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第23話「天空の翼 ― 航空艦エルミナ、飛翔」

天空の翼 ― 航空艦エルミナ、飛翔




序 ― 空の時代の幕開け



ルミナシティ王城の窓から、流れる雲が遠くの地平を渡っていく。

その下で海と大地を守る艦隊が動き、王国の空は静けさの中に力を秘めていた。


「海も陸も整った。」

会議卓の中央で、リオ首相が言葉を落とした。

「――残るは、空だね。」


集まった面々の視線が一斉に彼へと向けられる。

女王シャーロットは穏やかに頷き、ヴェルティアの青白い光が空気に溶けた。

高城博士が書類を差し出す。


「オルフェウス工廠にて、古代艦エルミナの修復作業が完了しました。

 明朝、試験航行を予定しています。」


リオは静かに立ち上がる。

窓の外、薄く滲んだ朝焼けが大気を照らしていた。

その瞳には、地平のさらに向こう――“空の未来”が映っていた。



黎明の工廠 ― 準備の時



夜が明けきらぬローレン湾。

霧の向こうに、巨大な艦体が沈黙していた。


それは古代遺跡から引き揚げられ、再び息を吹き返した航空艦エルミナ

全長二百三十メートル、船体の表面を覆う霊子回路が、わずかな朝光を受けて青く脈打つ。


オルフェウス工廠のドックには、技術班と士官たちが配置につき、

セラフィナ・ファルクレスト艦長が白い手袋をはめる。


「全乗員、配置確認。AG Core(エーテル重力干渉炉)、起動準備に入ります。」


ブリッジへ向かう足音が、鉄の甲板に響いた。

高城博士が制御盤を覗き込み、レア・クローヴァが低く報告する。


「供給装置の反応、正常……ですが、波形に未知の要素が確認されます。」

「それでも行くしかない。」

セラフィナの声は揺れなかった。


その時、ドックの外に立つリオが呟いた。

「まるで空を待つ生き物だ。」


彼の背後で、ヴェルティアの光が明滅する。

「首相、全系統準備完了。……いつでもどうぞ。」



発動 ― 重力の鎖を断つ



ブリッジ内に、緊張と沈黙が広がった。

セラフィナが短く号令を放つ。


「――AG Core、起動。」


低い振動が艦底から響いた。

次第に重力の感覚が薄れ、海水がわずかに押し返される。


「重力干渉炉、出力上昇。浮揚率、七〇パーセント。」

「艦底アンカー、解除!」

オペレーターの声が重なる。


ドック全体が震え、エルミナの巨体がゆっくりと浮かび上がる。

白い霧が渦を巻き、青白い光の帯が艦体の周囲を包む。


ヴェルティアの通信波が報告を送る。

「未知波形、安定。霊圧流、正常範囲内。霊核炉、臨界達成。」


セラフィナが息を吸う。

「上昇開始――全出力展開!」


その瞬間、轟音が海を裂いた。

エルミナは水面から完全に離れ、

幾千もの霊光を散らしながら、ゆっくりと天へ昇っていった。



飛翔 ― 空を取り戻す日



雲の層を抜け、陽光が艦体を照らす。

青と白が溶け合う空の中で、エルミナは翼のない鳥のように静かに進んだ。


「高度一五〇〇メートル、速度三五〇キロ。姿勢安定。」

ヴェルティアの報告が淡々と響く。

ブリッジの外では、乗員たちの歓声が上がった。


地上では、ルミナシティの街がざわめいていた。

人々が屋根に上り、子どもが空を指さし、猫たちが一斉に鳴く。


青い空に浮かぶ白い艦影。

それは、かつて失われた“空の文明”が再び息を吹き返した瞬間だった。


リオはブリッジ後方で静かに呟く。

「――これが、人が空を取り戻すということか。」


セラフィナは姿勢を正し、

「航行安定。王都上空を一周し、帰還コースに入ります。」


その声は、戦場の指揮官ではなく、

未来を切り拓く“翼の守護者”のようだった。



帰還 ― 祝福の夕暮れ



夕陽が湾を染める頃、エルミナは静かにオルフェウス工廠へ帰還した。

海面には霊光の軌跡が淡く残り、それがまるで天への階段のように輝いている。


「試験航行、全項目達成。――エルミナ、帰還します。」

セラフィナの報告に、ブリッジ中が拍手に包まれた。


高城博士が息を吐く。

「安定度、一〇〇パーセント。完全成功だ。」

リオが笑う。

「ありがとう、みんな。君たちの手が、空を取り戻したんだ。」


王城の中継室では、シャーロット女王が画面を見つめながら微笑む。

「人が空を歩く日……本当に来たのですね。」

マルティン副首相が頷いた。

「ええ、陛下。王国の歴史に残る日です。」


夕暮れのドックに並ぶ艦の影。

隣では次の二番艦と三番艦の建造が進み、

空の国の時代が静かに形を成していく。



夜の独白 ― 空の彼方へ



その夜。

王都のバルコニーで、リオは静かに空を見上げていた。


ヴェルティアが淡い声で告げる。

「首相。試験中に観測された未知波形――

 古代文明のエネルギーパターンに、わずかに類似があります。」


リオは風に揺れる髪を押さえ、

「……そうか。なら、また探しに行こう。

 今度は――“空の謎”を。」


遠く、夜空を流れる一筋の光。

それはまるで、空そのものが微笑んでいるようだった。


やがて夜風が静まり、

ルミナシティの灯が下から柔らかく瞬く。



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