第24話「空翔る輸送船 ― 王国物流の新時代」
空翔る輸送船 ― 王国物流の新時代
航空艦の試験航行成功から、三日後。
王都ルミナシティは、まだ空を見上げる人で賑わっていた。
だが、空を見つめていたのは市民だけではない。
王城の執務室でも、ひとつの提案が静かに火を灯していた。
「――首相。“民間空中輸送船”の開発許可をお願いしたいのです」
ルミナ・ロジスティクス代表の老商人は、深々と頭を垂れた。
「ここ数年、王国南東の小さな島々から
“物資が届きにくい”という声が増えています。
船もありますが……海流と季節風で遅れがちでして」
リオは椅子に身を乗り出し、息を飲んだ。
「……離島の問題。昔の世界でも、たしかに難しかったね」
「はい。ですが、エルミナ級が空を飛ぶなら――
“空飛ぶ民間輸送船”も可能なはずです!」
老商人の目は、年齢を感じさせぬ勢いで輝いていた。
「反重力で海上を飛び越えれば、数日の航海が数時間に短縮されます。
どうか、王国の物流を……空へ!」
リオは少し考え――静かにうなずいた。
「いいよ。その未来、試してみたい」
空飛ぶコンテナ船 ― LL-01
王立クラリウム工廠・民生開発棟。
そこでは、軍とは別の“静かな革命”が始まろうとしていた。
「――これが、試作1号輸送船《LL-01》です!」
ソフィアが誇らしげに図面を掲げる。
リオは思わず言葉を失った。
「……まるで、船じゃない?」
「はい、首相。完全にコンテナ船の構造を踏襲しています。
上部には巨大ハッチを設置し、港のガントリークレーンで
“真上からそのままコンテナを吊れる”ようにしました」
図面には、明確に箱型の船体が描かれていた。
・縦長の箱形
・上面が巨大な開閉ハッチ
・船底はAG場パネルに合わせた緩やかなくぼみ
・後部に小型艇用の補助ハッチ(非常用)
・外観はほぼ海上コンテナ船
ソフィアは胸を張る。
「空気抵抗? 正直に言うと“不利”です!
でも――物流は“箱の規格”が命なんです」
ブランも横でうなずいた。
「コンテナ規格を変えず、港設備をそのまま使う。
そのためには“空力より箱型”が絶対条件なんですよ」
リオは図面を見つめながら呟いた。
「……空であっても、海の文化を受け継ぐんだね。
それって……すごくエルミニアらしいよ」
ソフィアは照れながら笑った。
「飛行速度は最高時速300キロほど。
巡航時は海面から高度300〜500メートルを維持します。
荒天時は着水して耐えられます。
そして荷役はすべて――港のクレーンとフォークリフトです!」
リオはその言葉に深くうなずいた。
「不思議と現実感があるね……。
空飛ぶ未来なのに、港のクレーンが主役なんだ」
王城会議室 ― “空路”という新しい問題
試作輸送船《LL-01》の初航行を翌日に控えた夜、
王城の小会議室にリオ、シャーロット、アラカワ、マルティン、そして技術班のソフィア・ブランが集まっていた。
机の中央には、エルミニア島と周辺海域の立体地図が浮かび上がっている。
「――技術的な準備は整いました。
ですが、“運用方法”について、まだ詰める必要があります」
マルティンの言葉に、全員の視線が地図へ集中した。
1.空路ルートの問題
アラカワが腕を組んで話し始めた。
「空を飛ぶと言っても、ルートは海の上を進むべきだろ。
陸地の真上を通ると、事故時の被害がでかい」
シャーロットが頷く。
「それに……空を越える船が常に陸地の上を飛ぶのは、
国民が不安を抱くでしょうね」
リオは少し考え、地図の海上部分へ指を伸ばす。
「じゃあ、基本ルートは“海の空路(Marine Sky Route)”とする。
海上のほぼ真上、あるいは海面すれすれを巡航する航法」
ヴェルティアが補足する。
「緊急時には着水できるため、安全性も高いと判断します」
2.他国の“領空・領海”問題
マルティンが地図の外周に目を向けた。
「問題は……国際輸出入に使う場合です。
海を越えるとはいえ、他国の“領空”を横切る可能性がある」
アラカワが眉をひそめた。
「海の上でも、ある程度の高度を飛んでりゃ領空侵犯になるよな?」
ソフィアがタブレットを操作し、データを表示する。
「LL-01の巡航高度は300〜500m。
この高度は国によって“領空扱い”のこともあります」
シャーロットが小さく息を呑む。
「では……許可が必要ということですね?」
リオは静かにうなずいた。
