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第9話「霊晶の森 ― 光を喰らう影」

霊晶の森 ― 光を喰らう影




王城会議 ― 次なる資源を求めて



王立クラリウム工廠の会議室。

円卓の上には分厚い資料の束と、金属片の試料が並べられていた。

エルミニア調査団から送られてきた報告――炭田の開発状況、

石炭輸出の統計、クラリウムの基礎研究記録が積まれている。


高城博士が資料をめくりながら言った。

「炭田の採掘は順調です。輸出も軌道に乗り、URSとの貿易黒字は安定。

 王国財政はようやく息を吹き返しましたね。」


リオは頷き、資料を手に取る。

「でも、他の資源が見つかってない。

 クラリウムも炭田からわずかに採れるだけで、実験分しか確保できない。」


女王シャーロットは静かに書類を閉じ、

「このままでは“火の国”のままで終わってしまいますね。」と呟いた。


グランツ宰相が別の地図を広げる。

「この大河沿いの地域にダムを建設できれば、水力発電所の設置が可能です。」


「なるほど、水の力か。」アラカワが腕を組む。

「だが建材が足りないな。……転移物を使えないか?」


リオが頷き、ヴェルティアに問う。


「転移物の金属利用、可能?」

「理論上は可能ですが、現状では困難です。」ヴェルティアが即答する。

「転移の際、物質を構成する原子や電子の一部が**霊子クラリオン**に置き換わっています。

 その結果、金属結合が不安定化し材料強度が著しく劣化しています。」


アラカワが首を傾げる。

「つまり、どういうことだ?」

「はあ、一言で言うと霊気によって錆びているようなものです。」

ヴェルティアが説明すると、リオが茶々を入れてくる。

「最初からそう言えばいいのに、ヴェルティアはいつも難しく言う。自分の知識を自慢したいの?」

「うるさいですね!」


「つまり、錆びてるんじゃなく、“霊子化”してるわけか。」高城博士が頷く。

「還元には、クラリウムの霊波を逆位相で打ち消す専用炉が必要だな。」


リオは資料を閉じ、腕を組んだ。

「火を得た国が次に求めるのは“光”。

 だけど、今のままじゃ燃料も素材も足りない。」


その時、扉が勢いよく開いた。

警備士官が駆け込んでくる。

「報告します! 北部方面、“おばけの森”付近に大型クラリアンが出現しました!」


会議室に緊張が走る。

「大型? どのくらいの規模だ。」アラカワが問う。

「推定体長十メートル以上。周囲の樹木が結晶化しています!」


「霊圧波観測データを取得。」ヴェルティアがすぐに反応。

「通常個体の十五倍の霊圧。活動域は南東一帯――

 クラリウム濃度の高い区域に集中しています。」


「……つまり、森そのものがクラリウムに侵されている。」リオが立ち上がる。

「放置すれば、王都にも影響が出るかもしれません。」シャーロットが低く言った。


リオは決意を込めた目で言う。

「原因を確かめよう。ボクとアラカワで現地に行く。

 もし天然鉱床が関係しているなら、必ず見つけ出す。」


アラカワは笑って立ち上がる。

「了解。久々に腕が鳴るぜ。」


「PDSによる地形マッピングを用意します。」ヴェルティア。


シャーロットは小さく息をついた。

「どうかお気をつけて。……そして、光の行方を見つけてきてください。」



霊晶獣 ― 森の脈動



南東部、おばけの森。

空は常に淡い青の霧に覆われ、木々の根には光る結晶が絡みついていた。

足を踏みしめるたびに、地面が“硬質な響き”を返す。


「まるで森が金属に変わったみたいだね。」リオがつぶやく。

「……悪い冗談だ。」アラカワが霊撃剣ツインヴァインを握り直す。


「前方、霊圧反応。地中に大型反応体。」ヴェルティア。

「来るぞ……!」


地面が裂け、青白い閃光がほとばしる。

結晶の破片を撒き散らしながら、四つ足の獣が姿を現した。

全身にクラリウムの脈が走り、呼吸のたびに光が脈動する。


「陸棲型クラリアン……でかいな。」

「こいつが森を壊してる元凶か。」


獣の咆哮が空気を震わせる。


「高霊圧波、上昇。回避推奨角度――左十七度。」ヴェルティア。

「了解!」リオが跳ぶ。


ヴェルティアの霊盾(霊波の壁を展開し防御する機能。PESとも略される)が展開され、光の壁が衝突を防いだ。

地面が砕け、粉塵と光の粒子が舞う。


「アラカワ、右から!」

「任せろ!」


ツインヴァインが霊光を帯び、双刃が走る。

一閃――獣の肩を断ち切る。

だが、裂かれた傷口から再生するように結晶が盛り上がる。


「再生反応確認。クラリウムを吸収しています!」ヴェルティア。

「まるで、光を食ってるみたいだな。」リオが舌打ちした。


アラカワが霊撃を溜め、地を蹴る。

「なら、食いきれないほどぶつけてやる!」


霊圧の奔流が双刃から炸裂。

青い線が獣の胸を貫き、光の核が爆ぜた。

巨大な体がうねり、ゆっくりと沈んでいく。


「反応停止。撃破を確認。」ヴェルティア。


リオは息を吐き、周囲を見回した。

戦いの跡――砕けた結晶の下から、

淡く虹色に輝く光が、地中から滲み出している。



天然クラリウム鉱床



裂け目の下に広がっていたのは、光の川のような鉱脈だった。

虹色の輝きが洞窟の壁を照らし、霊的な震動が空気を満たしている。


「クラリウム濃度、99.8パーセント。

 不純物極少。……これは、天然鉱床です。」ヴェルティア。


アラカワが呟く。

「森が結晶化したのも、この地下が原因か。」

リオは光を見つめ、息を呑んだ。

「森が死んだんじゃない……光に“還った”んだ。」


「リオ様、この鉱床は王国の霊力供給源になり得ます。」

「分かってる。……ここが、次の時代の始まりになる。」



新たなる光 ― エーテルジェネレータ



王立クラリウム工廠・実験棟。

採掘された鉱石が精製され、中央の装置――試作型クラリウム活性炉に設置されていた。

リオ、高城博士、アラカワ、URS技師団、そしてヴェルティアが立ち会う。


「クラリウムを活性化させて安定的に霊力に変換する。

 ――これが“エーテルジェネレータ(霊核炉)”だ。」リオが宣言する。


「霊圧入力値、安定。クラリウム共鳴開始。」ヴェルティア。


装置の中心が青く輝き、ふわりと霊流が浮かび上がる。

空間がわずかに歪み、風が“生まれた”。

それは火でも電気でもない、新たな力――人工霊流の誕生だった。


「成功だ……!」リオの声が震える。


「出力安定。変換率27%。霊流供給持続。」ヴェルティア。

「ボクたちは、光を形にしたんだ。」


アラカワが笑う。

「まったく、お前は次から次へと世界を変えるな。」

リオは苦笑しながら、光の波を見上げた。

「火の国から、光の国へ――それがボクたちの次の一歩だ。」


この日、エルミニア王国は“霊晶の国”へと変貌した。

森に眠っていた光は人の手で目覚め、

世界に新たな文明の鼓動をもたらした。

そして――それは、さらなる“進化”と“混沌”の序章でもあった。




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