僕の主は、婚約破棄モノのやられ役でした・・・。
趣味は創作小説投稿、さんっちです。広く浅く触れてます。
事実は小説よりも奇なり、じゃなくても良いじゃないか。
「ここに宣言しよう。俺とカリンの婚約は、本日をもって破棄だ!」
第一王子トーラス・アルデバラン様の声が、夜会に響く。殿下は険しい顔をしながら、目の前の侯爵令嬢カリン・ダビー様を置き去りにして、宣言なさっていた。
「殿下、その・・・」
「何だ、その態度は?俺に文句でもあるのか!」
相変わらずの、強い言葉。もう長いこと仕えている僕も、未だに慣れない。
確かにお2人は最近、ご一緒にいる様子は見なかった。殿下がカリン様を放置しているとか、第二王子との王位継承権争いが過激化しているとか、色んなゴシップが飛び交っているけど。
まさか、こんな公で婚約破棄するまでなんて。
本当に大丈夫かな。このままカリン様と婚約破棄できても、殿下は端から見れば、我儘で身勝手で・・・相応の処分を受けるのは避けられない。
どうしてだろう。僕、こういう現場を何度も見てた。
自分勝手に婚約破棄した結果、最終的には破滅する。
そんなやられ役を、散々「紙の上」か「液晶の中」で見てきた。
「婚約破棄モノ」でよくある、お決まりの展開。
そうだ、思い出した。これはよくある婚約破棄モノ。
このままじゃ僕の主は、やられ役だ・・・!
僕は男爵令息レオ・レグルス。王城の従者で、殿下と年が近いこともあって、とりわけ近くで仕えている。
数分前、前世があったことを思い出した。ネットで創作物ばっかり読んでて、周りを気にしすぎて生きてた、平凡な日本人。
どうして婚約破棄モノに転生したんだろう。短編アンソロジー漫画を読んでた途中で、階段から転げ落ちたからかな・・・。
いや、それよりも!このままじゃマズい、本気でヤバい!!
僕の主であるトーラス第一王子は、絵で描いたような才色兼備で完璧超人。それ故に、不足している相手にはとにかく厳しい。
表情も硬くて、言動は常に威圧的。そんな恐ろしい王子に近寄りたくないと、身分が低い僕なんかが、従者の立場を押し付けられたくらいだ。
ーーーまったく。トーラス殿下の暴君には、呆れてしまう。
ーーー「無作法な奴」とか「ろくな奴じゃない」と侮辱するのも、日常茶飯事だったそうだ。
ーーーろくに剣術が出来ない相手を、一方的に叩きのめしたりしたとか。
ーーー本当に、どれだけ信頼を失えば気が済むのか。
マズい、周囲が悪意を剥き出しにしてる!このままじゃ殿下は、問答無用で「やられ役」だ!
身勝手な婚約破棄なんて、と創作物だから笑って流せた。でもそれが目の前の現実で、何より知っている人、しかも主が仕掛けているなら流せるわけ無い。下手したら、僕の今後の人生にも関わってくる!
こ、ここは殿下を落ち着かせつつ、周囲の誤解を解いて、なんとかこの場を凌がないと!ご無礼だけど、ここは正面から!!
「で、殿下!お言葉ですがっ!」
「レオ、何故お前が出る。まだ下がっていろ」
「いえ、いえいえいえいえいえ!いいい、一旦、おお、落ち着きましょ?こ、こここ、このままでは、たたたたっ大変なことに!」
お前が落ち着け、なんてツッコミなんか聞こえない。殿下に降りかかる悪評を吹き払うことしか、僕には頭に無かった。
とにかく、弁明を。殿下に対する誤解を、解きたかった。
「一言っ、一言だけ申し上げます!殿下は・・・厳しくも優しい方ではありませんかっ!!」
だって、こんな僕を見捨てずにいてくれてるんだ。貧乏男爵家で育って、ろくに教育を受けられなかった、世間知らずの無作法者を。
それに殿下は厳しい言葉で終わらず、真正面から接してくれた。
①「お前の俯く態度が気に入らん!無作法な奴など、俺に仕えるな!」という注意
↓
「さっさと覚えろ!」と、王子自らが礼儀作法を教えてくださった。
②「何故、この国の歴史すら把握していない!?ろくに教育を受けなかったのか貴様!」という言葉
↓
「さっさと学べ!」と、殿下が使っていた教科書を譲っていただいた。時には授業もしてくださったこともある。
③「まさか、そんな剣術が通用すると思っているのか!?精々、一兵卒と相手できるようになれ!」とボロ負けした鍛錬
↓
「俺と相対できるようになれ!」と、それから定期的に稽古してくださった。
「殿下は自他ともに厳しい性格に、強い口調や行動から、怖い部分ばかり見られてしまう。そんな、勘違いされやすい方です。
ですが、僕は知っております!王族としての誇りを胸に秘め、血が滲むような努力を重ねつつ、その苦労を微塵も表に見せない。
推しても推しても、幸福でしかありません!あぁ、殿下にはもっと報われてほし・・・あ」
ま、マズい!ここまでの心の声、限界オタクみたいに片っ端から話して、周囲を完全に置いてけぼりにした・・・。
殿下に至っては、ジッと睨むように見ている!あぁ、これで完全に信用を失った!
ここまで暴れた僕にこそ、ろくな展開が待っていない・・・。
「・・・ありがとう、そんなに思ってくれたのか」
○
【トーラスの心情】
レオが好きだ、そう思ったのはいつからだろう。
幼少期から「強い君主になれ」という教えを真に受けすぎて、気付いた時には暴君と見られて孤立していた。一目で怖がられ、距離を取られ、あらぬ噂を広げられていく。
それでも帝王学を叩き込んだからこそ、得られたモノだって多い。今更、自分を変えるなんて出来なかった。
だから俺は独り。そんな時に出会ったのが、レオだった。
立場上、離れられなかったのかもしれない。それでも懸命に日々をこなし、暴君として振る舞う俺を受け入れてくれる。「慕っている」とハッキリ言って、俺を愛してくれる。
いつの間にか堕ちていた、次第に惹かれていった。第一王子として振る舞うのも、困難になってきたくらいには。
あぁ、もう良い。王族とか色んなモノを取っ払って、コイツといる未来が欲しいんだ!
○
「あの、トーラス殿下!?ちょ、殿下ぁ!?」
え、また慌てすぎ?誰だって満面の笑みでお姫様抱っこされ、髪や頬やらに何度も口付けされたら、慌てて当然じゃないか!
「殿下・・・は、ご説明できそうになさそうですね。
皆様、改めて私が宣言致します。我々の婚約は既に、国王陛下の承諾により白紙になりましたわ」
・・・え?カリン様、既にご存じだったのですか?というか、婚約が白紙!?
「えぇ。トーラス殿下の王位継承権を第二王子に譲り、私と第二王子の婚約を容認してくださりました。
私がトーラス殿下といるのが少なかったのは、第二王子へのご挨拶で・・・って、トーラス様!?」
その日の夜会。第一王子は王位継承権を放棄して、愛する使用人を抱えながら王城を飛び出し、どこかへ消えていったという。
展開も急だし、脈絡も薄い。ちゃんと物語にするのなら、もっと肉付けして壮大にしてやりたいけど・・・これが僕の経験した婚約破棄モノ。
僕の主は口下手で、一人でアレコレ抱え込む人。
それでも優しくて、他人思いで・・・いつまでも僕の大切な人です。
fin.
読んでいただきありがとうございます!
楽しんでいただければ幸いです。