第20話「再会の海 ― 二つの国の対話」
再会の海 ― 二つの国の対話
正式会談 ― 王城の春
王城ルミナシティの謁見の間。
磨かれた大理石の床に春の陽光が反射し、
高窓の外では、花弁が風に舞っていた。
その空間に、二つの旗が並んでいる。
ひとつは、光翼と黄色の日の丸に猫耳を描いたエルミニア王国の旗。
もうひとつは、旭日を象徴する古い日本の旗――海上自衛隊の隊旗。
向かい合う席には、異なる世界の人々が並んでいた。
リオ、シャーロット、マルティン、高城博士、アラカワ。
そして、“いずも”艦長と副長、通信士、通訳官。
張り詰めた空気をやわらげるように、
一匹の猫が王座の下をゆっくりと横切った。
それを見てリオが小さく笑う。
「うちの外交官です。緊張をほどくのが仕事。」
艦長もわずかに笑い、
「……頼もしい仲介役だ。」
会談は、そんな柔らかな空気で始まった。
伝えられる真実
数分後、静かな沈黙が訪れた。
高城博士が立ち上がり、慎重に言葉を選ぶ。
「まず――お伝えしなければならないことがあります。
あなた方がいた“日本”という世界は、次元崩壊の波により……
物理的な形としては、すでに存在していません。」
艦長の眉がわずかに動く。
通訳官が小声で確認を繰り返し、
副長が拳を握りしめた。
「……つまり、我々は……帰る港を失った、ということか。」
リオは小さく頷いた。
「……そう。でも、あなた達がここにいることが奇跡なんだ。
生きて、誰かを守って、たどり着いた。
それだけで、この世界の希望なんだよ。」
シャーロットが静かに言葉を添える。
「エルミニアは、あなた方の安息の地でもあります。
どうか、この国を――あなた方の第二の故郷として。」
艦長は深くうつむき、
長い沈黙のあと、短く「……感謝します」とだけ答えた。
高城博士が静かに補足する。
「次元崩壊は“消滅”ではありません。
世界は変質し、再配置された。
つまり、あなた方の世界の欠片は、この世界のどこかに息づいている。」
艦長の目に、ほんの少しの光が戻った。
「……なら、我々もその一部として、生きていけるかもしれません。」
艦隊の選択 ― 二つの意志
会談後半、話題は今後の進路へと移った。
「我々の艦には、民間人が約三百名乗っています。」
艦長が資料を差し出す。
「修理と補給ののち、航海を続ける案もありますが――」
その時、副長が静かに口を開いた。
「艦内では意見が割れています。
このままエルミニアに移住し、あなた方の国民として生きるべきだという者。
そして、艦と共に新天地を目指すべきだという者。
どちらにも正義があり、誰も声を荒げられない。」
会議室に重い沈黙が落ちた。
マルティンが応じる。
「現時点でのエルミニア近海の航路情報を共有しましょう。
ただし、海中には水棲クラリアンが点在しています。」
リオが立ち上がり、テーブルの上に小さな地図を広げる。
「ここ、ローレン湾以南が比較的安全だよ。
でも、無理に出る必要はないと思う。」
その言葉に、高城博士が頷く。
「移住を選ぶのも勇気、航海を続けるのも信念です。
どちらを選んでも、あなた方の決断を尊重します。」
そこでアラカワが口を開いた。
「このエルミニア王国には、ほかにも日本から転移してきた人たちが多い。
最初の頃は戸惑いもあったが、今では街も整い、電気も水も通ってる。
きっと、すぐにこの国の暮らしにもなじめるはずだ。」
艦長は静かにその言葉を聞き、
「……そうですか。この海の果てに、同じ言葉を話す人々がいるとは。」
と、少しだけ表情を和らげた。
リオが続ける。
「ボクたちは、あなた方の選択を尊重する。
船を降りてもいいし、艦のままでもいい。
どちらを選んでも、支えるよ。」
シャーロットが微笑む。
「この国は、あなた方を歓迎します。」
その言葉に、艦長たちは深く頭を下げた。
未来への提案
高城博士が端末を開き、資料を映し出す。
「艦の修理については、工廠側で協力体制を整えました。
クラリウム素材を用いた応急構造補強が可能です。」
「クラリウム……あの光る鉱石のことですか。」
「ええ、見た目ほど不思議なものじゃないですよ。
ただし扱いは繊細です。艦の“体調”に合わせるようなものです。」
艦長は苦笑する。
「まるで生き物みたいだな。」
リオが肩をすくめる。
「うん、この世界では船も猫もだいたい似たようなものだよ。」
会場に柔らかな笑いが戻る。
その空気のまま、艦長はゆっくりと立ち上がった。
「あなた方が“再会の空”を信じる理由が、少し分かった気がします。」
「うん、ボクたちも同じだよ。
この海で出会えたこと、それ自体がもう“再会”なんだ。」
港にて ― 新しい故郷
会談の後、リオとシャーロットは再び港へ向かった。
修理班が艦の外板を点検し、避難民の子どもたちが港の猫と遊んでいる。
アラカワは桟橋の端で、海を見つめていた。
「……結局、俺たちも流れ着いたんだな。」
高城博士が隣で頷く。
「けれど、流れ着いた先が人の温もりに満ちているなら――悪くない。」
リオは空を見上げ、
「この海も、彼らの故郷になるといいね。」
その瞬間、猫が一匹、艦の甲板に飛び乗った。
白い毛が陽光に溶け、甲板の上で丸くなって眠り始める。
シャーロットが微笑んだ。
「……最初の入植者は、どうやら猫のようですわね。」
リオ:「ならきっと、うまくいくよ。」
春風が吹き抜け、
港の旗と艦のマストが同時に揺れた。
――異なる空の下で、同じ希望が歌い始めていた。




