表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/24

02 ˩˧˥˨˦ 小さな町

 突然だけど、『コㇿポックㇽ』(korpokkur)って知ってる? 北海道の伝説に現れる小人のことだ。その名前はアイヌ語で『(ふき)の下の人』という意味のようだ。


 その名の通り、木の葉の下にいるくらいだから随分体が小さい人だということね。大きさについては諸説あって、もしかしたら他の地域のコㇿポックㇽは違うかもしれないけど、私の知っているコㇿポックㇽたちは人間のちょうど10分の1サイズになっている。


 普段コㇿポックㇽは森の中に住んでいて、あまり人間に知られていなくて謎も多いけど、私の住んでいるこの北海道の隅っこの小さな町では人間と一緒に暮らしているコㇿポックㇽがいる。しかもみんなは日本語もアイヌ(イタㇰ)流暢(りゅうちょう)(しゃべ)れるようだ。


 なお『コㇿポックㇽ』はアイヌ語の呼び方で、『ロ』と『ル』ではなく、小書きの『ㇿ』と『ㇽ』が使われているけど、それが一般日本人(シサㇺ)にとって発音しにくいから、日本語では『コ()ポック()』と呼ぶ方が一般だな。そしてアイヌ語は『パ』(p)と『バ』(b)の区別がないため『コロ()ックル』と呼ぶことも多いようだ。


 私もアイヌ語があまりわからないから、最初は正しく発音することができないけど、コㇿポックㇽたちと一緒に暮らしていたら自然に発音に慣れてきた。まだアイヌ語が喋れるわけではないけど簡単な単語くらいならわかる。


 そんな私、原瀬川(はらせがわ)澪梨子(みおりこ)は、実はこの町出身ではなく、今年の冬から両親の都合で本州から北海道へ引っ越ししてきたばかりだ。今でもまだこの町のコㇿポックㇽのことはいろいろわからないところが多くて勉強の途中だ。


 具体的にここは北海道のどこかは秘密にしておこう。内陸で海とは近くないだけは確かだ。それと、札幌からもかなり遠い。


 ここは辺鄙(へんぴ)で小さな町だけど不思議で神秘な場所で私はとても(なまら)好きだ。なにせコㇿポックㇽが人間と暮らしているのはここだけのようで特別だから。


 そして私の家にも可愛いコㇿポックㇽの女の子が住んでいる。しかも2人も。


 水色のコㇿポックㇽ、ロㇰペㇾタㇻ(Rokpertar)。


 桃色のコㇿポックㇽ、セㇷ゚チㇱレㇺ(Sepcisrem)。


 どれも名前が独特で難しくてツッコミしたいところだよね。これはアイヌ語でも外国語でもなく、コㇿポックㇽ特有の言語らしい。いわゆる『コㇿポックㇽ語』? 意味はとくにないらしい。


 発音に慣れていない頃は何度も間違えて校正(こうせい)されたね。省略して簡単に発音できる名前で呼ぶ人もいるけど、私はそのままにしておいた。だってなんかいい響きで私はこんな名前が好きだから。


 人間の家は小さなコㇿポックㇽにとって大きすぎて、一緒に住むにはちょっとした工夫(くふう)が必要だ。例えばこの部屋の机や本棚(ほんだな)にはコㇿポックㇽ用の小さな梯子(はしご)がついている。コㇿポックㇽは妖精ではなく翼を持っていなくて飛べるわけではないから高いところに行くには登るしかない。


 私のこのベッドだって梯子がついている。今もロㇰペㇾタㇻとセㇷ゚チㇱレㇺがこれを使ってベッドに登ったんだろう。ロㇰペㇾタㇻは朝よく私を起こしに来るし。今日もそうだ。


 私はさっきから自分の右手の中に(つか)まれていたロㇰペㇾタㇻをセㇷ゚チㇱレㇺの隣に置いて、座りながら2人を見下ろすという形になった。


 この2人が並んで立っていたら身長の差が明らかに見えるね。人間と同じようにコㇿポックㇽも多様で体格差の違いもそれなりにある。


 この前に(もの)()しで測ったのでわかったんだけど、ロㇰペㇾタㇻの身長はちょうど15.0センチで、セㇷ゚チㇱレㇺは16.8センチだ。これが人間の尺度に換算すれば150センチと168センチね。体格もその身長相応だ。だから私にとってロㇰペㇾタㇻは少し子供っぽい友達で、セㇷ゚チㇱレㇺはお姉さんって感じだよな。


 ちなみに私の最近測った身長は159センチだった。同じ尺度ならこの2人のちょうど真ん中くらいね。


 そう考えて私はつい、15.9センチくらいに小さくなった自分がこの2人の間に立って等身大になった彼女たちと並んで立っている自分の姿を想像してしまった。なんかいい感じかも。


 「なんでボクたちをじろじろ見て興味深そうに笑ってるの?」

 「あ……」


 今妄想の世界に入ってしまってつい。


 「それは……2人とも相変わらずちっちゃいな、と思って……」

 「何普通のこと言ってるの? まあ、あたしたちから見ればミオリコの方が大きくて巨人だけどね」

 「あはは、まあそうだよね」


 私が巨人……。自分が普通の女の子でいるつもりだけど、確かに彼女たちと一緒にいる時私は巨人に見えちゃうよね?


 「ボクを()み込めそうなミオリコの大きな唇は柔らかくて触り心地よくてボクは好き」

 「……」


 だからロㇰペㇾタㇻはいつも私の唇を奪ったんだよね。もう……。


 「あたしを簡単に踏み潰せそうなミオリコの大きくていい形の足は足相(あしそう)が綺麗であたしは好きだわ」

 「……」


 またそんな怖いこと言って……。それに『足相(あしそう)』って何? そんな単語初めて聞いたよ。まあ恐らく『手相(てそう)』と似た感じで足の裏の細部の形のことだろう? そんなものを意識する人はなかなかいないはずだと思うけど……。やっぱりセㇷ゚チㇱレㇺは変態だからだ。彼女はロㇰペㇾタㇻみたいに頻繁にキスしに来るわけではないけど、時々私の足を見つめたり触ったりしてくるし。ある意味やばいやつで警戒しなければならないのだ。


 「2人ともあんまりそんな変なこと言わないでよね」

 「変かな? まあ、要するにボクたちはミオリコのことが大好きだ」

 「そうよ。あたしも大好きだわ。ミオリコのあれもこれも」

 「そ、そうか。それならいいけど……」


 これは彼女たちなりの愛情表現だろうね。好きって言われてもちろん嬉しい。私も2人のことが……まあ一応好きだよ? 口に出さないけど。


 なんか厄介なところもあって振り回されて疲れてしまうこともあるけど、実際に一緒にいるとすごく楽しいしね。そんな2人のいる生活は私にとって充実だ。


私はこの物語を書くために北海道のことやアイヌ語をいろいろ勉強しました。

教科書はウィキペディアや『ニューエクスプレスプラス アイヌ語』の本(https://www.amazon.co.jp/dp/B0BP11ZZ66)などです。アイヌ語に興味がある(かた)はおすすめです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