第21話「新たなる波 ― 新生海上防衛艦隊」
新たなる波 ― 新生海上防衛艦隊
再会の海に、誓いを
ルミナシティ港の朝は、柔らかな霧に包まれていた。
港湾に並ぶ艦の甲板には新しい紋章――
光翼を広げた猫の意匠が描かれ、朝日に銀色に光っている。
数か月前、迷子として漂着した海上自衛隊の艦隊は、
いまや新生エルミニア王国の正式な防衛戦力として生まれ変わろうとしていた。
桟橋には兵士や技術者、市民、そして猫たちが集まり、
リオ首相とシャーロット女王が並んで立っていた。
リオは小さく息を吸い込み、前へ出る。
「この日を、ボクたちは忘れません。
あなた方が海を越えて来てくれたことで、
この国は“守る力”と“繋がる勇気”を手に入れました。
――もう、誰も迷子じゃない。」
港を吹き抜ける風が旗を揺らし、
その音に合わせて猫が小さく鳴いた。
艦長が敬礼を返す。
「この海を、この空を、再び護ります。
それが、我々の新しい使命です。」
拍手が起こり、港の空に白い鳩が舞い上がった。
港の街に、もう一つの故郷を
式典のあと、港沿いの新しい居住区を視察する一行。
かつての避難民たちが暮らすその町には、
どこか懐かしい“日本の港町”の香りがあった。
木製の軒、石畳の通り、
軒先で焼かれる魚の匂いと、笑い声。
子どもたちは猫を追いかけ、
猫は得意げに逃げる。
アラカワが微笑む。
「……すっかり“日本の港町”みたいだな。
言葉も混ざってきてるし、看板まで平仮名だ。」
シャーロットが感心したように見回す。
「文化というのは、まるで花のように自然に広がるものなのですね。」
シャーロットの言葉にリオが答える。
「うん、こうして混ざっていくのが一番いい。
“どっちの国”じゃなくて、“どっちも”になるのが。」
猫が一匹、リオの足元にすり寄ってきた。
リオが抱き上げると、猫はのんびりと喉を鳴らした。
新生エルミニア海上防衛艦隊の発足
午後、再び港に戻ると、
新しい艦隊旗が掲げられていた。
金と青で描かれた紋章――
「新生エルミニア王国海上防衛艦隊(NEF)」。
リオが宣言する。
「この海を守る翼であり、爪であってほしい。
“いずも”を旗艦とする海上防衛艦隊――
新しいエルミニアの守りが、今日から始まります!」
艦長が敬礼し、艦橋の上で返す。
「新たなる波に誓って、必ず守り抜きます。」
港に並ぶ人々が歓声を上げ、
猫たちも一斉に鳴いた。
その声は潮風に乗って、王都の方角へと消えていった。
クラリウム技術との融合
日が暮れる頃、
王立クラリウム工廠の整備ドックでは、
艦の再装備作業が行われていた。
高城博士とレアが、
霊子安定回路の数値をモニタリングしながら確認を進めている。
「対クラリアン兵装の実装、これで四番艦まで完了ですね。」
「ええ、あと残るは調整だけ。
霊子弾と干渉波投射砲――どちらも今の段階では実験兵器ですが、
これで深海クラリアンへの対抗手段が得られました。」
ヴェルティアが投影モードで立体映像を展開し、報告する。
「艦内PDSおよび霊子安定回路、稼働率99.3%。クラリウム支援機能、安定稼働を確認。」
リオは満足げに頷いた。「これでやっと、“守るための力”が整ったね。」
「――あとは、どう使うかだな」とアラカワが静かに言う。
高城博士はそれに頷き、「ええ、技術の価値は使い方で決まる。それを選ぶのは――人です」と穏やかに続けた。
リオは少し笑って、「だからボクがいるんだよ」と言い、軽く胸を叩いた。
蒼穹の来訪者 ― セラフィナ・ファルクレスト-
数日後の午前、ルミナシティ港に再び汽笛が響いた。
見上げれば、南方の水平線に白い艦影がゆっくりと現れる。
陽光を浴びて輝く船体は、まるで空の破片が海上に降り立ったようだった。
「識別信号、確認しました!」
港湾管制士が報告する。
「URS所属、訓練支援艦隊旗艦“アーク・ヴァルキュリア”です!」
リオは港の観測塔で双眼鏡を構え、微かに笑った。
「……来たんだね、セラフィナ姉さん。」
シャーロットが首を傾げる。
「義姉……ですの?」
「うん。ボクがURSで暮らしてた頃、
あの人が戦術指導官で、ずっと面倒を見てくれてたんだ。」
「なるほど……お義姉さまというより“師”でもあるのですね。」
