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さらば故郷!(爆発予定)

 肉! パン! スープにジュース! これは噂に聞いた魚か!

 どれもこれもが今まで食べたことが無いくらい美味い!


「……まるで動物ですね」


 オールバックの眼鏡野郎が何か言っているが気にしない。


「ははっ、そうは言うが昔のお前も似たようなもんだったじゃねえか」


 ドレッドヘアのおっちゃんが笑っている。

 この陰険そうなやつにも子供時代ってのはあったのか。


「それで少尉、どこまで聞き出せた?」


 さっき私を覗き込んでたのはこいつか。

 筋骨隆々って言うんだっけ、裏でもそういうやつはいたけど大体薬でそうなったって感じだったな。

 だけどこいつはそういう不自然な造りじゃない。

 なんというか、ギャングが連れていた奴は岩という感じだったけど、このおっさんはもっと硬い何かだと感じる。


「どこまで、じゃないですよ。まず性別からして話が違いました!」


「……女だったのか?」


「マジで!?」


「あー、検査したつっても染色体までは調べてねえからなぁ。女ものの下着用意しろと言う話聞いて変な趣味に目覚めたかと思ったが……とりあえずその辺から説明してもらおうか」


 私に視線が集中するが、今は食べるので忙しいので無視。

 これを逃したらいつ食べられるかわからない。


「おい、聞いているのか!」


 陰険眼鏡が怒鳴るが知ったこっちゃない。

 怒鳴るだけの奴は怖くないんだ。

 本当に怖い奴は口より先に手が出る。

 そしてそういう奴ほど近づくなという警告が頭の中で響き渡る。

 今は笑っている、あの隊長と言われた男なんかがその典型だ。


「はぁ、とりあえず私が聞いた限りの話をしますね」


 ありがたい、今はご飯だご飯!


「というわけで、彼女の育った環境も境遇も最悪極まる物です。生きるためとはいえ処世術が一般社会から乖離しており、今後情操教育含めて色々な準備が必要と思われます」


「……隊長、僕は反対します。こんな何処の誰かもわからない鼠を連れまわるのはごめんだ」


「だがよぉ、あの新型操縦してたのはこの嬢ちゃんなんだろ?」


「それも気がかりですが、面倒ごとは困ると言っているのです。どうせなら軍の施設に送ってしまえばいい」


「そりゃあちーとよくねえ発言だぞ、クリストフ中尉」


 隊長からの圧が跳ね上がる。

 ……矛先は私じゃないからいいや。


「こいつは俺の部下の恩人だ。戦闘ログからしてもフランソワ少尉の戦い方とは違う。それは目の前で見ていたお前さんならわかるだろ?」


「それは……はい」


「恩があって、腕も立つ。だったら唾つけておくなんて面倒な真似しねえで直に引っ張っちまえばいい。お貴族様共がよくやってんだろ、自分のガキに階級与えて軍になれさせるってやつだ」


「けどあれは特例じゃないですか」


「特例があるんだから抜け道もある。俺達化け猫部隊にはふさわしいやり方だ。それに軍の手垢がついたやつはどうにも気に食わねえ」


 あー、同じ仲間でも別グループの色に染まった奴を引き入れるのは嫌って話か?

 よくあることだな。


「で、流石にこれは答えてもらいてえんだが、お前さん名前はなんだ?」


「……ゴクン、名前は無い。小さいの、スリの、盗みの、奪い屋、盗品屋、鼠、いろいろ呼ばれてきた」


「ってこたぁ何か? マジで聞いた通りの環境で生まれ育ったってことか? どうやって」


「物心つくまではギャングで育てられていた。将来的に売り物にされるはずだったけど逃げ出した。他の連中との抗争で忙しそうにしていたから逃げるのは簡単だったし、下っ端達から盗みの技術を教わった」


