双子(後編)
◇
僕たちの両親は、いつも2人の世界だった。
僕たちが親のどちらかに構ってもらおうとすると、片方が分かりやすく嫉妬する。
子供の目につくところでまぐわいはするわ、食べさせ合いはするわ、子供ながらに気持ち悪い両親だった。
「邪魔だな、この2人」
父親がそう言ったのは、僕らが6つの時。
“男”と“女”が捨てれない両親にとって、僕らはすごく邪魔だと感じたんだろう。
でも僕たちはそれでも良かった。
僕たちは2人で一つ。親に売られても、片方が一緒にいるなら別に良かった。
両親が“悪い人たち”に僕たちを売ろうと連れて行かれたとき、楓さんに会った。
楓さんも足元には、“悪い人たち”の骸があって、楓さんの顔と刀には血が付いてた。
両親は僕たちを置いて逃げた。
「…売られる予定だった子か?親に見捨てられるなんて可哀想に」
楓さんは、ほんとにそう思ってるのか分からない声でそう言った。
僕たちはそんな楓さんの虜になった。というか、すごく尊敬した。
なんでかは分からない。でも親があんな風だったから、僕たちも捻くれてたんだろう。
楓さんは懐から紙を取り出し、僕たちに渡した。
「この近くにある寺の簡易地図だ。そこで匿ってもらえ」
「…その剣で、僕たちのことをころさないの?」
「無意味な殺しはしない主義でね」
楓さんは刀を仕舞って去ろうとした。僕たちは着いて行った。10歩ほど進んだところで楓さんが立ち止まった。
「…地図の見方が分からないのか?」
「「あんたに着いていく!」」
「…は?」
僕たちはしつこく付き纏った。楓さんも小さな子供相手に手は出さなかったから、調子に乗ってまだ付き纏った。
やがて楓さんが根負けした。
少しの間だったけど、楓さんは色んなことを教えてくれた。
世渡り術、身の守り方、自分の世話の仕方…。
そんな楓さんのことをもっと好きになって、僕たちは楓さんに色々仕掛けた。
落とし穴の中に尖った竹を仕込んだり、鍋の中に鼠の死骸を入れたり。
でも楓さんは全部、前から知ってたかのように対処した。
「なんで分かるの!?」
「絶対ばれないと思ったのに!」
いつだったか、2人でそう抗議した。
楓さんは言った。
「落とし穴は痕跡が分かるし、鼠は殺した場所を見かけたらすぐ分かる」
「「こんせき?」」
「証拠を残すなということだ。やるなら徹底的にやれ」
◇
「で、そこから色んな“証拠隠滅”の仕方を学んだってわけ」
「…それは、なんというか、教育の仕方を間違えているというか…」
「間違えてないよ?楓さんは僕たちの適性を見抜いてたんだろうね」
おしるこを口に運びながら烏が言う。
店を出入りする女子はみな、この双子の容姿に見惚れていた。
「結局楓さんの驚いた顔は見れなかったけどね」
「なんなら泣いた顔も見たかった」
ほんとに悔しそうに言う双子の顔を見て、(あの人のそんな顔を見れる時なんて来るのかな…)と結は思った。
◇
「「ただいまー!」」
「戻りました」
結たちは風呂敷片手に、楓のいる宿に戻ってきた。
「おかえり。随分買い込んだね?」
「ほとんどこの2人のものですよ」
「楓さん用のも買ったよ?竹とんぼとか」
「これで遊ぼうよ!」
「遠慮する」
笑顔で拒否する楓。結は自分用に買って来た団子を広げる。
「じゃ、僕たちは行こっか!」
「そーだねー」
「ここの宿で泊まっていかないの?」
荷物を仕舞い出した双子に結は問うた。
双子は当たり前かのように返す。
「「だってここの宿、房事だめでしょ?」」
結は固まる。
じゃあね〜!と双子は出て行った。
「…あの、師匠。あの2人は…」
「親の影響で性に関する価値観がズレたんだろうな。ここでされるよりマシだろう」
楓は何食わぬ顔で団子を食べ出す。
「…師匠、それ私の団子です」
結は考えることをやめた。




