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第18話「冬の夜、猫と布団と女王陛下」

冬の夜、猫と布団と女王陛下




冬の夜の執務室



冬のルミナシティは霊灯の光がいつもより白く、冷たい。

窓の外では雪がちらつき、遠くの通りからは猫たちの足音がかすかに聞こえる。


王城の執務室では――リオが机に突っ伏していた。


「ヴェルティアぁ……もう無理ぃ……。」


「うるさいですね…」

ヴェルティアは事務的な態度で次々と書類をリオの前に提示してくる。


「あ、あぁ~ッ!」

リオは悲鳴をあげながらも必死に作業をこなしている。


「はい、この予算書については終わり。お疲れさまでした」

「うぅ……あ、ありがとうございました……」


首相としてポジションも板についてきたリオであったが、『放っておくとまた公務をサボりだすのでは』という懸念の声があり、結果ヴェルティアが監視役になったのだが…。

そのAI秘書ぶりは完璧すぎて、休憩という概念が存在しない。

いつもいつも不愛想に公務をサポートしてくるのでリオは頭イタイイタイなのだった。


リオは椅子をくるっと回転させ、

「……ねぇ、ヴェルティア。霊灯を暖色にしてよ。寒い。」

「照明設定、変更完了。心理安定効果プラス二パーセントです。」

「ボクのやる気がマイナス百パーセントなんだけど……。」


室内の暖炉の火が小さく揺れる。

猫の国の首相の冬は、こうして静かに(そして地味に)戦っていた。



ベッドは猫で満員



「ぬわああん疲れたもおおおおおおん」

ようやく仕事を片付け、寝室に戻ったリオは、

ドアを開けて固まった。


ベッドの上――そこには十匹を超える猫が、

丸くなって寝ていた。

ふかふかの毛の海。

そして真ん中には、最も偉そうに寝る黒猫。


「……にゃんということだ。」


リオは猫をひとりずつ抱えて降ろそうとするが、

みんな熟睡していて動かない。

しかも一匹が「うるさいにゃ」と言わんばかりに

彼の腕の中で寝返りを打つ。


「……そう来るか。ボクの負けだ。」


結局、リオは床に丸まり、

毛布を引きずってうずくまった。


「寒い……でも負けられない……。」


ヴェルティアの声が響く。

「室温を上げますか?」

「違う、そうじゃない……ぬくもりが欲しいの……。」



女王の部屋へ



数分後。

リオは枕を抱えて、廊下をとことこ歩いていた。

足跡がふかふかの絨毯に残る。


「……シャル、起きてるかな。」


女王の部屋の前でノックをすると、

寝巻姿のシャーロットが現れた。

半分寝ぼけた目でリオを見る。


「リオ? どうしたの、こんな時間に……」

「猫にベッド取られた。」


一瞬の沈黙。

そして女王はくすっと笑い出す。

「まぁ……王国の猫たちは、相変わらず我が物顔ですわね。」


リオは少し頬を掻きながら言った。

「一晩だけ、ここで寝てもいい?」

シャーロットは微笑んで頷く。

「もちろん。風邪をひいたら困りますから。」



女王の温もり



寝室は静かで、暖炉の火が赤く揺れている。

リオは布団に潜り込むが、手が冷たい。


シャーロットがそれを見て、

やさしく彼の手を包んだ。


「もう……こんなに冷たくして。

 国の首相が風邪をひいたら大変ですわよ。」


リオは少し照れながら笑う。

「だって猫たち、全員強敵なんだもん……。」

「ふふ、負けてあげたのね。」


リオは小さくあくびをして、

「……ありがと、シャル。」


そのまま、彼はすぐに寝息を立て始めた。

リオの喉がごろごろと鳴り響く。


暖炉の明かりが二人を照らす中、

ヴェルティアの通信が小声で入る。


「首相、睡眠効率が二十パーセント上昇しました。」

「……空気を読みなさい、ヴェルティア。」



朝の騒動



翌朝。

侍女が朝の茶を運びに来て、カーテンを開ける。


「陛下、おはようございます――」


その言葉が途中で止まった。

ベッドの上、女王にしがみついたまま、

リオが猫みたいに丸まって眠っている。


さらにその上に、本物の猫が二匹乗っていた。


侍女は一瞬固まって……微笑んだ。

「……お幸せそうで何よりです。」


シャーロットは顔を真っ赤にして、

「ち、違いますっ!これはその……!」


「んにゃ……ぬくい……」

リオは寝ぼけて寝言を言っている。


「はい、失礼いたします(にこっ)」


扉が閉まる。

シャーロットは小さくため息をつき、

リオの頭をそっと撫でた。


「まったく……あなたって、本当に憎めない子ね。」


窓の外では、霊灯の光を追いかけるように猫たちが走っていく。

王都の冬は、今日もあたたかい。


さて、この日を境にリオは寒くなると度々シャーロットのベッドに潜り込んではすやすやと寝息をたてるようになったのだった。



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