表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幼女は戦争の夢を力に変えた  作者: 蒼井茜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/8

夢見る鼠の求めたモノ

 ……いつもの夢だ。

 夢の中で俺は様々な機器に囲まれたコックピットの中で画面越しに敵を見る。

 レーダーは遠すぎてあてにならず、かといって近づけば敵にも捕捉される。

 だから照準は常にマニュアルにしてアシストを切っていた。


「少佐! 今日の任務が終わればはれて休暇ですね!」


「そう願いたいがな、以前も休暇だって言って帰国したらすぐに戦場に送られたよ!」


「やめてくださいよ、少佐の過去体験全部ヤバいのばっかりなんですから」


「やばいも何も! 宇宙に出てから銃を握ってなかった日はねえよっと!」


 敵を撃墜しながら軽口をたたいている。

 あぁ、知っている。

 この少佐と呼ばれた男はこの後死ぬ。

 軽口をたたいている部下、いや相棒と親しんだ男をかばって死んだ。

 場面が変わる。


「中尉! 退避しろ! もう貴様の機体はまともに動けん!」


「……大佐、最初で最後の命令違反をお許しください」


「なにをする気だ中尉! まさか、やめろ!」


 今度はすらりとした手の持ち主。

 場所は相変わらずコックピットだが、腹部からあふれる血液が止まらない。

 それを追体験するように、痛みも体が冷えていく感覚も、全てそのまま受け止める。

 この人ももうすぐ死ぬ。

 敵の本拠地に突撃して自爆する。

 また、場面が変わる。


「軍曹! やめてくれ! そんな機体で出撃なんて無茶だ!」


「すまないなおやっさん、ここで逃げたら……嫁さんも娘も死んじまうんだ。それにこいつもまだいけると言っている。だったら進むしかないだろ?」


 先程の男とは違う手だが、腕も頭も失った機体に乗り込みシステムを立ち上げる。

 ほとんどの計器がエラーを起こしているソレは、しかしパイロットを戦場に駆り立てるようにジェネレーターが唸る。


「わかってるよ相棒、最後の大仕事だ。どうせなら派手にやろうぜ!」


 彼は死ぬ、愛する家族と仲間、そして故郷を守るためにたった一人で1000を超える軍勢をなぎ倒して力尽きる。

 あぁ、この夢をこんなに長く見たのは初めてだ。

 いつもなら暢気に寝ていたら誰かに襲われていただろう。

 けど、なんで今日はこんなに心地いいのだろう。

 そんな事を思いながらも夢を見続ける。


 男が死んだ、女が死んだ、誰も彼もが死んだ。

 そして誰もいなくなった宇宙で一人嘆く女がいた。

 俺だ、私だ、僕だ、あれは自分自身だ。

 何故かわからないが、そんな言葉が頭をよぎる。

 見てきた夢の、そこにいたすべての人間が語り掛けてくる。


「俺は仲間のために死んだ。そこに悔いはない」


「私は愛する人のために死んだ。悲しむ事は無い」


「僕はそうあれかしと言われ死んだ。惜しむ事は無い」


「「「けれど」」」


 全員の声が重なる。


「もし次があるなら」


「もし先があるなら」


「もし未来があるなら」


「もし過去を変えられるなら」


「もし……全てを託せる者がいるなら」


 もっと「今」を生きたかった。

 自分の中にこだまする声が一つになった。

 お前に託す、と。


「なにをだ……」


 全てだ、俺達の技術も。

 私達のテクニックも。

 僕たちの経験も。

 渡せるものは全て渡そう。

 だから、いつになるかわからないけれど、滅びゆく世界に救いを。


「……俺に、できるのか?」


 お前ならできる。

 お前になら成し遂げられる。

 お前にしかできない。


「そうか……手癖の悪い泥棒がお前たちの全てを盗む。それでいいのか」


 構わない。

 くれてやる。

 全部あげるよ。

 持っていけ。


「病気と不幸以外ならなんでも貰うさ」


 あぁ、そうか、なら……。


「バイタル安定、起床します」


 さっきまでの夢から一転、眩い光に照らされて目が覚めた。

 起き上がろうとすると頭を何かにぶつける。


「おいおい、データに反して元気だな」


「そうですね、正直に言って困惑していますよ。普通は起き上がるどころか指一本動かせないはずなのに」


「はっ、鉄面皮のお前がそこまで言うか」


「医者として一番重要なのは表情から悟らせない事です。相手の死に際まで私は無表情ですよ」


「まったく、からかいがいの無い奴だ」


 誰だ?

 と言うかここはどこだ?

 俺は攫われたのか?

 誰に……あぁ、いや、そうか。

 落ちてきたギアフレームで暴れたんだった。

 そんで宙賊……人攫いも殺しもなんでもやるカス共を殺して……気を失ったのか。


「よう、聞こえるか坊主」


「……誰だ」


 短髪のおっさんが俺を覗き込んでいる。

 咄嗟に手を挙げれば手錠がはめられていた。


「わりいな、拘束させてもらってる。つってもしばらくはその医療用ポッドから出られないだろうけど我慢しろよ」


「俺をどうする気だ」


「どうする、か。なかなか判断が早い奴だな。気に入った」


 答えになっていない。

 けど、この手のやり取りは夢でよく見た。


「……………………」


「ほう、どうなるかわかってるみたいだな。スラムのガキにしちゃ上出来ってところか?」


 よくて監獄コロニー送り、最悪の場合は銃殺刑。

 軍人の機体を勝手に乗り回したのだからそのくらいは当然だろう。

 むしろ監獄コロニー送りならいままでより良い待遇かもしれない。

 俺がいたのはそれ以上に最低最悪と言う言葉が似合う場所だったから。


「お前、軍に入隊しないか?」


「は?」


 けれど、帰ってきたのは予想外の言葉だった。


「機体の戦闘ログを確認して驚いたもんだ。天才ってのはいるってな。けどまだ粗削りでもある」


「それがなんで軍に入ることになる」


「いや勿体ないだろ。お前みたいな野生の天才をしょっぴいて捨てるとか。他に拾うやつもいなさそうだし、だったら俺達の隊にいれちまおうって魂胆だ」


「……待遇による」


 あそこに戻ることはできない。

 俺はもうあいつらに目をつけられた。

 辺境コロニーの最底辺で根を貼っているギャング共、俺のほとんどを奪っていったあいつらは生きているかどうか知らないが……それでも一度目をつけられただけで、今後他の組織ができたとしても俺の生きる場所は無い。

 奪われ続けるだけの人生になるだろう。


「金に関しちゃ上と相談だが三食寝床付きだ」


「のった」


「……早いな、もうちょい渋ると思ったんだが」


「俺のいた場所じゃ三日に一度飯が喰えれば上等だった。それを考えれば断る理由は無い」


「そうか、まぁそういう事なら面倒が省ける。ってことで俺はこいつの入隊記録をでっち上げてくるからあとは任せたぞ」


 そう言って男は俺の視界からいなくなった。


「任せたと言われても……まぁいい、お前はまだ怪我も癒えていないし栄養も足りていない。もう少し寝ていろ」


 だったら起こすな、そういい返したかったが甘い匂いと共に眠気が襲ってきた。

 睡眠ガス、その一言が頭に浮かんで、全てが闇に飲まれた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