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鼠の正体を知るは一人の生娘

 また夢を見た。

 沢山の人が死んでいく夢。

 今度はパイロットじゃない、初めての夢だった。

 たくさんの機械を組み立てている……あぁ、ギアフレームか。

 整備士だろうか。


 それが終われば今度は文字列が流れていく。

 最初は意味が分からず戸惑っていたが、気がつけば何が書かれているか理解していた。

 これは言葉だ。

 ただの言葉じゃない、機械に命令するための……プログラミングだ。


 そして彼等もまた死んでいった。

 納得して死んだ人もいるし、無念を抱えて死んだ人もいる。

 けれど、その全員が口をそろえて同じ言葉を発した。


 お前に託すと。


 俺に託す、技術も経験も知識も全て。

 長い長い夢の中で沢山の人生を経験した。

 ある時は小銃を担いだ兵士だった。

 ある時は戦艦の砲撃主だった。

 ある時はメディックだった。


 何百何千、何万何億という人間の人生を見て、そして気付いた。

 この人達は過去現在未来全てに存在するのだと。

 装備も外見も全てがバラバラ、時には甲冑姿の人もいたし、反りのある剣を使っている男性もいた。

 その全てが何かしらの理由で死に、託すと言ってきた。

 貰えるのならばと受け取ったソレは、多分俺が考えている以上に重い物なのだろう。

 だけど貰ったなら俺の物だ、自由に使わせてもらう。

 背負いこむつもりは無いし、以前誰かが言っていた滅びなんてのは知ったことではない。


 どうせ俺も、どこかで死ぬ。


 いつか死ぬ。


 だったら受け取ったこの力であがくのみだ。


「よ、おはよ」


「……んぅ」


「まだおねむか? だがわりいな、ちょいと格好を整えてもらう必要がある。少尉、お前の拾い物みたいなもんだから任せた」


「ハッ!」


 あー、生れてはじめてか?

 こんなにぐっすり眠ったの。

 睡眠ガスの影響もあると思うけど、小さな医療用ポッドの中だったというのもあって落ち着いたのかもしれない。

 いつも寝るときはどこかに隠れていたけど一番落ち着けたのは通期ダクトの中だったからなぁ。

 あそこは適度に過ごしやすくて、人が入ってくる心配も無かったし落ち着けたんだが……気が付いたらギャングの縄張りが近くに迫っていたから逃げたんだったな。

 結局捕まったけど。


「助けてくれたことには礼を言う。だが民間人のギアフレーム操縦、並びに軍機の使用は重大な違法行為だ」


「乗らなければ俺もあんたも死んでた」


「それはそうなんだが……いや、私の言い方が悪かったな。法に背いてまで助けてくれたことに感謝する」


「あのコロニーに法律なんてないから」


 真正面からお礼を言われるというのは初めてでどう答えていいかわからなかった。

 その回答の結果がこんなそっけない物になってしまった事に、なぜか動揺している。


「そうか……とりあえずシャワーと食事を用意した。着替えもあるにはあるんだが……」


「身体が隠せるならタオルでもいい」


「いやよくないだろ……って言えたらどれだけよかったか」


「言ってるが?」


「そういう意味ではなく、なんというべきか……境遇、でいいのか? そんな感性に至るような状況の相手にこんな無粋な事を言うのはどうかと思ってしまってな」


「気にする必要はない。今までもこれからも俺は俺の感性に従って生きるだけ。死ぬまであがいて、理不尽に死ぬ」


 昨日まで元気だった誰かが、翌日には何かしらの形で消えているというのは日常だった。

 宙賊に連れ去られたとか、ギャングに拉致されたとかなら一日の間に何回も起きる事だったし、スラムで生き延びる秘訣は武器をいかに早く調達するかだった。

 撃退できなくても、仲間と認めた相手が助けに来てくれる可能性もある。

 そういう共同体のような生き方をしている奴らもいた。

 俺ははぐれ者だったが、その手の共同体相手に商売をすることもあったから顔見知りのよしみとしてかくまってくれることもあった。

 最終的には追い出されたが。


 隣で寝た奴が死んでいるなんてのは当たり前の光景だった。

 病死にしろ餓死にしろ、なんなら通りすがりの誰かに撃たれて死んだ奴もいた。

 俺じゃなかったことに安堵しながら逃げ出したものだ。


「……飯じゃないのか?」


「そんな恰好で食事をさせるわけにはいかない。ここは船内だから衛生には気を使っているんだ。まぁ一応殺菌はしているが、汚れまでは落とせないからな」


「なるほど」


 蹴られ殴られ地面を転がりまわったせいで服も肌も汚れている。

 コロニーも衛生はそれなりに気を使っていたらしいが、俺達の住んでいた所はそんなのお構いなしだったからな。

 朝起きたら体液まみれの女が白目向いて全裸でぶっ倒れてるなんて日常茶飯事だったし、死体なんかどこにでも転がってた。

 たまに腐った死体が出てきて治安維持局がすっ飛んできたりしたが、誰かを捕まえたという話は聞かなかったからそういう事なんだろう。


「ん、あれ?」


「どうした」


「えーと……ごめん、色々聞きたいことがあったんだけど全部すっ飛んだ」


「そうなのか」


「えぇ、名前とか年齢とか聞いてなかったけど、それより……あなた女の子だったの!?」


 ……そういや言ってなかったな。

 名前なんてない事も含めて。

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