の世界に熱狂していた。

そんな中で、ちょっと変わった店が評判になっていた。

その名も――メイド喫茶「猫のしっぽ」。


ある日の午後。王城の会議を終えたシャーロット女王が、不意に言い出した。

「ねぇ、リオ。噂の“メイド喫茶”っていうのに行ってみたいの。」

書類を抱えたマルティン副首相が青ざめた。「だ、だめです陛下! 王族がそんな場所に!」

しかし、リオは笑って肩をすくめた。

「まあまあ、たまにはいいじゃない。民の文化を知るのも政治のうちさ。」

シャーロットが嬉しそうにうなずくと、副首相は頭を抱えた。


こうして、公務を押し付けられたマルティンを後に、二人は王都へ繰り出した。



猫のしっぽ ― 王都の片隅で



ルミナシティの片隅にあるサブカルチャー街。

アニメグッズや霊子音楽の専門店が立ち並び、王都の中でも最も賑やかな区画だった。

その一角に、柔らかなネコ耳の看板が掲げられた店があった。


扉を開けると、明るい声が響く。

「お帰りなさいませ、ご主人さま♡」


店内は活気に満ちていた。

可愛らしいメイド服をまとった店員たちが、笑顔で接客をしている。

だが、よく見ると――そのほとんどが男性だった。


エルミニア人の男性は、一般的に小柄で中性的な体格を持ち、

肌は白く、顔立ちは整っている。

声も柔らかく、髪を伸ばし化粧をすれば、女性と見分けがつかないほどだ。

この国独特の気質が、自然とこうした文化を生み出したのだろう。


リオは周囲を見回しながら、思わず唸った。

「……これは、予想以上に本格的だね。」

シャーロットは目を輝かせていた。

「すごいです! 可愛いです!」

「やっぱ好きなんすねぇ…。」とリオが謎の感想を漏らした。


近くのメイドが、ケチャップでオムライスにハートを描いていた。

「おいしくな〜れ♪ 萌え萌えキュン♡」

それを見て、シャーロットは感動のあまり両手を握りしめる。

「リオ、あれ見ました!? 本当にやってます!」

「え、えぇ……実際にやるんだ……。」



店主の提案



ひとしきり笑っていた二人のもとに、店の奥から穏やかな声が響いた。

「いやぁ、これはこれは……まさかお二人がいらっしゃるとは思いませんでした。」


現れたのは店主らしき中年の男性。

白髪交じりの髪を後ろでまとめ、優しい笑みを浮かべている。

その目には、どこか含みのある光が宿っていた。


リオが思わず背筋を伸ばす。

「し、知られてる……?」

店主は微笑みながら言った。

「心配なさらず。私は王都民ですが、口は堅いほうでしてね。

 “陛下が庶民の街に降りた”などと吹聴したりはいたしませんとも。」


その言葉に、リオとシャーロットは顔を見合わせて安堵した。

だが店主は、すぐに次の言葉を続けた。


「ですが……せっかくです。記念に、リオ様をメイド服姿にしてみませんか?」


「は?」

リオの目が点になった。

「な、何を言ってるんですか!?」

しかしシャーロットは満面の笑みで身を乗り出す。

「ぜひお願いします!!」


「シャル!?」

「これは国際交流の一環です♡」


店主はにこやかに頷き、店員に指示を出した。

「それでは、特別衣装を。」



メイドリオ、誕生



そして数分後――。

カーテンが開く。

そこに立っていたのは、フリルのついたエプロンに黒のスカートを身にまとい、

猫耳を寝かせて顔を真っ赤にしてうつむくリオだった。


店内が一瞬、静まり返る。

次の瞬間、客たちが一斉に歓声を上げた。

「かわいいーー!!」

「王都の奇跡だ!」


リオは頬を染め、言葉を失う。

「……これは職務の一環です……」

シャーロットはすでにカメラ機能を起動させた携帯端末のPDSを構えていた。

「はい、リオ、ウィンクして! 今のもう一枚!」


カシャッ、カシャッ――。

連続する撮影音に、リオは魂が抜けたような顔をした。



王城への帰還



結局その日、シャーロットは久々の“庶民体験”を満喫し、

リオはすっかり精魂尽き果てて店を後にした。


「楽しかったですね、リオ。」

「……二度と行かないからね。」


しかし翌朝。

王都の週刊誌の見出しには、こう踊っていた。


> 「メイド喫茶に天使降臨!? 正体はあのリオ首相か!?」


王城の執務室では、マルティン副首相が天を仰ぎながら嘆息した。

「またですか……リオ首相……!」




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