いつも心臓が早鐘を打った。寝るのが怖かった
私の家は古い木造の平屋だった。細長い長屋の一角にあり、隣り合う家同士はそれぞれ少しずつ離れて連なっていた。道はどれも狭く、迷路のように入り組んでいる。どぶ川の上に細い板橋が架かり、それを抜けるとすぐ行き止まりだ。目の前には線路が通り、駅の汽車の汽笛が遠くから聞こえた。そんな場所に、火事が起これば消防車も入れないような細い路地の奥に、私の家はひっそりと佇んでいた。 家は前後に入口があり、縦に長い造りだった。台所から家の中央にある小さな池まで通じていた。その先には、洗濯物を干す日よけの付いた木製の階段があった。子供の頃、私はその階段の上がり口付近に座り込むのが好きだった。広げた新聞紙の上に座り、屋根の上にお菓子や大好きな漫画を置いて、誰にも邪魔されない時間をひとり楽しんでいたのだ。 坪庭に沿った敷石を上がると、縁側沿いに障子が続き、その奥には二段ベッドがあった。夜中に目を覚ますと、白い影が飛び跳ねているように見えたり、金縛りにあったりすることがしばしばあった。薄暗い部屋の中で、いつも心臓が早鐘を打った。寝るのが怖かった。 私はベッドの上で必死に手を合わせ、家族の名前をひとりひとり唱えながら「皆を守ってください」と何度も祈った。小さな手が震え、涙が頬を伝って、気づくと左耳まで溜まっているのを感じたこともあった。体が震え、朝が来るまで布団の中で縮こまるしかなかった。 そんな幼い日の不安と恐怖は、いまでも忘れられない。