「その通り。しかも怒るとすっごく怖い。」
「まぁ……あなたにも怖い人がいたのですね。」
リオは苦笑いを浮かべた。
ヴェルティアがPDSを展開し、艦の情報を投影する。
「艦種:高機動型巡洋艦“アーク・ヴァルキュリア”。
全長二百二十メートル、URS標準推進機関を搭載。
艦内電子系統および武装システムにはクラリウム支援技術を導入。
指揮官:セラフィナ・ファルクレスト大佐。
――性格:冷静沈着、戦闘指揮効率119%。」
マルティンが小声でぼやく。
「……数値で性格を表すな。」
艦がゆっくりと入港し、甲板に立つ一人の女性の姿が見えた。
白銀の髪が潮風に流れ、深青の軍服が朝の光を反射して輝く。
周囲の空気が、自然と彼女の歩みに合わせて静まっていった。
彼女は桟橋に降り立つと、まずリオをまっすぐに見つめ、
わずかに目を細めた。
「……全く、お前というやつは。
あの時、何の連絡もなく家を出て……どれだけ探したと思っている。」
リオは肩をすくめ、気まずそうに笑った。
「う……ごめんなさい。」
ヴェルティアが淡々と補足する。
「事実確認:首相は当時、冒険者ギルド登録年齢未満でした。」
「そこまで言わなくていいから!?」
セラフィナは小さくため息をつき、
それから微笑を浮かべた。
「まったく……昔から心配ばかりかける。――でも、無事で何よりだ。」
姉の声に、リオは小さく笑って「……ありがと、姉さん」と答えた。
「“大佐”と呼べ。」とすぐさま返され、「はいっ!」とリオが背筋を伸ばす。
そのやり取りを見て、アラカワがくすりと笑った。
「やっぱり血の繋がりがなくても、姉は姉なんだな。」
セラフィナは微笑を浮かべ、「ふふ、どうやら面倒を見てくれているようだな」と言う。
「まぁ、猫に囲まれてりゃ自然と穏やかになりますよ」とアラカワが肩をすくめると、セラフィナはわずかに目を見開き、次の瞬間、堪えきれずに吹き出した。
「……なるほど。この国には“癒やし”という武器があるのね。」
「分析結果:癒やし=外交資源。」とヴェルティアが冷静に補足する。
「ヴェルティア!? なんでも数値化しないでよ!」とリオが慌てて抗議した。
シャーロットが穏やかに微笑みながら、
「まるで空そのものが人の形を取ったような方ですわね。」
と呟くと、セラフィナは軽く頭を下げた。
「あなたが、エルミニアの女王陛下か。聞き及んでいる。」
「ようこそエルミニアへ。あなたの弟君には、いつも助けられていますわ。」
「そうか。それを聞けて安心した。」
港の空気が笑いと共に緩み、潮風が髪をなでていく。
その瞬間――リオはふと気づく。
セラフィナの目に、少しだけ優しい光が宿っていることに。
合同訓練と新たな絆
その後、王立クラリウム工廠にて合同訓練会議が開かれた。
セラフィナと高城博士が並び立ち、艦隊連携に関する新技術について真剣な議論を交わしている。
「今回の目的は、クラリウム技術と旧世界技術の融合。特に通信・電力伝達・対クラリアン戦術の確立です」と博士が説明すると、リオが頷きながら笑う。
「つまり、“この海を守るための共通言語”を作るってことだね。」
「その通りだ。理論と信頼は、どちらも訓練で育つ」とセラフィナが静かに答えた。
レアがPDSを操作しながら口を開く。「通信網の整備はPDS経由で統一可能です。ただ、クラリウム干渉の制御に慣れるまで訓練が必要ですね。」
「了解。実地演習の提案を準備する」とセラフィナが即座に応じる。
そのやり取りを見て、アラカワが苦笑した。「頼もしいな……さすが義姉さん。」
「ふふ、あなたも随分リオに影響されてるようだな」とセラフィナが微笑むと、ヴェルティアがさらりと告げた。
「観測結果:猫的安定効果、伝播率上昇中。」
「もうやめて!?」とリオが慌てて声を上げ、会議室に小さな笑いが広がった。
笑いが再び広がり、
セラフィナはその光景を見つめながら小さく息を吐いた。
「……リオ、お前の作る国は、本当に不思議だ。
誰もが笑っていられる。――いい国だ。」
「ありがと、姉さん。これからもっと面白くなるよ。」
「……期待している。」
夕日が窓から差し込み、
港の艦影を黄金色に染めていた。




