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クローン

「とりあえず画像検索かけたけどやっぱり戸籍は無いね」


 私の情報を調べていたらしいが、当然と言えば当然。

 あのスラムは入ることはできても、基本的にそこに根を張ることになった人間が出る事は無い。

 一等地区や二等地区に住んでいる連中は女漁りに来たり、情報屋や盗品売買の店、あとは非合法カジノや違法な品々の商売に来ることはあった。

 けど私達住民は出ない、出られない。


 三等地区と二等地区の間には関所のようなものが作られているので、身分証が無ければそこを通れないようになっているからだ。

 もちろんギャングとかの上とコネがある連中なら身分証よういできるけど、通ろうとしたら表向きは指名手配されているから出た瞬間に捕まる。

 たまに逃げ延びて、と言う事もあるけど腐った環境だから監獄コロニーに送られることなく、逮捕されたという結果も無くそのまま追っている側に引き渡される。


「よし、戸籍の作成は完了だ。性はメルク、君の注文通り僕の先祖が住んでいた国の言葉で鼠だよ」


「はははっ、俺の性よりかっこいいじゃないか」


「君のは名誉みたいなものも含まれているから仕方ないだろう」


 隊長の苗字か……そういや聞いたことなかったな。

 まぁここで詮索しなくてもそのうちわかるだろ。

 どのみち名誉がどうのって言っているから無恥な私じゃ理解できないだろうし。


「名前はそうだなぁ……サンドリヨン、曾祖母の系譜で灰被りを意味する言葉だ」


「長い」


「愛称はリヨンでいいかな?」


「任せる」


「じゃあお兄さんの方はジェームスでいいか」


 私が妹と言う事になっているのは少し不満だけど、そもそも存在しない人物の記録だからどうでもいい。

 というか私みたいに存在していない事になっている奴もいれば、こういう風にでっち上げられて存在しないのに戸籍はあるっていう奴もいるのか。


「あとで君の毛髪や爪を送ってくれ。そうすればクローンを作って治療中と誤魔化せるからね」


「クローン?」


「端的に言うならもう一人君を作るってことだ。まぁ作る過程でわざと問題を起こして動けないし意思も無いように作るから邪魔にはならないだろう」


 気持ちのいい話ではないけど、安全性と引き換えならそれも必要なんだろう。

 断る理由は無いんだけど……。


「隊長、伯爵のいる惑星に行くのか?」


「ん? あぁ、いやあいつはすぐそばにいるよ。この辺の星系が荒れているから様子見ついでに、コロニーがやばい事になってたら対処するために指揮官としてもうちょい後方にいる」


「対処?」


「惨劇だのなんだのって言われているんだが……控えめな言い方をすると消毒だな」


「なるほど」


 たぶんコロニーの空気を抜くんだな。

 そうして中の人間を全員始末してからもう一度空気を入れて、そしてコロニーの廃棄用ダクトを全開にする。

 外壁はしょっちゅうシールドを抜けたデブリで穴が空くが、その際は自動的に修復されるようになっているから物理的破壊は相応の質量か威力が必要だし再建する時間も資源も勿体ない。

 それでコロニー内を空っぽにして、新しく用立てる。

 昔と違って今じゃ人口なんて数えきれないくらいいるし、人より資源の方が重要な時代だ。

 文字通り膿を輩出して奇麗になったコロニーに奇麗な人材をあてがう、完璧なリサイクルだな。


「ついでに新型機のテストもしていたが、想定以上の数と質をもった宙賊が襲ってきたもんで少尉は撃墜寸前まで追い込まれたと」


「まぁそうだな。古い型とはいえ奴らの使ってたギアフレームは軍用機として正式採用されたこともある機体だ。まともじゃない連中がそんなもんを揃えられるってのは異常だ」


「異常ついでに君は新型機とは名ばかりのチューンもろくにされていないような機体で信頼性の高い旧式軍用機を撃破したわけだ」


 そうなる、のかな?

 私としては感覚に従って動かしただけだったんだが……。


「あまり部下をいじめてくれるなよ伯爵。他になんか決めておいた方がいい事もあるだろ」


「そうだな、まずお嬢さん、リヨンだが階級はパイロットと言う事を加味して軍曹か曹長辺りがいいと思うがどうだろう」


「それに関しては任せるが、パイロット適正次第だな。適正が無ければ二等兵くらいでいいんじゃねえか?」


「だが二等兵を潜入任務に使ったとなると立場が悪い。何かしらの実績をでっち上げてでも少しは階級を持たせておくべきだろう」


「だとすると本来の階級とパイロットとしての階級をわけた方が得策だと思うが」


「だが尉官にするには不明瞭な点が多すぎる。もとよりパイロットは中尉程度の発言権が与えられているが、君の所は例外が多すぎてな」


「それを言われると困る。俺の隊がこんな風になったのは首都星で椅子を尻で磨くのに一生懸命な連中のせいだから文句はそっちに言ってくれ」


「責めているわけじゃない。だがやはりどの階級にするにせよ正確な試験をしなければならないだろう。特に尉官にするならば勉学も重要だ。リヨンはどのくらい学問を……いや、聞くのは失礼か」


 まぁ私の境遇でまともな教育が受けられるわけないからな。

 世間でいうところの算数くらいはできるし、文字は読むことができる。

 ただしそれだけだ。

 書けない、機械への文字の打ち込みもわからない、そもそもキーボードの配列がこんな風にばらけていることも意味が分からない、四則計算はできるけどそれ以外はできない。

 そんなところだ。


「それも追々少尉に教えさせるさ」


「部下に丸投げかい?」


「あいつが拾ってきたようなもんだし、うちで女のパイロットは他にいないからな」


「パイロット適正が無かったら?」


「食堂のババアか、メカニックの軍曹辺りにでも投げるさ。さもなきゃ適当な兵隊としてうまくこき使うだけだ」


「まぁ、法的にもそれが無難なところだろう」


 ……なんか不穏な会話だったな。

 どんなことをさせられるかわからないが、身体を売る覚悟はしておいた方がいいかもしれない。

 まぁこんな身体に需要があるとも思えないし、軍に入るってのはある意味で身体を売ったのと同じか。


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