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第14話「白猫の家 ― 小さな家族」

白猫の家 ― 小さな家族




王城暮らしが始まってからというもの、アラカワはいつもどこか落ち着かなかった。

煌びやかな廊下、行儀作法に厳しい侍女たち、そして食堂で供される豪奢な料理。

どれも悪くはない――だが、彼の肌には合わなかった。

硝煙と、炎のにおいが染みついてむせるようなところこそ落ち着く。

そんな彼のために、王国は一軒の家を建てることにしたのだった。



新築と白い猫



数か月の建設期間を経て、ついにその日がやってきた。

アラカワの新しい住居が完成したのだ。

視察という名目で、リオが先にアラカワを誘い出した。

なぜかその後ろには、シャーロット女王までついてきていた。

「首相が行くなら、女王も見届けなくてはね」と言って、いつもの笑みを浮かべている。


家の前に立ったアラカワは、思わず小さく息を漏らした。

真新しい木材の香り。

窓辺には白いカーテンが揺れ、庭には整えられた花壇。

生活に必要な家具も一通り揃っており、すぐにでも暮らせるようになっていた。

「なかなかいいじゃないか」と呟きながらリビングへ足を踏み入れると、

そこには――先客がいた。


白い毛並みを持つ一匹の猫が、ソファの上にちょこんと座っていた。

アラカワたちが入ってきた瞬間、猫はのそりと立ち上がり、

ためらうことなくアラカワの足元へ駆け寄ると、その脚に身体をすり寄せた。


「なんだこいつ……」

アラカワが困惑して足をどけようとするも、猫は離れない。

その様子にリオが笑いながら言った。

「かわいい同居猫じゃないか。」

シャーロットも目を細めて頷いた。

「王都では珍しいですね。白猫は縁起が良いのですよ。」


三人は猫を囲み、どうするか話し合いを始めた。

リオとシャーロットは、このまま飼うべきだという意見だ。

「ここまで懐いているんだから、追い出す方が酷だよ」とリオが言い、

女王も「きっと運命の導きでしょう」と微笑む。

当のアラカワは腕を組み、うーんと唸っていた。


その時、白猫がゆっくりと彼の膝に飛び乗り、

丸くなって喉を鳴らし始めた。

小さな振動が膝を通じて伝わってくる。

リオは堪えきれず笑い出した。

「ほら見ろ、もう飼い主だよ。」


アラカワがどう反論しようか考えていると、

シャーロットがふと懐かしそうな口調で語り出した。



王国の建国秘話



「そういえば、グランツ宰相からこんな話を聞いたことがあります。

 次元崩壊の直後、このエルミニア島には

 転移してきたエルミニア人と、かつての日本人が別々に暮らしていたそうです。

 言葉も文化も違う二つの集落を結んだのが―― 一匹の白猫でした。」


女王の声が柔らかく響く。

猫は二つの集落を行き来し、互いの心を少しずつ近づけていった。

その白猫を追って、両者の代表が出会い、

言葉が通じぬままに同じ言葉を口にしたという。

――ここに、我らの国を造ろう。


そうして生まれたのが、新生エルミニア王国だった。

以来、この国では猫が「和合と平穏の象徴」とされ、

白猫に懐かれることは“幸福の兆し”とされている。


シャーロットは微笑み、

「白猫に選ばれるなんて、とても縁起が良いことですよ」と言った。


アラカワはまだ迷っていたが、

猫が再び彼の膝の上で寝息を立て始めたのを見て、

観念したように頭を掻いた。

「……仕方ない。けど俺は、出張や任務でしばらく家を空けることもあるんだ。

 その時はどうする?」


リオはあっけらかんと笑って言った。

「そのときは、近所の人に世話を頼めばいいよ。

 この国の人たちは猫が大好きだから、争奪戦になるかもね。」


結局、アラカワは折れた。

白猫は正式に“居候”として迎えられた。


家の窓辺で、猫が丸くなりながら陽光を浴びていた。

その姿を見て、リオは小さく呟いた。

「アラカワ、ついに家族ができたね。」


彼は黙って笑い、猫の頭を撫でた。

柔らかな毛並みの感触が指先に残る。


――こうして、アラカワに小さな家族ができた。

それは、戦乱の世界に訪れた、ささやかな光だった

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