第25話「霊力と資源のゆくえ ― 王国外貨戦略会議」
霊力と資源のゆくえ ― 王国外貨戦略会議
王城の会議室には、地図と統計資料が広げられ、空気はいつになく張り詰めていた。
議題は――王国の未来に関わる、切実な問題だった。
リオは椅子に座りながら、資料をぱらぱらとめくった。
「……王国の人口、こんなに増えてたんだね」
アラカワは重い声で続ける。
「移住者も観光客も増えたからな。だがエルミニア島は山地が多い。農地は限界だ。
このままだと数年以内に“食糧不足”が数字として出てくる」
王都評議会の議員も深刻そうに頷いた。
「外貨を稼いで輸入に頼るしかないが……今の主産業は瀝青炭だけでは不安定なのです」
リオは資料を閉じ、「王国内で発展してきたクラリウム技術を使えば、外貨獲得の幅が広がるはずだよね」と言った。
その言葉をきっかけに、会議は一気に方向性を変えた。
クラリウム製品輸出案と“霊力問題”
「クラリウム製品そのものを輸出する案があります。」
生産部門の職員が手を挙げて発言する。
武器は論外としても、日用品や機械、医療機器など、王国にはクラリウムを利用した民生品が多い。
だが――問題はひとつ。
アラカワが腕を組んだまま言う。
「クラリウム製品は霊力がないと動かない。
つまり、エネルギー源を他国に供給する必要が出てくるんだよな」
その霊力供給源とは、王国がようやく扱いこなせるようになった“発霊所(霊核炉)”。
マルティンが眉をひそめる。
「他国に発霊所を建設する案もありましたが……あれは軍事転用も容易です。
霊核炉そのものを輸出するのは、リスクが高すぎる」
会議室が重い空気に包まれた。
そんな中、リオがぽつりと言った。
「じゃあ……“霊力だけ”輸出するのは?」
議員の一人が目を丸くする。
「霊力だけ……? 一体どうやって?」
そこへ、生産部門の職員が資料を掲げた。
「実は、“エーテルコンデンサー”への霊力充填輸出案があります。
霊力は極めて高密度のエネルギーです。同じ体積の石油と比べても……」
アラカワが資料を覗き込みながら言う。
「……こっちのほうがエネルギー効率が上か。
石油缶一本ぶんで、発電所に匹敵するだけの仕事量かよ」
「そうです。霊力は“新しい石油”に相当します」
会議室にざわめきが広がった。
リオは満足そうに笑う。
「霊核炉そのものは輸出しないで、霊力だけを渡す。これなら平和的だね」
転移物リサイクル事業の提案
次に発言したのは、民間企業連合の代表だった。
「――実は、もうひとつ。転移物(いわゆる異世界ガレキ)の大量処分に困っている国が世界中にあります。」
地図の上には“転移物埋立地”と書かれた赤印がいくつも並んでいた。
「融合世界各地の転移物は、霊錆現象で劣化しており、加工も再利用もできません。
ですが……エルミニア王国のクラリウム技術なら“還元”できるのでは?」
リオは目を輝かせた。
「つまり、ゴミを材料に戻す?」
企業代表は嬉しそうに頷いた。
「はい。
各国から安価で大量に買い取り、こちらで還元再生して素材にする。
廃棄物が資源に変わるなら、世界中が喜ぶでしょう」
期待が膨らむ中、リオは振り向いてひとつの人物に問いかけた。
「レア、今の技術でできるの?」
レア・クローヴァは白衣のポケットに手を突っ込みながら、あっさり答えた。
「実験レベルではもう成功してるわよ。
大規模工場を建てれば問題なく量産できるわ。
……ただし、最初の試験運転で四回爆発したけど。」
会議室がシーンと静まり返り、アラカワは小声で「“ただし”の内容が重すぎるんだよ……」とつぶやいた。
それでも、レアが成功させている事実は揺るがない。
「工場化すれば、安全性も上がるわ。多分」
アラカワは天井を見上げながら、「一番不安なタイプの“多分”なんだよな……」とぼそっと呟いたが、皆は前向きに受け止めていた。
世界へ動き出す王国
こうして、王国は二本の柱を立てることを決定した。
A:エーテルコンデンサーによる霊力輸出
B:転移物リサイクルによる資源輸出
この大きな方針が決まると、世界はゆっくり、しかし確実に変化し始めた。
霊力輸出の開始
数ヶ月後――。
空中輸送船が世界各地の港湾へ向かい、巨大なエーテルコンデンサーへ霊力を供給する光景が当たり前になった。
どの国も港に新しい設備を整え、自国全土へパイプラインを伸ばしていく。
その霊力が流れ出すのに合わせ、各種クラリウム製品の輸出が始まった。
最も需要が高かったのは――“霊動機”。
ガソリンを凌ぐ燃費、寿命、出力。
車両や工場は一気にエーテル化していった。
転移物リサイクルの時代
一方、転移物リサイクル事業も世界で爆発的に普及していった。
各国で“処分に困っていたゴミ”が、王国では“資源”として買い取られる。
安価だが売れるので、各国は喜んで転移物を王国へ輸出した。
工業地帯に建設された還元工場では、レアの開発した装置が唸りを上げて稼働していた。
(※爆発回数は稼働初日に三回に抑えられたという)
再生された材料は国内で消費されたあと、余剰分は高品質素材として輸出され、外貨の柱のひとつとなった。
クラリウム技術大国エルミニア
こうしてエルミニア王国は、世界からこう呼ばれるようになった。
「クラリウム技術大国」
「霊力エネルギーの輸出国」
「ゴミを資源に変える国」
クラリウムは研究対象から“資源”へと変貌した。
そして王国には外貨が流れ込み、大量の食糧を輸入できるようになった。
世界中の料理が集まり、王都では毎日のように新しい店が開業した。
気づけばエルミニア王国は――
“世界のグルメ大国”
と呼ばれるようになっていた。
リオは王都の屋台で焼き立ての串を食べながら、満足げに言った。
「これで……当分は王国の未来、安心だね!」
アラカワは串を噛みながら、半分呆れたように言った。
「……お前がそう言うと、なんかフラグにしか聞こえねぇ」
リオは「え?」と首を傾げたが、
王国の未来へ向かう大きな一歩が確かに刻まれていた。




