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第10話「レア研究室 ― 混沌の黎明」

レア研究室 ― 混沌の黎明




王立クラリウム工廠――

エルミニア王国が誇る、最新鋭の研究と実験のための巨大施設。


だがその研究棟の一室だけは、

最新鋭とはまるで無縁の様子をしていた。


机の上は本、工具、飲みかけの紅茶、謎の水槽、さらにはお菓子袋で埋まり、

精密機器の上にはなぜかクッションが乗せられ、

壁際には「後で片付けること!」と書かれたメモが大量に貼られていた。


その混沌の中心で――

一人の女性が、鼻歌まじりに何かを加熱していた。


「♪〜 もうちょっと……あと2度……あら? 下がったわね」


その瞬間、加熱台の上の液体が、

ぴちっ と音を立てて跳ねた。


「キャッ!?」「ぎゃあ!?」「あっつ!?」「避けて!」

近くで見守っていた若手技師3名――

ソフィア、カエルン、ブランもまとめて飛び上がった。


「レ、レアさん! その液体、生きてませんよね!?」

「これ……勝手に色が変わってるんですけど!?」

「ちょ、また跳ねた!? これ危なくない!?」


レアは素知らぬ顔で言った。


「平気よ〜。これは“前駆クラリウム試料その3”。

 ちゃんと封じた状態で、ちょっと機嫌が悪いだけ」


「機嫌!?!?」


若手3名は揃って叫んだ。



研究室のカオスな朝



王立クラリウム工廠の研究棟に、

若手技師たちは「レアさんが面白いものを見せるって!」と呼ばれた。


だが実際の研究室は、最新施設の中にぽつんと存在する“魔窟”だった。


ソフィアは涙目になって叫ぶ。

「レアさん……!

 ここ、最新型のクリアウォール(強化ガラス)が貼ってあるんですよ!?

 せめて片付けてください!!」


「いやよ。片付けるとどこに何があるか分からなくなるもの」


(めちゃくちゃ研究者気質……)

若手全員が心の中で同時に思った。


壁際の機材が突然 ピピッ、ピピッ と警報を鳴らした。


ブランが驚いて周囲を見渡す。

「ちょ、なんですかこれ!?」


「ああ、ただの温度警報よ〜。

 正確には、温度センサーが“謎の値”で混乱してるだけ」


「“謎の値”ってなんですか!!?」


レアは涼しい顔をして、跳ねる液体を掬って観察する。


「ほら見て。前駆クラリウムは刺激に敏感なのよ。

 今日はちょっと……元気ねぇ〜」


「可愛いって言いました!? 今その物質可愛いって言いました!?」



失敗実験ラッシュ



カエルンが磁力試験装置を起動した瞬間――


ガガガガガガッ!!


部屋中の金属類が一斉に吸い寄せられ、

レアの机が盛大に崩れ落ちた。


「ぎゃああああああ!!」

「ほ、本棚! 本棚が飛んできてる!!」

「やめてええええええ!!」


レアが腕組みしながらため息をついた。

「あら〜……磁力装置、また壊れた?

 この前は逆に全部押し出してたのに」


「“また”? またですか!? またって言いました!?」


そのとき――

ブランが落とした紙に、前駆クラリウムがぴとっと寄ってくる。


「ひええええ!?!? なんで寄ってくるんだよこれ!!」

「気分屋なのよ。今日は紙が好きみたいね」


「気分で危険度が変わる物質やめてぇぇぇ!!」

若手三人は思わず叫んだ。


幻影発生



前駆試料が急に光りだし――

壁際にぼんやりした人影が浮かんだ。


「ひえっ!?!? おばけぇぇ!?」

「う、動いた……動きましたよね今!?!?」

「レアさん!? これ前駆試料が精神に反応してるんじゃ!?」


「あら〜、幻影ね。

 実害はないから大丈夫よ?」


直後に天井から工具箱が落ちてきた。


「大丈夫じゃないです!!!」

「完全に危険物ですよこれ!!」



マルティン視察



ガチャッ。


「失礼する――どうして廊下まで煙が……」


マルティンが入ってきた瞬間、

謎の光球がぼんっと飛び出していった。


「……。」


「科学の進歩よ」

レアがあっけらかんと答える。


「……進んでいるようには見えないが」

マルティンは訝しそうに研究室を見渡した。


(進んでません!!)

若手三人組は心の中で叫んだ。


しかし、マルティンは深くため息をつきながら言った。


「……だが、この“混沌”が研究の始まりであることも知っている。

 危険だけは最小限に抑えるように頼む」


「もちろん」


(絶対わかってない……)

若手全員が同時に心で泣いた。



リオ登場



工廠の警報が軽く鳴り続けていたため、

廊下で聞きつけたリオが様子を見に来てしまった。


「みんな、どうしたの……?」


リオが入った瞬間――

前駆クラリウムがぶわっと光を放つ。


「あっ……!」


「リオ様! 近づいちゃダメです!!」


だが遅かった。


前駆クラリウムがリオの“霊圧”に反応し、

光の粒子が舞い上がって――


リオがふわっと空中に浮いた。

「ひゃああああ!?!?!?」


「うわああああああ!!」

「リオ様が浮いてる……!!?」


「なるほど……やっぱり反応するのねぇ」

レアは状況を冷静に観察していた。


(やっぱり!?!?)

若手全員が総ツッコミした。



初めての“成功”



レアが手早く装置を操作し、

光の粒子はゆっくりと沈静化した。


リオはそっと床に降りる。


「はぁ……びっくりした……生きてる……?」


ソフィアがリオに駆け寄る。

「あの……本当に大丈夫ですか!?」


「う、うん……でもちょっと楽しかったかも!」

リオは少し楽しそうだった。


(首相……メンタル強すぎ……)


騒動が収まった後――

実験台の上には、ひとかけらの光の粒が静かに残っていた。


レアはそれを見て、初めて真剣な声を出した。


「……見て。これが“安定した前駆反応”。

 今日の混沌の中で、ようやくひとつ……“光”が生まれた」


若手技師たちは、息を呑んだ。


たしかにその光は、

後に“クラリウム反応”と呼ばれる現象の

最も初期の形に見えた。


「混沌の中で生まれるのよ、新しい技術は」

レアは自慢げだ。


リオは目を輝かせて言った。

「すごい……!

 こんな危なそうなのに……ボク、もっと知りたくなってきた!」


レアはにっこり笑って言った。

「さ、次の実験に行きましょう」


「やめてぇぇぇぇぇ!!!」

若手三人組の苦悩は続く。


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