「うん。だから将来的には――
“国際空路協定(Inter-Sky Navigation Pact)” が必要になるかもしれない」
マルティンが感慨深そうにつぶやく。
「国際海路の上位互換……“国際空路航路”。
新しい時代が本当に来るのですね……」
3.“水上運用の原則”を決める
リオは少し考え、机の上に手を置いた。
「輸送船は海の文化の延長線上にある。
だから原則を決めよう」
リオの声が静かに響く。
**『空中輸送船は海上および湖上を主航路とし、
陸地上空の飛行は最小限にとどめる』**
アラカワが笑う。
「そりゃそうだな。
海の船が空を飛んでも、船は船だ」
シャーロットも頷く。
「国民の安心にもつながりますし、
“空を使った海運”という定義はとても素敵です」
ブランが補足する。
「この原則を前提にすれば、港湾クレーン、フォークリフト、
現行の海運インフラをほぼそのまま使えます」
ソフィアが満面の笑みで続ける。
「つまり、“海運の延長としての空運”です!」
会議の締め ― 空の未来を語る
リオは小さく頷いて言った。
「じゃあ、結論はこうだね。
・ 空路は海の真上を巡航する
・ 水上・港湾でのみ荷役を行う
・ 国際輸出入時は“領空”問題を事前協議する
・ 将来的に“国際空路協定”を整備する
これで……空に道ができるよ」
ヴェルティアが優しく光を放つ。
「首相、これは“空海一体の航路網”の誕生です。
王国の物流は、海と空の両方を手に入れました」
シャーロットは静かに目を細める。
「リオ……とても素敵な未来ですわ」
アラカワがにやりと笑う。
「明日飛ぶ《LL-01》は、その第一歩ってわけだ」
リオは深く息を吸い、まっすぐ前を見つめた。
「うん。
明日、空に“海の物流”を運ぶんだ――」
――こうして、翌日の初航行につながっていく。
ローレン湾 ― 試験航行の日
王国最大の港、ローレン湾。
巨大なコンテナクレーンが林立するその港で、
一隻の“異様な船”が静かに浮かんでいた。
《LL-01(ルミナ・ライン1号)》。
外見はどう見ても“海のコンテナ船”。
だが――船底の光が、水ではなく空気を押し返している。
「浮揚、開始!」
青白い光が噴き上がり、
LL-01の巨体がゆっくりと海面から離れる。
ゴオォォォ……
「う、浮いた……本当に……!」
港の作業員たちが次々と声を上げた。
「海と同じ形なのに……空に浮かぶなんて……!」
リオは静かに息を呑んだ。
「……これ、すごいよ……。
“空飛ぶ未来”と“港のクレーン”が繋がってる……」
初の空輸 ― 小さな島へ
試験飛行は港湾上空でのふらつきを検証したあと、
すぐに実務運航へ移された。
目的地は――
王国南東の小島《アリア島》。
フェリーで半日かかる距離を、
LL-01はわずか40分で到達した。
アリア島の港で、漁師たちは空を指差して叫ぶ。
「おい、あれ……空から来てるぞ!!」
「船が……船が飛んでる……!」
LL-01は海面すれすれで速度を落とし、
静かに“着水”すると、通常の船と同じように港へ寄せていった。
港のクレーンが動き出す。
上部ハッチが開く。
コンテナが、いつも通り吊り上げられる。
ただ――
今その船は“空を飛んで来た”のだった。
「こ、これは……」
「夢を見てんのか……?」
リオは甲板からその光景を見つめ、胸が熱くなった。
「……ボクらは海を捨てたんじゃなくて、
海の文化を“空にも広げた”んだね」
ヴェルティアが柔らかく輝く。
「首相。これは“空海一体の物流革命”と呼ぶべきでしょう」
王都に戻り、未来が始まる
王城に戻ると、すでに速報が出回っていた。
《空輸1号成功!》
《離島への物資、半日 → 40分へ短縮!》
《ルミナ・ライン1号、王国物流の象徴に》
その夜、王都のバルコニーで、
リオとシャーロットは海の向こうの光を眺めていた。
「……あれは?」
「ルミナ・ライン1号の誘導灯ですよ。
今夜は帰港便が一便あるんです」
シャーロットは静かに微笑んだ。
「空を軍だけのものにしない。
民も、商人も、島々の人々も――
みんなで空を使う……素敵ですね」
リオは深くうなずいた。
「うん。
今日、ボクたちの国は本当に“ひとつ”になった気がするよ」
夜空を横切る小さな光点。
それは、海と空を結ぶ新しい道だった。
こうして王国に――
空中物流という新時代が幕を開けた。