 ついでに金銭の価値とか、デバイスの重要性とか、子供の頃の思い出と称した隠れ場所とか。

 水を盗みやすい水管の位置なんかも教わったな。


「名無しか……しかしそこまであのコロニーが腐ってたとはなぁ。こりゃ立て直しは無理だろ」


「とはいえ住んでいるのは無辜の民です。対処するにしても相応の時間が必要かと」


「その時間をかけていたら対処に向かった奴らが喰われちまうぞ」


 大正解だ。

 今までもコロニー運営の関係者が入れ替わることは何度かあった。

 最初はまじめに仕事をしていても、しばらくすればスラムで違法行為を見ても気にしないようになった。

 そのうちギャングから賄賂を貰い、その金で遊びまわる。

 それが実情だ。


「まさか……小娘の証言一つであの惨劇を再現なさるおつもりですか!」


 惨劇? あいにくその手の知識には疎いんだよなぁ。

 住んでたコロニー以外の情報ってなかなか入ってこないし、欲しがるやつも少ないから儲けに繋がらない。


「こいつの証言だけなら確かに弱いだろうなぁ。けどお前は見た、そして機体は記録した、なにより今まさに護送中の奴が繋がってたじゃねえか」


「……僕は反対です」


「わかってる。俺だってこんな事はしたくねえ、させたくもねえ、命令なんか反吐が出る。けど汚れ仕事ってのは誰かがやらなきゃいけねえんだ」


「あそこには3億人が住んでいるとされているんですよ!」


「3億ねぇ……人類史が始まって以来、人間は数多くのモノを喰ってきた。例えばこれは分かりやすいよな」


 ザクリと、魚に……あれはフォークだっけ、を突き刺した。


「こいつらはさっきまで生きている扱いだった。冷凍睡眠で仮死状態だっただけだ。けどうちのコックはこいつを捌いた。じゃあこいつらはいつ死んだ? 捌かれた時か、冷凍睡眠された時か」


「何の話です?」


「まぁ聞けよ。お次はこいつだ」


 パンを手に取った隊長がかぶりつく。

 このパン美味いよな、カビが生えてないのは初めて食った。


「今じゃこんな形だが元は小麦粉、つまり小麦を粉にした物がこうして手を加えられパンになっている。じゃあ小麦って種子はどうなった? 育てられ、刈り取られ、俺等に喰われている。それは将来的に殺したことになるんじゃねえのか?」


「っ……」


「そこのガキはまるで家畜だ。汚ねえ奴らの飯のタネになるために生かされていたようなもんだ。邪魔になれば殺される。そういう世界じゃなかったか?」


「大体あってる」


 実際私達は将来なんてものは考えてなかった。

 今、どうやって生きるかということ以外頭に無かった。

 それを忘れた奴から死んでいく。

 以前どこぞのまぬけから盗んだデータでは「未来への希望を失った奴から死んでいく」なんて書いてあったが、あれは嘘だ。

 目の前の問題を無視したら死ぬ、それが人間という生き物であり、社会というシステムだ。


「銃を突きつけられて明日は何をしようと考える奴はいない」


「なるほど、上手い事を言う。それでお前さんは邪魔者扱いされて殺されかけたところに少尉が落ちてきた……か」


「貸しは帳消しか」


「いんや、むしろ攻め込む理由ができてこちらとしては更に借りが増えた」


 よくわからんが、そういうなら素直に受け取っておこう。


「昔の記録じゃ病気にかかった家畜は殺される。一匹残らずだそうだ。今回は帝国のコロニーという牧場で病気が蔓延していた。違うか?」


「………………ひとは、家畜じゃありません」


「なら奴隷って言い換えてもいいぞ。お前だって病気になったら薬を飲んで体内のウィルスや菌を殺すだろ。俺達人間は知恵を得た代わりに歴史の奴隷になったんだよ」


 ついに陰険眼鏡が黙る。

 そのまま頭を抱えて、目の前にあった瓶から直に何かを飲み始める。


「じゃあ続きを聞こうか。さっき聞いた通り名から察するに盗みが得意だと考えていいのか? ならギアフレームの操縦なんかどこで覚えた、あれは盗めるもんじゃ……いやまぁ、実質少尉の機体を盗んだようなもんだが、シミュレーターですら重機で運ぶような物体だ。どこで覚えた」


「一つ目の答え、盗みで生きてきた」


 もう満腹なので手を拭いてから椅子を降りる。

 そのままドレッドヘアのおっちゃんの後ろを通り、隊長に近づいた。


「こいつぁ驚いた、おいグレッグ。左腕見てみろ」


「左腕? っておれのデバイス!」


「こりゃすげえな。肌身につけていたものを悟らせないように、しかもあの一瞬で盗むか」


「できなければ死んでた」


「なら操縦は? お前さんが持っていた違法デバイスで操縦を学んだのか?」


「そんな時間は無い。起きている間は口にできそうなものを捜して歩き回る。途中で盗んでも問題なさそうな相手がいたら安物を取って逃げる。操縦は夢の中で見た」


「夢?」


「パイロットの夢、沢山の人が死んでいく夢だった」


 そこからは延々と夢の話をした。

 彼らがどんな死に方をしたのかとか、その操縦技術が凄まじい物だったとか、私に託すと言ったとか。


「ふーむ、面白い話だが……一応後でメンタルチェック受けておけ」


「わからないがわかった」


「よし、じゃあとりあえずお前さんの戸籍を作る所からだが……そうだな、せっかくだからあいつに頼むとしようか。今回のコロニーもあいつの統治下にはいるだろうしな」


 ニヤリと笑った隊長はギャング達が妙な事を企んでる時の表情にそっくりだった。

 ……強面な分こっちの方が怖いかもしれない。



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