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室町異聞  作者: 辻桃
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双子(後編)


僕たちの両親は、いつも2人の世界だった。


僕たちが親のどちらかに構ってもらおうとすると、片方が分かりやすく嫉妬する。

子供の目につくところでまぐわいはするわ、食べさせ合いはするわ、子供ながらに気持ち悪い両親だった。


「邪魔だな、この2人」


父親がそう言ったのは、僕らが6つの時。

“男”と“女”が捨てれない両親にとって、僕らはすごく邪魔だと感じたんだろう。


でも僕たちはそれでも良かった。

僕たちは2人で一つ。親に売られても、片方が一緒にいるなら別に良かった。



両親が“悪い人たち”に僕たちを売ろうと連れて行かれたとき、楓さんに会った。

楓さんも足元には、“悪い人たち”の骸があって、楓さんの顔と刀には血が付いてた。


両親は僕たちを置いて逃げた。


「…売られる予定だった子か?親に見捨てられるなんて可哀想に」


楓さんは、ほんとにそう思ってるのか分からない声でそう言った。

僕たちはそんな楓さんの虜になった。というか、すごく尊敬した。


なんでかは分からない。でも親があんな風だったから、僕たちも捻くれてたんだろう。


楓さんは懐から紙を取り出し、僕たちに渡した。


「この近くにある寺の簡易地図だ。そこで匿ってもらえ」


「…その剣で、僕たちのことをころさないの?」


「無意味な殺しはしない主義でね」


楓さんは刀を仕舞って去ろうとした。僕たちは着いて行った。10歩ほど進んだところで楓さんが立ち止まった。


「…地図の見方が分からないのか?」


「「あんたに着いていく!」」


「…は?」


僕たちはしつこく付き纏った。楓さんも小さな子供相手に手は出さなかったから、調子に乗ってまだ付き纏った。


やがて楓さんが根負けした。


少しの間だったけど、楓さんは色んなことを教えてくれた。

世渡り術、身の守り方、自分の世話の仕方…。


そんな楓さんのことをもっと好きになって、僕たちは楓さんに色々仕掛けた。

落とし穴の中に尖った竹を仕込んだり、鍋の中に鼠の死骸を入れたり。


でも楓さんは全部、前から知ってたかのように対処した。


「なんで分かるの!?」

「絶対ばれないと思ったのに!」


いつだったか、2人でそう抗議した。

楓さんは言った。


「落とし穴は痕跡が分かるし、鼠は殺した場所を見かけたらすぐ分かる」


「「こんせき?」」


「証拠を残すなということだ。やるなら徹底的にやれ」





「で、そこから色んな“証拠隠滅”の仕方を学んだってわけ」


「…それは、なんというか、教育の仕方を間違えているというか…」


「間違えてないよ?楓さんは僕たちの適性を見抜いてたんだろうね」


おしるこを口に運びながら烏が言う。

店を出入りする女子はみな、この双子の容姿に見惚れていた。


「結局楓さんの驚いた顔は見れなかったけどね」


「なんなら泣いた顔も見たかった」


ほんとに悔しそうに言う双子の顔を見て、(あの人のそんな顔を見れる時なんて来るのかな…)と結は思った。



「「ただいまー!」」


「戻りました」


結たちは風呂敷片手に、楓のいる宿に戻ってきた。


「おかえり。随分買い込んだね?」


「ほとんどこの2人のものですよ」


「楓さん用のも買ったよ?竹とんぼとか」


「これで遊ぼうよ!」


「遠慮する」


笑顔で拒否する楓。結は自分用に買って来た団子を広げる。


「じゃ、僕たちは行こっか!」


「そーだねー」


「ここの宿で泊まっていかないの?」


荷物を仕舞い出した双子に結は問うた。

双子は当たり前かのように返す。


「「だってここの宿、房事だめでしょ?」」


結は固まる。

じゃあね〜!と双子は出て行った。


「…あの、師匠。あの2人は…」


「親の影響で性に関する価値観がズレたんだろうな。ここでされるよりマシだろう」


楓は何食わぬ顔で団子を食べ出す。


「…師匠、それ私の団子です」


結は考えることをやめた。


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